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For an Oath:Reverse -Ⅳ.形作るもの

     精鋭部隊メンバーでのクエスト。

      エドワードたちは、悪魔の影響の結果と向き合う。@1770~

 

これまでのこと(For an Oath-Ⅲ)

 

For an Oath:Reverse (  / Ⅱ-1 / Ⅱ-2 /  / Ⅳ / Ⅴ-1 / Ⅴ-2 )

 

 

 

 エラーブル村に残ったパーティメンバーは、エドワードと、ライナス、レスター、スーラ、コロナだ。アイリーン、アイカ、フィオ、リーフ、アーシェ、メルはダンジョンへ向かった。”畑荒らし退治”の依頼をもらった今回、来る戦いでの班分けと同じメンバーで動いていた。

 早朝からフィオのパーティはダンジョンへ。残ったメンバーは、村魔法使いが黒幕である可能性を考え警戒して、村人に対しても目を光らせていた。

 レスターは村長のところにいた。ライナスとスーラ、エドワードとコロナは、二手に分かれて見回りだ。

「『琥珀の盾』には、二十六年も前からずっと世話になってきた」

 村の中、土の道を歩きながら、エドワードは感謝を言葉にした。

 二十六年前の幼い日に、フェリシア――つまりアイカと、アイリーンを城から逃がした。エドワードはそれから、アイカがどこかで生きているという望みにすがるようにして、城の中で生きていたのだ。

 『琥珀の盾』ガーディアンであるコロナへ、ようやくお礼を言う機会ができた。ありがとう、と言ったエドワードに、コロナはふふ、と笑った。

「こちらこそ。アイカさんが来てから、双子は少しマシな騒がしさになりました」

 うむ? と、エドワードは不思議に思う。そよ風に吹かれて、コロナは何かを思い出すように視線を上げ、微笑んだ。

「アーシェとメル、それに、ティラさんが、アイカさんの母親代わりをしていました。アーシェとメルは、与えたものより得たもののほうが余程多いようですよ」

 エドワードは、不思議な優しい感情が体中に広がるのを感じた。アイカが予期せずもたらしたもの。それを、感謝してくれているコロナ。巻き込んだというのに…今さら、「巻き込んですまない」などと野暮なことは言わないが。

 代わりに、こう言った。

「アイカは、良い出会いに恵まれたようだ」

 そうですね、とコロナ。

「アイリーンに感謝しないといけませんね」

 アイカをエルミオに預けたのは、アイリーンだ。エドワードは頷いた。アイカのことだけではなく、アイリーンには感謝してもしきれない。しかし、だから、エドワードは自分に唯一できる、戦いに勝ち国を治めることを、何が何でも成して、それも良い結果に導き続ける努力を怠ってはならないと自らに課していた。それはアイリーンのためだけにすることではないが、それがアイリーンの望むことだろうと、エドワードは感じ取っていた。

「私は…」

 エドワードが言い終える前に、コロナがぱっと動いた。ほとんど体当たりするようにエドワードにぶつかる。突然のことで、二人はバランスを崩して倒れた。

 

