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For an Oath -Ⅲ

     

 

For an Oath - Ⅲ 1 ​/ 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 ​)

 

 暗くなり始めた頃、一行はエラーブル村へ到着した。

 数日前に訪れたときと同じ、夕暮れを通り過ぎた時間。ルナティアと二人でここへ来てから数日後、リーフは、11人という大所帯で村に立っていた。不思議な感覚だった。

 村長と村魔法使いのところへ行くと、大所帯に驚いた様子だった。それはそうだろう、たかが畑荒らし退治の依頼だったのだから。

 スーラの言ったとおり、宿の心配はいらなかった。ただ、部屋は四部屋だった。

「私がそうお願いしておいた。今日来ないかもしれなかったわけだし、一人部屋は寂しいから」

 双子が「くじ引きで決めようよ!」と楽しそうに提案したが、速攻でコロナに却下された。

「この状況でそれは危険です」

 冗談だってばー、と双子は口を尖らせた。

 それぞれの能力を考え、村に悪魔や魔物が潜んでいる可能性を考えて、部屋割りは決まった。フィオとリーフは同じ部屋だ。

 最初の夜、早速村長に案内してもらい、フィオ、リーフ、アーシェ、スーラの四人が、畑の近くで張ることになった。アイカとコロナは魔法の練習、メルは魔法の感知が早いから警戒のために残ってもらった。エドワード、アイリーン、ライナス、レスターは翌日まで温存だ。

 

 

「村の人たちも見張ってるんだねえ」

 広い畑を歩きながら、アーシェが感心した。いつもの装備ではなく、村人に借りた畑仕事スタイルだ。遠目には村人に見えなくはない。使い込まれた戦闘用の弓と矢筒が浮いていた。

 アーシェだけではなく、フィオもリーフもスーラも、村人の服を借りていた。相手に警戒されてしまっては困る。

「なんか様になるなぁ」

 フィオはリーフをまじまじと見ながら感心した。スーラも、口には出さなかったが同じような表情だ。

 まあ、とリーフ。

「十数年前は農業手伝ってましたからね」

 剣は装備してなかったけど、と思いながらリーフは柄を撫でた。

 フィオはハーフソードとダガー、スーラはロングソードを装備している(スーラは回復術士らしいが、前衛もこなすのだ)。そんな妙な格好で、4人はつかず離れず、畑の周囲を見回る。

 畑は細い道で区切られ、所々に作業小屋や民家がある。集会所と、次いで宿が一番大きな建物のようだ。畑と同じくらいの範囲に民家が固まっていて、その中に宿がある。集会所は、畑寄りだ。

「広いねえー! 向こうの端っこまで声届くのかなー」

「あ、ちょっと!」

 誤って畑に踏み込んでしまったアーシェを注意したのはリーフだ。

「そこ踏んじゃダメですよ! せっかく手入れしてあるんですから」

「え、あ、そうなの? ごめんごめん、気をつける」

 素直に謝ったアーシェは手入れしてある、という畑を観察し、リーフにたずねた。

「土がふかふかしてるそのへん全部は踏んじゃダメってこと?」

「ええ。秋冬の収穫が終わった畑は、冷たい空気に当てて害虫駆除しておくんですよ」

「あーそっか、だから何もないとこで土掘ってるのかー」

 松明を持って歩きながら、たまに他愛もない会話をする。

 畑の周囲には、人が通れる間をあけて、柵が立っていた。一番外側の柵を越えると、そこはもうぱらぱらと木が生えはじめ、数十メートルも行けば森になっている。

「ダンジョンは北のほうだった」

 スーラは、畑を乗り越えた柵の外へ視線を飛ばした。

「ま、そんなに分かりやすく来てくれるとは思ってないけどね」

 暗闇の中、秋のおわり、虫の声と、人々がたまに遠くで話す声と、松明が燃える音。風は穏やかで、空気は少し乾き気味だ。

 四人は歩きながら、たまにすれ違う村人と言葉を交わす。

 畑荒らしはなかなか現れない。

 日によっては、月が真上に上った後に来ることもあるらしい。気長に待つしかなかった。

 

