For an Oath -Ⅲ
For an Oath - Ⅲ( 1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 )
「でも、《転移先》魔法陣は? 空間の精霊がついてるからって、知らない場所に《転移先》なしじゃ無理でしょ?」
テレポートの話が出ると、メルが速攻で突っ込んだ。
食事会は終盤、リンゴのコンポートと紅茶を各々つまみながらの会話だ。デザート直前に、アイカのテレポートのことをセルが話したのだった。それまでは本当に、ただの食事会だった――会話は、クエストやダンジョンの話など、冒険者の内容が多かったが。
「それについても、昨日の会議で話し合いました。
その前に、テレポートは飽くまで理想的な形だということを覚えておいてください。相手方に悪魔の力が加わり魔法封じの力が不確定ですので、結局、テレポートは賭けになってしまうのです」
「だよねえ」
とアーシェ。
「出来たらお得だね。出来なくても、普通に突入すればいいんでしょ?」
スーラはなんでもないことのようにそう言う。
セルは頷いて、続きをはなした。
「《転移先》を、魔法陣破壊班に託します。
一箇所目の塔に設置してもらうのです。『緋炎の月』のレフィーヤさんに魔法陣管理を任せます」
それを聞いた各々は考えを巡らせた。
魔法陣破壊班、つまり、クレィニァと、レフィーヤ、シャルアというたった三人のパーティだ。
空人のクレィニァが二人を連れて、二箇所の魔法塔を攻め落とす。一箇所目は不意打ちになるが、二箇所目は厳しい。その一箇所目に、《転移先》を持ち込む。
「《転移先》の周囲の兵士を、一掃しないと危険ですね…」
コロナは難しい表情でそう言った。
テレポートを悟られれば、包囲されて待ち伏せされることだってある。
「魔法塔の魔法使いは、せいぜい6人だっけ?」
アーシェはアイリーンに視線を送った。アイリーンは頷く。
「はい。最悪一人でも、あの塔は機能しますから、優秀な者を最低限置くだけでいいはずです。それに、それほど広くありません。ただ、塔の半ばに兵士が集うことができます。これは主に下からの攻撃を警戒するものなので、素早く行動すれば不意打ちが効きますが…」
「素早く、ねえ…まぁ不意打ちじゃなくても、上からなら有利だね。…容赦しなくていいなら、魔法使い一掃するとしても、大丈夫だろうけど」
メルが若干歯切れ悪く言った。魔法塔の魔法使いを全員”戦闘不能”にするのは、レフィーヤとシャルア。それからテレポートして、精鋭部隊が下へ降りる。素早く、というのは不可能に思えた。さらに、相手方の魔法使いは、悪魔に操られているだけである可能性がある…”戦闘不能”にするだけ、つまり殺さないように、方法を選んだり手加減したりしている余裕が、メア城の魔法使い相手にあるだろうか…この場にエドワードがいるために、言いにくかった。
だがエドワードは今更「兵士を殺さないでくれ」なんて言わない。戦いが終わった時に何も感じないわけにはいかないだろうが、今心配なのはそこではなかった。
「魔法塔は、確実に落とせるのだろうか?」
戦闘に関しては素人だ、という自覚があって今まで黙っていたが、ついにエドワードは言葉にした。話しやすい雰囲気だったし、今言葉にして納得しておかなければ後悔するかもしれない。
「ん、大丈夫だよ」
エドワードと対照的に、あっさりと言い切ったのはスーラだ。おや、と思ってメルも黙って耳を傾ける。
むしろさ、とスーラ。
「魔法塔だから、なんとかなる見込みが大きいんだ。メルが言った”一掃する“ってのは、最悪そうするってだけ。たしかに本当にそうなったら”素早く“ってのも厳しいし、やり方選んでられないだろうけど、そうはならないんじゃないかな。私らが戦う相手は、メアを守る兵士ではなく、悪魔なんだからね。
そういうことでしょ、幹部の皆さん?」
と、セル、フィオ、ライナスにぱぱっと視線を送る。