 風が、かまいたちのような風が、さっきまで立っていた場所で吹き荒れるのを、エドワードはコロナの服が激しくはためいたので感じた。

「走って――《盾》っ」

 エドワードは、ともかく、ライナスとスーラがいるであろう村の反対側へ走る。

 相手が村魔法使いだった場合、村人が見ていないこの場所で戦っても無駄だ。戦って、傷つけたこちらが悪者に仕立て上げられる可能性がある。

 相手を確認する時間はない。エドワードの背中はコロナが守り、すぐに一緒になって走った。

「 打ち上がって ティア《光》 」

 一時走るスピードを落としながらも、コロナは魔法の光を空へ上げる。これでライナスたちには伝わる。

 不自然なくらい村人は見当たらなかった。先程まではみんないたはずなのに。

 不穏な空気を感じながら走る二人の前、民家の影から、村人の一人が姿を現した。

 村魔法使い。

 エドワードは思わず足を止めた。コロナは背後への警戒で気が付くのが遅れた。エドワードの視線を追って気が付く。

 コロナは息を飲んだ。しかし、すぐに、平常心を取り戻したようだ。エドワードと並んで立ち、魔法使いに話しかけた。

「あなたの召喚獣ですか?」

 魔法使いの反応は薄かった。

「そうですよ。一人は殺されてしまった。だから、もう、あなたたちを殺すことにした」

 全く意味がわからなかった。だが、問答の時間もない。

 幾本もの長い剣のようななにかが、二人に襲いかかった。背後から追ってきた召還獣の攻撃だ。

 コロナは、《盾》を自らにかけてエドワードをかばいながら、鋼の蔓に捕われまいとかわす。

 コロナは魔法使い。どうにかこの状況を打開するには、集中する時間が必要だ。

 エドワードは剣を抜いた。スペルストラップには、《盾》が込められている。

「コロナ殿、唱えて!」

 召喚獣に対峙して叫んだ。相手は、鋼のような長い尾と、大きな灰色の、鳥のような二本足をもっていた。その足の上に、茶色がかった白っぽい動物のようなものがくっついている、そんな姿だった。

 獣はエドワードに向けて、その尾を振り下ろす。

「《盾》っ」

 剣でも防ぎながら、エドワードは唱えた。バシ、バチ、と激しい音がし、《盾》が攻撃を防ぐのが分かる。ちゃんと発動した! ――実戦で魔法を使うのは初めてだった。

 その後、どうするのか。《盾》はせいぜい3秒ほどしかもたないと聞いていた。もう一度唱えるか?

 エドワードが結論を出す前に、唐突に風景が変わった。鋼の尾はなく、目の前には誰もいない。一瞬混乱したエドワードは、背後でコロナが唱えるのを聞いた。

「《早く》――《早く》」

 二回。そして、エドワードはコロナに腕を引かれて走った。信じられないほど体が軽く、半分飛んでいるように走る。

 どういうことなのかと一瞬振り返ると、すでに遠くなりつつある村魔法使いと目があった。彼も、ようやく状況を理解したようだった。あの目は、諦めていない。また追ってくるだろう。

 エドワードも理解した。コロナは、《空間移動》がとても上手なのだ。多分、そういうことなのだ…魔法使いと召喚獣に囲まれた状況から、《空間移動》で脱出し、今、走っている。

 ふとコロナの腕が目に入ったエドワードは愕然とした。

「コロナ殿…腕が…!」

「大丈夫です。―――《痛くない》」

 左腕、肘のあたりから手の甲にかけて、数本の鋭い裂傷がはしっていた。血が滴るのも構わず、コロナは走り続ける。応急処置の魔法は使ったようだが、大丈夫なはずがないのに。

 

 すぐに、向かってくれていたライナス、スーラと合流出来た。回復術士のスーラはぱっとコロナの怪我に目をやる。右腕も、左腕ほどではないが裂傷があった。回復の時間はない。コロナは構わず言った。