 

 村長はヒューマンだった。レスターは一人、村長を訪ねて、他愛もない会話から探りを入れていた。

「村長なんて苦労されてますねえ。私は自由気ままに冒険者ですよ」

「いやいや、冒険者は命懸けじゃないですか。私たちには魔物と戦うなんて考えられません」

 年齢も近い二人だった。村長のほうが歳上のようだったが、二人はかなり打ち解けて、笑い話も苦労話も湧いて出てきた。

「動物にしては足跡がないし、柵にはロープ張って大きな音が出るようになってるんですよ。でも収まらない。荒らし方も派手だし、妙で怖いから、冒険者さんを呼ぼうということになりましてね」

 毎日毎日、土が散乱して畑の外まで飛んでいたり、まだ収穫していなかった根菜類の畑も、野菜が飛び出したように大荒れになっていたりするのだと、事前に聞いた話で知っていた。

「毎日毎日…もう手入れも追いつかなくなってしまいますよ。せっかく大切にしてきた土なのに…」

 疲れきった表情で、村長は大きく静かなため息をついた。レスターは同調するように頷いた。

「十日前からでしたね?」

 レスターの確認に、村長は頷く。

「もう十日です…見回りもしてるのに捕まりません」

「その、荒らされる瞬間を見た人はいないんですか? 夜ずっと見回ってるんでしょう?」

「はあ、それが…なんというんでしょう…突然、土がばーんと飛び出して…でも犯人は見えなくて…」

 突然話がわからなくなって、レスターは眉をひそめた。

「飛び出す? 土が?」

「はあ、そうとしか…言えないんですよ…」

 村長も、どう説明したものやら、困った顔だ。

「見回っていたら突然、人が少なくなってるところの畑が、どばぁーっと噴出してですね…」

 なんじゃそりゃ…と、混乱しかけて、レスターは冷静になる。そんなことを確かめに来たんじゃない。

「なんなんでしょうねえ…村長、心当たりはありませんか?」

「心当たり…」

 考えながら、村長の目線がきょろきょろっと左右に揺れた。

「さあ…でも、なんでしょう、魔法なんでしょうかねえ…?」

 ぎゅーっと眉を寄せて、深刻な表情で村長は言った。やけに、強い視線で、ぐうっとレスターを見る。不自然に長く目が合うので、ついレスターは、何気なく視線を外した。

「魔法でしょうね。自分も魔法には詳しくありませんが、仲間たちと一緒に、お力になれると思いますよ」

「よろしくお願いします」

 村長はまだ、深刻な表情でレスターをじっと見ている。

「やはり冒険者の皆様には、魔法だということもすぐにわかるんですね。本当に、よろしくお願いしますよ」

 その言い方に、レスターはわずかだが違和感を覚えた…土が噴出するなんて、誰だって見れば魔法だと思うだろうが、それにしても妙な言い方。

「…本当に心当たりはありませんか?」

「ありません。ありませんよ」

 村長は苦しげで真剣な表情をレスターに向けた。

「だから、よろしくお願いしますよ」

 それ以上は、聞いてはいけない…レスターは直感した。心当たりがないのではなく、言えないのかもしれない。それをどうにか伝えようと、この人は表情や、妙な言い回しをしている。それはどういうことか? なぜこの、二人だけの村長の部屋で、言うことができないのか? 監視されている可能性があるからだろう。そして、それを知らないレスターに情報を漏らして、うっかりレスターが外でそれを話せば、村長が密告したことが知れる。村の中に黒幕がいるのなら、それで筋が通る。

