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For an Oath -Ⅱ

 

For an Oath - Ⅱ( 1 ​/ 2 ​/ 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 

 

 

 

 

「そうそうたるメンバーだな」

 会議の後、エドワードは思わずそう言った。

 『緋炎の月』、『旋風』、それに『琥珀の盾』のセルやフィオは、それぞれ拠点へ戻っていった。ウォーレスの家には今エドワードとアイリーン、それにつきそう形でアイカ、それにエルミオとオルトがいた。家主は席を外したまま、まだ帰ってきていない。

「『緋炎の月』も『旋風』も、高レベル者が多いからね」

 エルミオはさらに付け加えた。

「『緋炎の月』のライナスさんはもうすぐレベル160だったはずだよ」

 エドワードはぴんと来なくて、素直にたずねた。

「それは、どれくらいすごいことなのだろう?」

 うーん、とエルミオは考える。

「レベル160というのは、少なくとも400年程は冒険者として勤め、悪魔を最低7体は討伐し、そして生き延びている、という証になる。高レベルになると、悪魔討伐数を満たしていなければレベルが上がらなくなるからね。

 正直なところ、そこまでレベルが上がってしまうと、あまり能力差の判断には使えない。個人の知識や経験、得意分野の問題になってくる。あとは、種族がすぐに分かるね。400年となると、だいたいエルフ系の種族で、そして運がいい人だ」

「400年…」

 途方もない数字にエドワードは息を飲んだ。

「エルフ族は永く生きるが、冒険者になると結局は戦いの中で死んでいくときく。すごいことだな…」

「そうだね。多種族の中で生きるだけでもね。

 ところで、エドワード、会わせたい人がいるんだ」

 それで帰るのを止められたのか、とエドワードは合点がいった。つい、期待をそのまま口に出す。

「その人は、ダークエルフの女性か?」

 エドワードの問いには、オルトが首を振った。

「ちがうよー」

「そのダークエルフの女性の、知り合いかな、恐らく」

 エルミオの補足に、エドワードは悪い推測と良い推測をとっさにする。なぜ本人ではないのか…今日突然来たから別の場所にいるのか…。

 ともかく会ってみなければ。

​*

 エルミオに会ってから数時間。日の差し込み方から、夕方が近づいていると分かる。

 再び扉が開いた。

 オルトと、もうひとりが入ってきて、リーフは目を上げた。

(…エドワード)

 やわらかい色の金髪や、目の形が、遠い日のディンと重なった。今は無邪気な笑顔は無く、硬い表情だ。

 戦いの中に身を置くリーフにとって、ハーフエルフ族の王子は、少し線が細いように思えた。一般人の体格で剣を携えているせいだろう。

(この人が、ルナが守ろうとしている、ひとり…)