「そういうことです」
と、セル。ライナスも頷き、フィオはそうそう、と補足する。
「メアの魔法兵士ともあろうものが、全員悪魔に取り込まれるか? それは考えにくい。今日までの長いあいだ、防戦一方でほぼ城に缶詰なんだろ?」
そこまででフィオはセルに視線を送って話を投げた。
「何人も、悪魔に気づくことができた魔法使いはいたはずです。ただ、相手が悪かった。跳ね除けることは難しく、防御に徹するしかなかったのでしょう。行動して悪魔の気を引いてしまえば一巻の終わりですし」
否応なしにエドワードの脳裏にルシェンのことが過ぎった。
彼は分かっていて動いたのだろうか。分かっていても、動かなければならなかったのだろうか。否定するわけではないが、ほかに道はなかったのか、と思わざるを得ない。
「戦いの最中は、オルトに出てもらいます。放っておけば兵士への影響も何もかも、シュラインに払われてしまいますから、悪魔はオルトを相手にせざるを得ないでしょう。リューノンといえど、深く、根から人格を変えるほどの影響を、大人数に与えることは出来ませんからね。大きく歪められてしまっているのは、契約者やそれに準じて悪魔に近い者たちだけでしょう。
さて、悪魔の注意がオルトに集中します。これで、防御しかできなかった魔法使い達は弱まった悪魔の影響から抜け出すか、あるいは、こちらの邪魔をしないことくらいはできる者もいるでしょう。
魔法塔を誰が担当するのか分かりませんが、普通はレベルの高い魔法使いを置くでしょうね。つまり、魔法塔の魔法使いは悪魔の影響を乗り越えられる可能性が高いのです」
セルは説明してくれたが、それがエドワードやアイカのためだと本人たちは感じていた。ロードたちも集う幹部の話し合いでは、いちいち詳しく語ることができなかった。精鋭部隊に参加する二人に、この場でなら語ることができたのだ。
メルは黙って聞いている。魔法塔の魔法使いが、狙われて歪められているくらいのことは、ありえると思う。むしろそうである可能性が高いと思う。が、メルとアーシェよりずっと長く生きてきた戦士たちの見解は違うらしい…いや、戦闘中にエドワードが知りえない部分を、希望的に話しているだけだろうか…どちらにしても、今ではなく後で突っ込もうと決めた。悪魔との戦いにおいて、希望は一番の盾であり剣だ。
セルはもう少し続けた。
「空から攻めるということは、狙い撃ちに合うリスクが大きい。しかし、ロード・クレィニァは魔法封じがある状態でも、息をするように炎と風を扱う方。魔法具やマナの石なしで迎撃に対応が可能です。可能なら二箇所目の魔法塔の妨害も行いながら、その間にレフィーヤとシャルアが一箇所目を攻略します。
一箇所目に魔法陣が持ち込まれたらすぐに、テレポートを完了させなければなりません。精鋭部隊を侵入させるために、レフィーヤさんが《転移先》を守る必要があり、それが長引けば二箇所目攻略の可能性が下がっていきますからね。
侵入作戦は、こんな感じです。難易度は高いですが、それを越えるメンバーが揃っています。相手方にも、ね」
エドワードは頷いた。 “容赦しなくていいなら大丈夫”と言ったメルとも一瞬視線が合う。その力強い目に、メルは誤解していたことに気がついた。エドワードにとって、相手は身内でもある。だから、戦いの話となるとつい遠慮してしまう。実際には、もうエドワードの心はしっかり決まっていて、冒険者たちは遠慮など要らなかったのだ。
「ん~、決まったね。あとはなに、テレポートの練習台になろうか?」
アーシェがそう言って、ずっと取っておいたデザートを口に放り込んだ。
そのセリフにどっきりしたのはアイカだ。数日後にはこの大人数と共にテレポートすることになるわけだが、今はまだ誰かをテレポートさせるのは気が引けた。昨日初めてテレポートを使ったばかりの初心者なのだから、当然の思いだ。