「村魔法使いと、遠距離可能な召喚が一体、こちらを殺すつもりですぐ来ます」

「了解」

 ライナスもスーラも声を揃えた。スーラは、片手で扱えるハーフソードをすらりと抜き、エドワードたちが走ってきた道の方へ歩を進めた。

「ああ、もう来てるね」

 ライナスは、人間離れした――エルフなのだが――身のこなしで、民家の屋根に上った。そして、容赦なく、矢をつがえ、何かを唱え、放った。

 矢は真っ直ぐ、走っていた召喚獣の尾をかいくぐり、動物のようなその頭を貫く。そして、爆発を起こした。

 エドワードは思わず目をそらした。しかし、はっきりした印象を残すことなく召喚獣は消え去った。そうか、召喚されたものだった、とわずかにエドワードは安堵する。

 召喚獣が倒されたことに気がついた村魔法使いは、発狂せんばかりの叫び声を上げた。

「前に出てはいけませんよ」

 コロナは、先ほどよりもずっと深刻な声でエドワードに言った。それから何かぶつぶつと唱え始める。

「コロナ殿、今なら、止血を…」

 言いかけたが、エドワードは口をつぐんだ。既にコロナは、戦いの中にいた。まとう空気は戦士のそれで、マナを扱い、戦況を把握することに集中している。

 魔法使いは風の魔法を乱発する。スーラはことごとくそれを躱し、防ぎながらあっという間に距離を詰めた。

 魔法使いの腹に拳を入れ、ひるんだところをひねり上げ、首に刃を当てる。

 あっけなかった…終わりだ。

 魔法使いは、スーラに拘束されたまま吠える。

「早く殺せばいいだろぉ! どうして、私を先に殺さなかったぁ、弓使い! あの子達が死ぬところなど! 見たくなかった!」

 慟哭だけが聞こえた。哀れだ。

 スーラは手を緩めず、刃も下ろさなかったが、魔法使いに言葉をかけた。

「おまえの大事なあの子達の名前を聞いてもいいかい」

「おまえなんかに!」

「…そうだね。墓を作ってやろうと思う。あとで村の…」

「殺せるものか!!」

 魔法使いの様子が変わった。

 薄暗いもやが魔法使いから湧き出し、生暖かい風が広がるように吹く。

 エドワードはそれを知っていた。三十年もそこにいた。この空気、雰囲気、その中に。

「奴だ…」

 エドワードのつぶやきは、ライナスが放った警告でかき消された。

「離れろ、スーラ!」

 予めかけていた《魔法防御》がスーラを守っていた。だが、あっという間にそれは解けてしまう。コロナが重ねるように《魔法防御》をかけ、どうにか継続させる。

 スーラの拘束から解放された魔法使いは、膝をつき、両手を広げた。

「 おいで、いつものように。畑を守るんだよ、《エラーブルの守護者たち》 」

 倒したはずの召喚獣が、目視できる暗い空気を纏って再び出現した。それも、二体。

 悪魔の業に目を見開いた。その気配は、城で感じたものとは違って規模も小さく、隠れることもしておらず、底は知れていた。それでも近づきすぎれば取り込まれ、飲み込まれてしまいそうな深さをもっていた。奴だと、エドワードは思ったが、奴の一部、かもしれない。

 

 立ち尽くしていたその時、足音を聞いて、はっとエドワードは振り返った。コロナはスーラを守るのに忙しい。

「なんてこったい」

 レスターは状況を見るなり眉をひそめた。一緒に村長もいる。呆然と召喚獣や魔法使いを見て立ち尽くしていた。

「エド、村長係に任命する」

「は…ああ…」

 やや反応が遅れたエドワードのところへ、レスターは村長をひっぱってきて、その腕を掴ませた。

「村長」

 レスターは強めに村長の肩を叩いた。はっ、と村長はレスターを見る。そして、すがった。

「ど、どうすれば…あれは…あの二匹は、いつも畑仕事を手伝ってくれるいい子たちなのに…彼も…どうすれば…」

「こうなったら悪魔を払うことはできません」

「…」

「仮に悪魔を倒し契約者が生きていても、影響が残ります。彼のように、多大な影響を受けていれば、今後の生活にも影響が出ると思われます」

「…」

 村長は口を開くものの、言葉が出てこなかった。

(リュンヌ…)

 エドワードは思わず、精霊に呼びかけた。

 レスターの説明通りなら、エドワードだって殺されるべき人物なのかもしれなかった。三十年もあの城にいた。たしかに暗い気持ちになっていたのだ。違うのは、エドワードには精霊リュンヌ《太陰を象る者》の加護があったこと。

 だから、あの魔法使いのように、体から暗いもや――悪魔の一部のようだとエドワードは感じたそれ――が出てくるようなことはない。

(リュンヌ…どうにかならぬものか…!?)

『精霊は、誰をも助けることが出来るわけではないのだよ』

 静かな応えがあった。

『それに、防ぐことはできても、払うことはできない』

 わかっていた答えだった。エドワードは拳を握り締めた。

 

「村長、これは…!?」

 近くの民家から数人が出てきた。このまま人が集まってきては、戦闘に巻き込む可能性がある。

「ここは危険です、逃げてください」

 レスターは真剣に言ったが、説明なしでは村人も納得しない。

「だけど…」

 その時、召喚獣の尾が周囲の民家の屋根に降り注いだ。狙いの先にいたライナスは、躱さずに、むしろ全部を《盾》で受け止める。それから身軽に地上へ降り立つ。腕利きの冒険者たちは、被害を広げないようにしつつ、村の判断を待っているのだ。しかし、時間が経てばどうなるか、目に見えている。