 レスターは話を変えた。

「そういえば、私の仲間が、村の近くでダンジョンを見つけたらしいのですが、なにかご存知ですか?」

「え?」

 村長はびっくりした様子だ。どうやら本当に、ダンジョンのことは知らなかったようだ。

 レスターは笑って言った。

「ああ、いえいえ、今回の件とは無関係かもしれないんで、あまりお気になさらないでください。今回は時間的に厳しくても、すぐに調査に来れるはずです」

「ああ、そうですか…ダンジョン…それも、魔法で作ったりしたものなんですかね」

 どういう発想なのか、レスターは一瞬ついていけなかった。

「あー、と。自然に開いたただの穴かもしれないんですけどね。それはまだ、調査してみないと分かりません」

「でも、土の魔法とかだったら、ほら、畑がどばっとなったみたいに、穴も作れるんでしょうかねえ」

 村長の脳内連想ゲームの一部が見えて、レスターはさっきよりも納得して話を聞くことができた。だが、やたら魔法、魔法と言うのが気にかかった。ヒューマンだから、魔法に疎いから…それだけで片付けてしまうのが本来だ。しかし、今それをしてしまうと、もしかしたら村長の伝えたいことを受け取りそこねるかも知れない。

 レスターは、村長の一挙一動に注意しながら、口を開いた。

 

 

 アーシェが立ち止まり、ぱっぱっと周囲を見回した。三度、視線を彷徨わせて、最後に向けた先は畑。その時にはスーラもはっと何かに気がついて、アーシェの視線を追っていた。

「伏せてっ」

 一瞬の間。フィオ、リーフ、スーラは素早く伏せる。アーシェは詠唱を省略して防御の魔法を発動する。

 

 ドズンッ

 

 地面を揺るがす音と共に、土が、まるで噴水のように噴き上がった。それはある一点を中心に、初発時からわずかに範囲を広げる。水面に何かが落下したときの様子に似ていた。

 範囲は十メートルを超えている。四人は魔法のほうへ走り出す。フィオが先頭、スーラが半歩後ろでフィオに防御の魔法をかけ、リーフが続き、アーシェがしんがりで弓を握る。

 収まっていく土煙。村人は遠巻きにそれを待っていたが、冒険者四人に続いて近づく者もいた。

 綺麗に手入れされていた畑は、魔法の中心が凹んでしまっていた。そこには魔法の痕跡だけで、誰の姿もない。

 警戒するも、なにも起こらない。たった数秒後、スーラは魔法の中心、土のくぼみにかがんだ。

「アーシェ、私がマナを《再現》する。読んで」

「おっけ。フィオ、リーフ、守ってて」

 了解、と前衛二人の返事を受け取る前から、スーラは詠唱を開始する。防御などの詠唱は破棄してあっという間に使っていたが、今回はしっかり詠唱していた。使用する魔法が《再現》という、時間に関連する魔法だからだろう。時間の魔法の中では最も簡単で実用的なものだが、それでも攻撃や防御といった魔法に比べると、飛躍的に難易度が上がる。

 スーラが詠唱を終えた。

 すると、マナが大きく動いた。リーフですら感じられるその変化は、なにか良くない感じのするものだった。アーシェに至っては顔をしかめた。

 数秒ほどマナは動き、やがて魔法が終了した。

 ふー、とアーシェは息をつく。

「スーラ、大丈夫?」

 スーラは、ああ、と返事をしながらも、立ち上がりはしなかった。

「悪い、途中で打ち切った」

「うん、大丈夫、読めた」

「ああ…なら良かった」

 集まってきた村人を、フィオは真剣な顔で「色々分かったからこれから作戦会議します」などとあしらった。ひとまず四人は、宿へ戻る。

 待機組を呼び、全員がスーラ・メル・コロナの部屋へ集まった。思い思いの場所に座り、または立ち、話が始まる。とりあえずスーラだけは、自分のベッドへ行かせた。コロナが心配して横になるように促したが、スーラは座るだけに止めた。

「いや、横になったら寝るから。横になるのは話してからだ」

 

 さて早速!とアーシェが元気よく、さくさく切り出した。

「畑荒らし来たよ。土がどぱーん!てなる魔法、多分イラプション《噴出》系のやつを、見回りが薄いところでかましてあっという間に去っていく。スーラの《再現》でマナの動き読んだら、その魔法の動き以外にもマナの動きがあったよ。