 思わず立ち上がったリーフに、オルトが紹介する。

「リーフ、待たせてごめん。エルミオから聞いてると思うけど、エドワードだよ」

 オルトは続いてリーフを紹介した。オルトがどう紹介してエドワードがどう反応したか、リーフは覚えていない。

 罪悪感か、虚無感か、決意か、何もかも混ざったものを抑え込んで、リーフはエドワードの前に跪いた。

「ルナティアから聞いています。エドワード、あなたをお守りします」

 エドワードは一時何も言わなかった。

「リーフ殿」

 エドワードに呼ばれても、リーフは顔を上げない。上げられなかった。

「ルナティア殿は、亡くなったのか?」

「っ、いいえ!」

 リーフは間髪入れずに否定して、エドワードを見上げた。

 続きの言葉は出てこなかった。否定したものの、本当にそうなのか確信がない…不安が心の奥でくすぶっていた。

「ルナは…」

 リーフは言葉を絞り出す。

「悪魔に囚われてメア城にいます。…。必ず、助けます」

 待っている、信じている、そう約束したことがリーフに言葉を紡がせた。

「そうか」

 エドワードは幾分か穏やかな表情でそう言って、膝を折ってかがんだ。リーフと目の高さが合う。

「必ず助けよう」

 エドワードの言葉に、リーフの肩の力が緩んだ。同時に、懺悔の言葉が込み上げ、溢れた。

「ルナが捕まったのは、僕のせいです。僕を守るために、ルナは逃げる時間を失いました。ルナは…。僕は、何も出来ませんでした…」

 エドワードの表情が曇った。刃物のような言葉を受ける覚悟したリーフだったが、エドワードが言ったのは予想外のことだった。

「うむ…私もリーフ殿と同じだ」

 エドワードはしばし沈黙した。どこか虚空を見つめた彼の表情は、リーフの心と重なった。だがすぐに、エドワードは力を秘めた目でリーフに問いかけた。

「私はルナティア殿の気持ちを背負っている…そして、支えられている。無様に生き恥を晒してでも、私には、成さねばならぬことがある。

 私は国を取り戻す。リーフ殿、貴方はこれからどうなさる?」

 これからどうするのか? ――罪悪感や無力感に埋もれていただけで、もう決まっていた。エドワードの力がリーフの目に映ったかのように、リーフもまた真っ直ぐにエドワードを見返した。

「僕はルナを信じています。ルナやルシェンを悪魔から取り戻します。何よりも、彼女の意思を継ぎ、貴方をお守りしたい」

 エドワードは小さく、どことなく面白そうに微笑んだ。

「リーフ殿は、少し父上と同じにおいがするな」

「え?」

 エルディンと同じ、におい? リーフが理解しないうちに、エドワードは続けた。

「私に仕えると誓ってしまえば、旅は出来ない。城を取り戻すまでは、共に戦おう。だが、私に仕える者は間に合っている。城の兵士なども、城を取り戻してから考える。

 あなたは自由なまま、ルナティア殿の騎士になって下され。ルナティア殿は強い。だが、あの方も人なのだ。強いばかりではないだろう」

 強いばかりではない。そう、強くはないのだ…リーフは知っていた。あの時、銀の髪に隠れたその表情は、きっと泣いていた。

 だから約束が必要だったのだ。リーフが信じて待っていなければならなかったのだ。

 約束、信じること…それによって得る力を知っているから、ルシェンのことも信じて行動していたのだ。

 強くはない。だが、ルナティアは信じて強くなることを知っている、それが出来る。だからリーフは信じていなければならない。

 リーフは再び頭を下げた。

「はい」

 そのリーフに、エドワードは手を差し出した。何事かと目を上げたリーフに、エドワードはにっと笑った。

「リーフ殿とは良き戦友となれるだろう。私は戦士に程遠いが、城のことは知っている。ともに戦おう」

 リーフも笑って握手に応じた。

 ハーフエルフの王子は、最初の印象よりも遥かに頼もしかった。

(ルナを助けて、城を取り戻したら…)

 リーフはふと、未来のことを考える。遠い日、旅に憧れを抱かせたあの人を思い出す。

(ルナと『氷樹の森』に行かないと)

 

 

「話せた?」

 エルミオがエドワードに話しかけた。

 エドワードは頷く。

「良き戦友(とも)となれそうだ。…アイカは帰ったのか?」

「うん、時間がかかりそうだったから。でも、そうでもなかったね」

「いや」

 そのほうが良かった、と言いたげな響きだった。エドワードは改まってエルミオに向き直った。アイリーンもそれに倣う。

「『琥珀の盾』ロード・エルミオ。アイリーンから話を聞きました。

貴殿はオルフィリアを庇護下に置き、冒険者として育ててくださった。その上、今、私たちに力を貸してくださっている。なんと御礼申し上げればいいのか、私には皆目分からぬが…心より感謝申し上げる。ありがとう…!」

 エドワードと、アイリーンが深く深く頭を下げた。

 