(失敗したらどうなるのかなんて説明されなかったけど…)
取り返しのつかない何かが起こる予感はしていた。
(でももし精鋭部隊が集まる機会がもうないなら…)
今、覚悟を決めないといけないかもしれない――。
その思考をセルヴァの声が遮った。
「そうですね、また今度お願いします。一度、全員で長距離のテレポートをやっておきましょう。今日は、今までに練習で消耗もしていますから、やめておきましょう」
セルの言葉でアイカは拍子抜けすると同時に少しホッとした。
さてそれじゃ、とフィオが話を変えた。
「このメンバーで一回依頼こなすことにしていたんだが、みんな明日明後日の予定は空けてきたか?」
前回の話し合いにいなかったアイカにも分かるように話したフィオへ、はい、おっけー、などとメンバーは思い思いに返事をする。
スーラは何やら鞄を探って、数枚の紙を取り出す。
「ちょうどいいのもらってきたよ。『旋風』宛の小規模なやつだけと、どうもクサいんだ」
広げた紙は、冒険者ギルドからのクエスト《依頼》情報だった。
大抵の同盟は、冒険者ギルドに登録している。実績によるが、同盟に合った依頼が優先的に来るようになるのだ。
どれどれ、と数枚の紙を回し見る。スーラは説明を続けた。
「依頼主はメア国エラーブル村。代表は村長、準じて村魔法使い。夜間に畑が荒らされるんだが、それが動物ではないらしい」
んー? と、情報を見ていた双子が眉をひそめた。
「ここ、結構おっきい畑もってなかったっけ。でも今冬じゃない」
「だよねえ。畑荒らされるって、何がしたいんだろうねー。手入れの邪魔?」
フィオも呟く。
「最新依頼だな、荒らされ始めたのも十日前からか」
やれやれ、とライナス。
「騒ぎに便乗して村を狙う悪魔かもしれんな」
「ちょっと頭がいいやつだねー」
「こういうタイプって、意外と強くて狡いんですよね…」
コロナは双子から受け取った情報に目を走らせながら呟く。
レスターはライナスから受け取る。
「《転移先》なしの村か。これは、狙ったかもな」
「でも詰めが甘いねー。アスクから三刻もあれば行ける。うーん、これも作戦のうち?っていうのは考えすぎかなー」
メルの疑り深い言葉にスーラは、いや、と口を開いた。
「考えておいたほうがよさそう」
「エラーブル村」
今までずっと黙っていたリーフが、場の空気から離れた深刻な声で呟いた。
リーフは自分の声で我に返って、顔を上げた。メンバーからの問うような視線に、リーフはなんとか落ち着きを取り戻して言葉を探す。
「この村…最近行きました」
*
村の名前が出た瞬間、リーフは耳を疑った。
エラーブル村。
ルナティアが、エルナのペンダントを取りに行った村。
(どういうことだ)
この状況で、偶然、という一言で終わらせることは難しかった。
(荒らされ始めは十日前? 僕たちが村にいたのはいつだった? オルトさんに助けられたのは、話し合いの八日前。その前…その、二日前に村に着いた。話し合いの十日前、つまり…十四日前に、僕たちはあの村に着いた)
十四日前には、何もなかったはずだ。
なぜ今この村の名前が? どうして? ルナに関連したこと? 悪魔がなにか仕組んでいる? ごちゃごちゃと飛び交う考えを、リーフはとにかく一旦抑える。リーフとルナティアの旅を詳しく知っているのは、オルトとエルミオだけ。精鋭部隊のメンバーは事情を知らないのだ。必要なことを取り出して話さなければ。
「最近といっても、十四日も前ですが、その時には畑が荒らされている様子はなかったと思います。村人も、至って普通だったと思います…短期間の滞在だったので、あまり接する機会はなかったのですが」
リーフはまだ自分が冷静になりきれていないことに気がついた。言いたいことが言えていない。
リーフは一度、ふう、と深呼吸した。
「この村には、僕と、ルナティアという方と二人で訪ねました。ルナティアは、今、メア城にいるルシェンやアルフェの友人です。ルシェンを取り戻すために、ひとりで戦っていました」