 密度濃いマナの塊。それが魔法を使った、って感じだった。

 そこまで強くないけど、あの嫌な感じは悪魔だと思う。行動が意味わかんない悪魔だね」

 スーラも頷いた。

「私も同じ意見。そいつまで《再現》の範囲に入ってたから余計な消耗しちまった。ただのイタズラ者程度の小物悪魔か、使い魔か、あるいは、ものすごーーく雑だけど、私らを釣る餌だね。ただのマナの塊」

「多分、北のほうに逃げたよ。例のダンジョンのあるほう。におうね~」

 それを聞いて難しそうな顔をしたのはレスターだ。ライナスもわずかに目を細めた。

「悪魔か…。こちらも報告がある…」

 レスターは一旦言葉を切って、メルに視線を送った。ん?とメル。少し遅れてレスターの視線の意味を察知し、んー、と首をかしげた。メルはマナの感知が速い。魔法で盗聴されていたり、近くに悪魔や精霊など魔法に近いものがあれば、真っ先に気が付くのはメルだ。しばし虚空を見つめた後、メルは言った。

「盗聴とかそういう心配はなさそう。少なくとも魔法や悪魔や精霊なんかは心配ないよ。扉の外で誰かが耳をすませてたら別だけど」

「そうか。ありがとう。では改めて…。

 村長に話を聞いてきた。大した情報は得られなかったが、村長の様子が妙だった。やたら魔法、魔法と、魔法に話を持っていく。心当たりを聞いたときの応対も妙だった…ありませんよ、と、わざとらしい反復をしながら、俺を凝視してきた。あんまり不自然なもんだから、俺は、今この場では話せないということかと解釈した。つまり、村の中に黒幕がいるのではないかと。

 遠まわしに色々聞こうと思ったんだが、ちょーうど、村魔法使いが来てな。こんなやりとりで、俺はてっきり、黒幕は村魔法使いかと思った。しかし、そっちには悪魔が来たという。黒幕が二人なのか、村魔法使いが契約者なのか、どういうことだろうなぁ」

 契約者だとしたら、とコロナ。

「城の悪魔と関係している可能性が薄くなりますね。ひとつの悪魔に契約者はひとりですから」

 ライナスは頷いた。

「取り込まれてるだけ、という可能性もある。相手が相手だ、分離してエラーブルにまで影響を及ぼしていてもおかしくない」

 それで結局、とスーラ。

「何がしたいんだろうね、相手は」

 沈黙。その中に滲みだした雰囲気で、みんなが罠の可能性を考えていることがなんとなく分かる。

 

 アーシェはとりあえず考えを口にする。

「いきなり村魔法使いを叩いても、出てきてくれるわけないしねえ。なにより勘違いだったらあたしたち悪者になるし。おびき出せないかなー。でもって、直に問いただす。聞いてみないと、悪魔の考えなんて、わっけわかんないじゃん?」

「聞いても分かんないかもだけどね」

 メルに言われて、まあね、とアーシェは肩をすくめた。

 それを聞いたフィオは、小さくいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「ノってみるか。戦力分散して、一方はダンジョン、一方は村に残る。これでどうだろう? ちょっと甘すぎるかな?」

「油断禁物」

「油断禁物ですよ」

 スーラとコロナが二人して釘を刺した。

 だが、とレスター。

「そもそもこの依頼に高レベルの冒険者が集まるなんて、相手方は想定外だったはずだ。分散しないと、出てこないかもしれんな」

 わかんないよ? とスーラ。

「『旋風』に優先依頼がきたわけだからね。高レベルな冒険者ってのは予想の範囲内かもしれない。

 予想外だったとすれば、人数じゃない? 11人。『旋風』だけで来てたら最大5人だった。

 戦力分散、私は、ノってやってもいいと思うよ。ただし、絶対に油断したらいけない。もし――」

 スーラの目が真剣に光った。

「――本戦と関係しているなら、本当に『旋風』を潰す罠だったのかもしれない。少なくとも、うちのロード・アルルをね。戦力を…”悪魔に対抗できる適切な戦力”を募る意味でも、個人の攻撃魔法の力の意味でも、アルルひとり潰せば大分違う。悪魔か、村魔法使いか、あるいは両方とも、『旋風』を潰せる力をもってると思って行ったほうがいい」