 オルトは、オルフィリア、という名前に、どういうことかと首をかしげる。リーフから聞いた話の中に、その名前が出てきたのだ。それは、ルナティアがリーフに語った話。オルフィリアというのは、王子の妹君、つまり、エドワードの妹の名前だ。行方不明になっているということだったが…。

 エルミオは、さっと屈んだ。

「どうか、頭を上げて。お礼は、ありがとうで十分ですよ」

 エドワードは仕方なく頭を上げる。エルミオも立ち上がって、微笑んだ。

「オルフィリア、というのが、偽物の真名なのですね? 両親が名付けた…」

 エドワードは頷いた。

「最初の名付けは私が行った。本当の真名は、私とアイリーンと、本人しか知らぬ名だ」

 なんのことだろう、誰のことだろう、とそわそわしていたオルトに、ようやくエルミオが教えてくれた。

 

「アイカのことだよ、オルト」

「へ?」

 ぽかんとしてしまった。

「アイカが、オルフィリアだよ」

「…ふええ??」

 びっくりしたオルトは目をぱちくりして、口をぱくぱくして、エルミオやエドワードやアイリーンを忙しく見た。

 オルトが『琥珀の盾』に来たのはアイカより何年か後だったし、実際にアイカに会ったのはもっと後だ。アイカが『盾』に入った経緯も、ほかのメンバーに聞かないのと同じように、聞いたことがなかった。

 まさか、一緒に半月まんを食べてにこにこしているアイカが、王子の妹のオルフィリアだったなんて、思いもしなかった。

 そんなオルトの驚きが収まるのを待つことなく、エドワードは続けた。

「早速で申し訳ない。相談があるのだが」

 エルミオが無言で待つと、エドワードは素直に悩んでいることを言葉にする。オルトも、まだ混乱しつつもとりあえず聞く。

「アイカには、真実を伝えるべきだと私は考えている。この戦いがアイカにとってどのような意味を持つのか、戦う相手が誰なのか、知っていなければ後悔するのではないかと思う。

 しかし、これは飽くまで私の考えだ。

 エルミオ殿、オルト殿、貴方がたはどう思われる? 長い間アイカを見てきた貴方がたは、異なる考えをもつだろうか?」

 エルミオはひとつ瞬きをした。

「アイカは、エドワードがアイカのことを思って決めて伝えたことを、ちゃんと受け止めると思うよ」

 確信をもった言い方に、エドワードは少しほっとした様子だ。エルミオは続いてオルトに意見を求めた。

「ただ、戦いの相手が相手だ。オルトはどう思う?」

 ふえっ、とまたオルトはびっくりする。気持ちを落ち着ける期間も含めて、オルトはええとええと、と呟き、考える。

「自分の知らない弱点を持っているのは、怖いけど…知っても受け入れられないと、どっちにしても危ないと思う。ええと、リューノンは、エドワードに妹がいることは知ってるでしょ? ええと、アイカって名前も? じゃなくて、オルフィリアっていうほうだけ知ってる?」

 エドワードとアイリーンは頷く。

「アイカという名前はご存知ありません。真名についても、アルフェ様とエルディン様は、オルフィリア、というのが真名だと思っておられるはずです」

「本当の真名は…私が、名付けを行った。母上は、ご存知ない」

 そうかぁ、とオルトは驚きながら呟いた。親じゃなくても名付けができるのかと、驚いたのだった。

「じゃあ思ったよりは安全かも。バレなかったらすごくいい。だから、オルフィリアって呼ぶのはやめてね」

「そうだな…」

 エドワードは頷き、なんとなく寂しい気持ちになった。何か、繋がりがひとつ、失われる気がしたのだ。その気持ちを、エドワードは振り払うようにこう考える…オルフィリアと呼んではいけないのは、戦いが終わるまでだ。戦いが終わったら、アイカにオリフィリアの名前も返してやろうと、エドワードは心の隅に決意をしまった。