リーフは続きの言葉を探して、少しの間沈黙した。
一人で戦っていた。今も、一人でいる彼女は、どうしているだろう。
「…エラーブル村には、ルナティアやルシェンに縁のあるアイテムがあり、ルシェンを取り戻すためにそれを取りに行ったんです。今、ルシェンはご存知の通りですし、ルナティアも悪魔に囚われました。エラーブル村のことを、悪魔が知っていたとしてもおかしくありません。…それから、多分、相手は、僕が死んだと思っています」
話しながら、リーフは考える力を取り戻していった。そして、最後に付け加えた。
「この依頼は、罠かもしれません」
うん、と真っ先に頷いたのはスーラだ。
「そうだね。情報追加するよ、二点。まず、この村、近くにダンジョンがある。最新情報。ケインとクレインと私とで見てきた。ただの穴かもしれないが、そうじゃないかもしれない。出入りした跡があった。私とクレインはちょっと潜ってみようって言ったんだが、ケインに反対されて、中には入ってない。一応言っとくと、ケインはディル族だ。真顔で反対されちまった。
ふたつめ、この依頼を受け取った時期。私たち『旋風』はちょっとクエスト中だったから空間転送鞄の確認が遅れたんだけど、九日前にもらったんだ。『盾』からメアの状況を受け取ったのと同じ日に確認した。
荒らされ始めたのは十日前だろ? 荒らされた初日に速攻で冒険者ギルドに依頼提出して、たかが村の畑が荒らされたこの依頼を『旋風』に優先依頼する割り振りしたってことになる。無理じゃないけど考えにくい。私の考えでは、冒ギルではなく村がおかしいんじゃないかと思う。荒らされた日にちが今日から数えて十日前なのに、依頼の提出はそれより前だったんじゃないかな。
この矛盾のために、畑荒らし程度の依頼が『旋風』に回されたんだと思う。今この状況だからね。…って考えさせて、私たち『旋風』を国内に呼び戻したかった、って冒ギルの考えもあるかもしんないけどさ。それはそれとして。
偵察にいったときも、新しいダンジョン発見した以外変わった様子はなかった。村人の話でも、畑荒らしは十日前からってことだった。多分これは正しい。村長が依頼をそれよりも前に出していた、ということだろう。
村長追求してもよかったんだけど、うっかりすると黒幕出てきちゃうだろうからやめた。『旋風』を潰す罠かもしれない、ってケインが言うもんだから、このメンバーでやるほうがいいと思ってもってきたよ」
なるほどな、とフィオ。ライナスも、そうだな、と頷く。ひとついいでしょうか、と、エドワード。
「冒険者ギルド、という団体の中にも悪魔がいることはないのですか? 依頼を仲介する役割だと理解したのですが」
もし冒険者ギルドの中にも悪魔が紛れているなら、この依頼の相手の姿が変わってくるだろう。あるいは、村にもギルドにも悪魔の手先がいるのか…。
「ギルドに悪魔なんて、本来はねえ…」
アーシェが言ったが、冒険者たちの表情は晴れない。スーラの今の話だけでは、否定できなかった。メア城に悪魔がいるというこの状況では、どこに悪魔がいてもおかしくない。
逡巡して、コロナが口を開いた。
「冒険者ギルドには、私たちか、私たち以上の実力者もいます。多くの、もちろん悪魔が関わる依頼も仲介し、たくさんの冒険者と付き合っていくためには力が必要だからです。
万が一、誰かが悪魔の手先となってしまったら、必ずほかの誰かが気が付くはずです。数ヶ月に一度、検査もあります。悪魔除けが施された部屋も多く存在する施設を使っています。…この状況では意味が薄いですね。それに、大きな集団だから、穴がないとは言い切れません。もし冒険者ギルドにも悪魔の手が及んでいるなら、厄介極まりないですね」
考えながら淡々と紡がれたコロナの言葉に、エドワードは不安を覚える。城にいたあの悪魔は、この国を一体どこまで侵食しているのだろう?