 とても具体的なスーラの警告が、メンバーそれぞれの中に染み入った。

『旋風』は、普段はたった五人の小規模な同盟だ。にも関わらず、大人数でこなす大型の魔物討伐や悪魔討伐の依頼も『旋風』に回ってくる。普段は五人の『旋風』は、依頼に応じて冒険者や戦士を募って活動することができる同盟なのだ。

 もちろん小規模依頼も受ける。そのほとんどは、ダンジョンが狭くて大人数ではいけない討伐や、難易度不確定の危なそうな調査など、レベルの高い小規模依頼だ。

『旋風』の戦闘は、それは鮮やかで、芸術のようだとも言われる。アルルを中心に、メンバーが臨機応変に役割を変える。前衛~後衛、回復まで、一人二役以上こなすことが出来るメンバーなのだ。相手が多ければ、アルルの大魔法が炸裂する――”大砲”と呼ばれる魔法使いの本領発揮だ。『旋風』を敵に回したら、真っ先にアルルを潰したい。しかし、メンバーがそれを絶対に許さない。まるでひとつの城のような同盟が、『旋風』なのだ。

 アルルを潰そうとするなら、と、ライナスがとんでもない例え話をし始めた。『旋風』のスーラは特に気にする様子はなく、耳を傾ける。

「五人を分散した後、極端にマナが少ない場所で戦闘に持ち込むことが一番楽だ。可能なら魔法封じも仕掛けておきたいな。アルルの力をほぼ無効にしてから、まず前衛に対処しておきたい」

 真剣にアルルを潰す案を述べてから、ライナスはメンバーを見回した。

「『旋風』への罠の可能性があるということは、そのような状況に持ち込まれる可能性がある。十一人を二パーティに分けるのはともかく、その後さらに分散されるかもしれない。特に、ダンジョンの方は何があるかわからない。班分けは、本戦と同じだろう?」

 ライナスにたずねられ、フィオは頷く。

「ああ、そういう趣旨でここに来てるからな。

 ダンジョンの方には、俺たちが向かう。マナが分からないし、メルとアーシェがいたほうがいい。

 村には、ライナスたちが残ってくれ。村長係のレスターがいるし、コロナのテレポートが使えるマナが保証されてるからな」

 村長係、という言葉にレスターは少し「ん?」という顔をしたが、何も言わなかった。たしかにレスターが適任だ。

「ダンジョン組、マナの石多めに持って行きなよ。私らのちょっとあげるから。マナ少ないかもしれないし」

 スーラの提案に、そうだねー、とアーシェは渋い顔をする。

「分散させられたらもーっとしんどくなるしねえ」

「で、そのダンジョンって行けば分かります?」

 リーフの質問に、ああ、そうじゃん、とアーシェ。大事なことを聞きそびれるところだったようだ。

 スーラは軽い調子で、分かるよ、と返す。

「アーシェもメルもいるんだから、分かるよ。北西に、そうだな、30分も行けば着くはずだ」

「えーあたしたち!?」

「分かるだろ、何言ってるんだよ固有精霊持ちの魔法使い」

「あ、ほんとじゃん」

「しっかりしてよ」

 気まずそうに笑ったアーシェを、スーラは軽く叩いて笑った。

「じゃ、明日はそういうことで。個人行動は控えような。ダンジョン組は日が昇る頃には準備しといてくれ、悪魔関連のことは午前に終わらすに限る」

 悪魔の力は午前、そして日が昇っている間の方が弱い、という、根拠のない一般常識だ。場合によるがこれは正しいことが多い。フィオに続いて、ライナスも自分の班に呼びかける。

「特に前衛は、魔法使いと一緒にいたほうがいい。エドワード、レスター、気をつけろ」

「了解」

「心得た」

 そうして話し合いが終わり、それぞれ部屋へ戻っていく。速攻で眠りに就いたスーラを除いて、魔法使いたちは、マナの石を分け合う。

 宿の中とはいえ警戒しつつ、冒険者たちは休息をとった。

 

 

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