 不意に、エドワードは不思議に思った。

(なぜ母上は私たちを産んだのだろう…その時は、母上自身であれたのだろうか…)

 エドワードが生まれる前から、アルフェは悪魔と契約していた、と聞いている。

 どうして自分たちは生まれたのだろう。

 アイカを逃がしたのはエドワードだ。

 アルフェは、あの重い空気の立ち込める城の中でも分かるほど、異様な何かをまとっていた。少なくともエドワードにはそう感じられた。

アイカをアルフェの近くにいさせたくないという気持ちが、衝動的に起こった。その時十歳だったエドワードは、側近だったアイリーンにアイカを託し、城に戻るなと命じて“外出 ”させたのだった。

 今思えば、アイカだけは逃がしたいという気持ちはずっと心の奥にあったのだ。それが表面化しただけだ―――あの城の中で、自分を抑えざるを得なかった空気の中で、その気持ちだけは行動に起こすことができたのだった。思いが強かったのか、精霊に助けられたのか、はたまた悪魔に誘導されたのか…。

 

 考えに耽ってしまったエドワードだったが、オルトの声が彼を引き戻した。

「ほんとはね、アイカは、参加しないほうがいいと思う…」

 オルトは言った。もどかしそうに付け加える。

「でも、それだと、いろいろ、後でいやだと思うし…うーん…だから、相手がリューノンだってことだけ考えて言うとね、危ないんだけど…ちゃんと受け止めることができるか、アイカがいるってバレないようにするか、あ、あと魔法使いを一緒にいさせないと危ないかも。あとレイキも」

 つまり、結局オルトの見解では、アイカは参戦させないほうが良いということだ。

 参戦させるにしても、アイカが事実を受け止めきれないままリューノンと対峙すれば、悪魔の好物・悲劇の材料として利用される可能性が高い。

 だが、とエドワードは可能性を言葉にする。

「アイカが生まれたときには、母上は悪魔と契約して長かった。…私たちを生んだのは、悪魔なのだろうか、それとも、母上なのだろうか?」

 もし後者なら…という思いを、エドワードは言葉に出来ずにオルトに目で問った。

 オルトは口ごもって、おずおずと言う――その様子だけで、聞く前にエドワードは分かった。

「エドワードのお母さんではあったと思う。けど、悪魔に歪められた状態だったと思う…」

「そうであるならば…母上は、歪んでいても、私たちを生むほどの心をもっていたということになるのでは?」

 希望を込めて言ったわけではない。エドワードの予想通り、やはりオルトはさらに表情を曇らせた。

 エドワードは付け加える。

「推測のひとつを言っているだけで、夢を見ているわけではない。アイカの気持ちと、戦いのこととを考えたとき…もし前線に出てアイカが役立つとするなら、母上が母の心を持っていた場合だろうと考えたのだ。オルト殿、どうなのだろうか」

 オルトはそれでも、どう言うか迷っていた。

「そうだとしても…重要なのは…理由なんだ」

「理由? 生んだ、理由ということか」

 オルトは頷く。

 それだけしか答えなかったオルトに変わって、誰かがオルトの声で話した。

「子が親を討つ、そんな悲劇も奴の好物だからな」

 悪魔シュラインだ、と分かった。あまりにもオルトとは違う。シュラインが去ったあと、オルトは申し訳なさそうに体を縮めた。

「そうか…」

 エドワードの声にオルトが顔を上げた。

 考えこんだエドワードが傷ついた表情に見えたのは、オルトの気のせいなのか、わからない。

「先程の方が、シュライン殿なのだな」

 会議にいたメンバーは皆、もうオルトとシュラインのことを知っていた。しかし、エドワードが実際にシュラインを見たのは初めてだった。

「私からアイカに全て話そう。最後はアイカ自身が決めねばなるまい?」

 オルトやエルミオに問いかけ、やりとりを経たことで、エドワードの考えはまとまってきていた。確信をもって、最後に二人へ問いかけたのだった。

 話しても話さなくても、アイカの弱点になりえるのなら、アイカが受け止めることを願って話したほうがいい。オルトも確かにそうだと思った。戦いに参加するかどうかは、その後だ。アイカの安全だけを考えるなら、参加させないほうがいいのだが。