「この方の言うとおり、逃げなさい」

 きっぱりと言ったのは、村長だった。

「もう終わらせてあげましょう。彼らは、もう、よくやってくれました」

 涙声になった村長の言う意味を感じ取り、村人は召喚獣や、それをフォローして魔法を乱発する村魔法使いに目をやった。村人も、事情を知っていたのだろうか。

 悲しい諦めの表情で、村人は頷いた。

「よろしくお願いします」

 村長は、レスターに言った。

「助けてくれと、言えなかったんです。悪魔が、彼を変えました…村を人質にされ、彼は、自作自演で、依頼を出したり、畑を荒らしたり…もう、終わらせてやってください…私は、どうしてやることも出来なかった…」

 レスターは頷いた。

「引き受けました」

 そして愛用の剣を抜いた。

 

 スーラ、レスターが剣を握り召喚獣と魔法使いと戦う。ライナスが攻撃サポートし、コロナが防御や補助魔法でサポートする。四人も揃えば、決着がつくのは早かった。

 村魔法使いは尋常ではない速さで魔法を使っていたが、正常な精神状態でなくなった彼の魔法は戦略も何もなかった。四人はやすやすと躱し、あるいは防ぐ。二匹の召還獣は、十秒とかからず、わずかな隙をまっすぐライナスが射抜いた。

 村魔法使いは一人になった。血走った目でスーラを追い、叫び、手を振り上げる。風の魔法が鋭く飛び、コロナがそれを相殺させる。それと同時に、レスターが突っ込んでいた。

 防具も何もない村魔法使いを、レスターの剣は簡単に貫いた。その一瞬前から、コロナは何かを唱えながら彼らに駆け寄った。それは、自らの腕にもかけていた呪術の一種《痛くない》。定形魔法であるがゆえに、そのまま使えば一定までしか痛みは軽減できない。それをあえて、コロナはそのまま魔法使いにかけた。痛みの全ては取れないが、それでいい。死の予感を奪い去れば、最期にやりたいことを見失う。

「最後に言い残したいことは?」

 レスターに問われ、呆然としていた魔法使いは、ようやく現実に追いついたようだ。

 泣きそうに顔を歪めて、揺れる声が一言だけ発せられた。

「頼む…」

 村魔法使いの体から突き出た柄を握ったまま、レスターは力強く応えた。

「任せろ」

 剣は引き抜かれた。

 

 魔法使いの慟哭や、最期の言葉や、消えてしまった召還獣たちや、村長の落ち込みや…それらは初めて、この戦いで失うものの予感をはっきりと現実に示した。これまで話し合ってきたこと全て、うまくいっても行かなくても、この未来があると分かった。それは、ただ知っているということではなく、心に刻まれた、理解だった。

 

 

 村魔法使いは、ダリル、という名前だった。

 

 レスターとエドワードは、埋葬の準備を進める村人たちを遠巻きに見守っていた。そんな二人へ、村人たちは時折複雑な表情を向けた。エドワードはそれを、肌で痛いほど感じ取る。

 ダリルを、あの召喚獣たちを、殺した戦士二人が、どうしてここにいるのか、と。責める視線や、訝しむ視線も多くあった。

 村人は、冒険者ではない。悪魔や、契約者や、戦いなどとは遠い場所にいるのだ。理解など、すぐに出来るはずがない。仲間が死んだのだ。

 それでも、レスターはそこにいた。こういう場も経験があるのだろう、入りにくいこの空気の中、距離を置きながらもそこに留まっていた。

 エドワードも、そこにいた。何ができるのか分からない。それでも、そこにいなければならない、と、何かが駆り立てるのだ。

 何度か村人から声を掛けられた時、レスターは丁寧だった。誠実であった。すると、村人の態度はほんの少しずつ変わった。そうして、最後まで、近すぎず、遠すぎず、村人がダリルに別れを告げる過程を見守った。

「頼む、と」

 レスターは、静かに、村人たちに告げた。誰に言うわけでもなく、独白のように、ただし村人に聞こえるように。

「ダリルさんの最後の言葉です」

 静かだった。誰かが泣く音がした。

「その言葉と共に、我ら冒険者は、悪魔討伐に臨みます」

  レスターは、言った。誓いのようだった。その誓いはレスター自身だけではなく、エドワードの心にも響いた。長く冒険者を続ける者たちは、こうして生きてきたのだ。エドワードは畏敬の念を覚えると同時に、戦友に感じるような親近感を覚えた。

 レスターは、この冒険者は、いったい、どれだけの誓いをもってここまで来たのだろう。エドワードにはわからなかった。だがそれは、数など関係なく、ひとつひとつ背負ってきたレスターを形作る大切なものたちなのだと、それだけ感じた。