いや、とライナス。
「それは、ないと思う。私の感覚だが」
この場で最高レベルの冒険者が主観を話す。
「どうも相手は、冒険者に戦いを起こしてほしいような印象だ。冒険者ギルドに手を出せば我らの行動範囲をかなり狭めることになる。それはしないと思う。…これが相手の手中だとしても、舐めてくれるならそれは利用させてもらおう」
淡々としていて、ゆえに強い言葉だった。
スーラは、いいね、と口の端を上げた。
「ま、そのへんは推測しか出来ないね。過度な不安は要らないけど、警戒しといてしすぎることはないでしょ。せっかくいいメンバー揃ってるんだから、これも解決しちゃいましょ。もしかしたら、」
スーラは、ちら、とリーフに視線を走らせた。
「城の悪魔がフライングして出てきてくれるかもしれないね」
丘の上の黒い影が、ふっとリーフの脳裏を過ぎった。あの笑い声。
無意識にこぶしを握って、思っていた。
(殺し損ねたことを後悔させてやる)
そう思いつつも、リーフは自分が殺されたも同然だと感じていた。オルトに助けられたのは偶然だ。あれがなければ死んでいただろう。
そして今も、戦うのはリーフ一人ではない。リーフより圧倒的に強い実力者たちが集っている。心の奥底では、リーフひとりでは敵わないと分かっているのだった。
弱さは自覚していた。だから、大きな力の一部としてでも、ルナティアを助けるために役立てたら、と思った。それでも、悔しいと思ってしまう。剣技は、そのへんの剣士よりは強いはずだが、今回の戦いでは大して役立てる気がしない。固有精霊がいるのに精霊魔法も使えない。
なんて無力なんだ。
それでも、ルナティアと約束をしたのは、リーフだけなのだ。まるで運命のようにアイカとエドワードに出会ったことには、意味があるような気がしてならない。
(僕だけではどうしようもない。でも、僕じゃないといけないんだ。守ってみせる)
深刻な表情のリーフを、フィオやほかのメンバーは何気なく目の端で捉えていた。その両者を、アイカは黙って見ていた。間に流れる空気に、多分リーフは気づかないんだろうな、と思いながら。
「今夜から村にいたほうがよさそうだな」
レスターが提案してメンバーの様子を見た。
明日からの予定ではあったが、それでは畑が荒らされるという夜を二回しか迎えられない。メンバーには、攻城までという時間制限がある。依頼を受けるからには早く解決してあげたいし、何より、メアの戦いと今回のクエストは、無関係には思えなかった。
「うん、そうだな。こっからメアソーマ行くと城挟むから…遠いけどトラジェ経由で行こう。空間転移でトラジェ、アスク、そっからエラーブル」
フィオが言い、それぞれ頷く。異論はない。
「コロナ、」
「ええ、空間転移は任せて。今日中にエラーブルに到着できます。ただし、それでしばらく空間転移は打ち切りになると思います。エラーブルについてからの緊急避難は出来ません」
スーラは満足そうに、にっと笑った。
「さっすがコロナ! やっぱこうなるよね。そうだと思って、今日からいくかもって村長さんに言ってあるから。宿は困らないよ」
では、とセルが口を挟む。
「念のため防具に魔法をかけておきましょう。数日しかもたないので、本戦の前にまたかけなおします。それと、本戦で使う魔法具も、みなさんの分はもう準備できていますから、お渡ししておきますね」
「ん? 本戦でも使う魔法防御とカウンターでしょ?あたしも使えるよ、大丈夫」
メルが言ったが、いいえ、とセルはやんわり言った。
「行きがけも危険です。メルは力を温存してください。私がかけます」
「そっか、分かった」
「ただ、カウンターはかけません。状況をみて必要なら、メル、そちらはお願いします。それと、コロナ、クエストの間、アイカさんのテレポートの練習をお任せします。この後詳細を伝えます」
「分かりました」
コロナは突然の振りにあっさり頷いて、アイカによろしくお願いします、と微笑んだ。
「よろしくお願いします、コロナさん」
やっぱりセルは一緒には行かないんだ、とアイカは少しだけ不安になった。セルには他にたくさんやることがあるから、アイカに付きっきりになるわけにはいかない。アイカとコロナは、同じ『琥珀の盾』ではあったが、それほど深く関わったことはなかった。それに、何か目的があって話すならいいが、日常的ななんでもない会話がうまく合わないのだ。
かといって、このクエストでテレポートの練習をせず明日、明後日過とごせば、明々後日にある最後の話し合いまでにテレポートがきちんと使えるようにならないだろう。
(大丈夫。絶対に出来るようになる。出来る)
アイカはなんとなくエドワードを見た。すると、丁度アイカのほうに目を向けたエドワードと目が合って、びっくりして視線を正面に戻した。それから初めて、エドワードのほうに目を向けたことを自覚した。
(エドはいつも目が優しい)
心が落ち着いた。
楽しい雰囲気の昼食会はいつの間にかクエスト作戦会議になり、メンバーはいそいそと準備に取り掛かるのだった。
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