「レイキにも話してあげるといいかもね」

 エルミオが何気なく言った。

「一番近くでアイカを見てきたのはレイキだから、良いサポートをしてくれると思うよ」

 そうだねー、とオルトも頷く。

「レイキも心配性さんだもんねー。アイカのことだと色々気づいてわっちゃーってなりそう」

「アイカが悩んでることを察知して、妙な誤解を生むかも知れないね」

 エルミオの”訳”にエドワードは頷いた。そして、レイキ殿か、とエドワードは『空の鈴』の騎士を思い出す。

 アイカに対してはそうでもないのだろうが、無愛想な剣士だ。なぜか、壁を作られているように感じる。

(自分では分からないが、やはり何か、アイカに対してだけ、態度が変わってしまっているのだろうか?)

 そうだとすれば、と、エドワードは難しさを感じる。

(アイカを大切にしてくれているレイキ殿が私を警戒するのも無理はない。なぜ警戒されてしまったのか、原因を知らねばならないな…。

 ともかく、やはり、傍でアイカを支えられるのは、レイキ殿だろう)

 エドワードは頷いた。

「ありがとう、エルミオ殿、オルト殿。レイキ殿とアイカに、真実を話す。どうか…アイカを、この先も、支えてやってほしい」

 エルミオは笑った。

「もちろん。だけど、エドワードも一緒に、ね」

 予期せず、心の底の思いを見透かされたような気がして、エドワードは慌てた。

 エドワード自身、もやもやしているだけの気持ちだった、それを、エルミオが言葉にしたことで輪郭が見えた。

(私は二歳までのアイカしか知らない。何も知らない。何もしてやれない…と、感じていたというのか…)

 まだ心の整理がつかず、エドワードはごまかして笑った。もやもやと、まだ何かがある。

 

 アイリーンを連れて、エドワードはアイカたちのいる拠点への帰路へ着く。迎えに来たティラと合流した。

 それでもまだ、もやもやと、エドワードは考える。

(アイカのために、私は一体何ができるというのだ?

 いいや、やはり私にできることは、皆無といってもいいだろう。

だが、全力でやろう。そうでなければ、私は…本当に、何者でもなくなる気がする…)

 その思いと重なって、あの城の中での日々が蘇った。

 自分を押さえ込み、無表情に、無感情に、できるだけ母を避けて、害さず害されず、自分を守る日々。一体何をやっていたのだろう。何のために生きていたのだろう。誰も信じないあの場所で、ただ、アイカの無事だけを信じた。父が諦めていないことも感じ取り、虚しさの中で生きた。それがエドワードの全てだった。いつの日かこの事態に誰かが気がつき、何かが動き出すかも知れない、そんな夢物語を漠然と思い浮かべていた。

 やがて落ち着いた頭で、エドワードは気がつく。

(そうだ、私はアイカの兄でありたかったのだ…)

 それがあの時唯一信じることの出来た事で、エドワードがエドワード自身であるための、唯一の標のようなものだった。

 だが、状況は変わった。

(アイカの兄でいられないとしても、他の受け継いだ意思をないがしろにする理由にしてはならない。私は国を取り戻す。必ず)

 望まずにはいられないと、エドワードは悟った。これまで、アイカが生きているという事が一番の心の拠り所だったのだ。

 使命と、自分の望みとは全く別問題だ。分かってはいた。

(必ず…母上を、討たなければならないだろう。私が。そうなれば…)

 そうなったら、アイカの兄でいられるのだろうか――そうであっても、なすべきことを為すしかない。

 

 

 

 

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