「倒してくれ。頼む」

 おじさんが力強く言った。

「村のことは、任せてね、ダリル」

 おばさんが語りかけた。

 

 

 

 返事をしてくれた村人もいた。だが、エドワードの脳裏に焼きついたのは、レスターを睨んだ若者だった。レスターはあれ以上何も言わなかったが、そのことに気がついていたように思う。

 契約者を討つとは、こういうことなのだ。

 それでも、レスターは、あの場にいて、ダリルの言葉や、引き継いだことを伝えなければならないと考えていたのだろう。

(これが、冒険者か…――)

 ダリルが、村人の悲しみが、精鋭部隊が、アイカが、エドワードの脳裏を過る。

 冒険者は、いったい、どれだけの誓いをもってここまで来たのだろう。エドワードにはわからなかった。

 放浪癖のあった父、エルディンを思い出した。エルディンは長男ではなかったという。だから自由奔放だった。直接、自分の足で各地に赴き、自分の目で見て、実際に感じた。その結果、だろうか。詳しくは分からないが、王位を継いだのはエルディンだった。

 エルディンもまた、国中で様々なことを経験したのだろう。今日エドワードの心に焼き付いたこの出来事、これに似た経験もしたことだろう。

 村に悲劇をもたらしたのは、悪魔だ。その一端を担ったのは、アルフェ。王族。エドワードの母。エルディンの妻。解決するためには、冒険者の力が必要だった。それが冒険者の仕事ではある。だがエドワードは王族で、冒険者も含めた国民を守る義務がある。

 そして、義務など関係なく、エドワード個人もそう望んでいた。守るべき人たちを守りたいし、その中に、本当にただ個人的な理由から守りたい人がいるのだ。

 もう、こんなことをいくつも経験させたくなかった。

 

 

「契約者を救うことは出来ないのだな…」

 皆の元へ戻る道、足を進めながらエドワードは呟くように言った。

 迷うような間があった。

「いや」

 否定らしき言葉の後、レスターはまた考えをめぐらせているようだ。やがて、難しい顔のままで続きの言葉を紡ぐ。

「危険を…避けた。俺たちは…。…悪魔を倒すのに躊躇はないが、契約者は人だ」

 言葉にするのは、酷く難しいようだ。レスターはもともと、話すことはそれほど得意ではない印象がある。どうでもいい話題は話せても、そうでないことは、慎重になる。

「悪魔は…これは、ロードやココルネから聞いたことだが、もともと、人が原因で生まれるものだ。それは、人を消すことができないらしい。俺は違う、悪魔は人を消すこともあるって思ってる。まあ、それはともかくだ。

 もし、あの時…こんな話を今更しても仕方ないんだが…ダリルと仲のいい村人がいて、そいつが必死になってダリルに語りかけてたら、何かが変わった可能性はある」

「しかし…!」

 レスターも、精霊リュンヌも、「悪魔を払えない」と言ったのに。レスターは難しい顔で、深いため息をついた。

「もちろん、呼びかけたり色々やっても、悪魔をはらうことは出来ない。だが、契約者は、躊躇することがある。少しだけ正気に戻ることがな。あの時はそれを待てなかった。待てば村は壊され、人は死ぬ。あの空気は異常だった…」

 ダリルから噴出してきた黒いもやと、生暖かい風。悪魔の一部。レスターの言葉を否定する術を、エドワードはもっていない。

 レスターは、迷ってから付け足した。

「ダリルは、契約者じゃなかったはずなんだが…。どういう話になって契約が絡まってダリルを巻き込んだのか、推測しかできん」

 契約者ではなかったなら、どうにかすれば救えたのか? と、エドワードは問うことができなかった。代わりに脳裏に浮かんだのは、アルフェと、その人を取り巻く悪魔の空気。

「俺たちは、大きくて確実な被害と一緒に、何か…可能性を潰した」

 無言で歩くエドワードの背中を、唐突にレスターがばしっと叩いた。

「うっ!?」

「ダリルを引っ張り戻せる奴は現れなかったが、アルフェには、エドワード、お前がいる。俺たちもいる」

 そう言って、レスターは、エドワードの肩をとんとんと叩いた。

 

 

 

 

 

これまでのこと(For an Oath-Ⅲ)

 

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※残酷な描写が含まれます。ご注意ください。

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