For an Oath -Ⅳ
For an Oath - Ⅳ( 1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 )
*
銀の砂時計は、見上げるほど巨大な両開きの扉の元へアイカたちを導いた。
扉の周辺には魔法灯が点っている。そこから離れると暗い。どうやら城内は、真っ暗のようだ。魔法灯の管理がされていないのだろうか。あるいは、あえて消したのか。
ライナスのパーティは、既にいなかった。アイカは暗い廊下の先に目を凝らしたが、ただ黒い石の床や、光のない灯台が等間隔で並ぶだけだ。
「管理する魔法使いも戦闘参加してるのかな?」
「でも、ここだけ明るいね。シルファーの管轄なのかな」
アーシェとメルが扉を見上げる。
「ええ、ここからすでに、ウィザード・シルファーの管理する領域です」
アイリーンは応えながら、進み出た。扉の直下に描かれている魔法陣が半分ほど見える。そこへ踏み入ると、呼びかけた。
「ウィザード・シルファー。ご無沙汰しております。二十六年前、エドワード様の側近としてお仕えしていた魔法使い、アイリーンでございます。あなた様のご無事を確認するため、悪魔と戦うため、『琥珀の盾』の冒険者様と共に戻りました」
すぐに反応があった。
扉は開かないままだったが、アイリーンの目の前にある扉の一部が揺らぎ、通り道を開けたのだ。
「あ、扉はダミー? ただの壁?」
「こんなに立派なのに! こうやって入るの?」
双子は目を丸くする。アイカもびっくりしてアイリーンを見たが、彼女は部屋の秘密を口にすることはなく、ただ微笑んだ。
「参りましょう」
フィオも面白そうに入り口を見ていたが、躊躇はなく、アイリーンに続いて入っていく。アイカ、メル、アーシェも続いた。
中は、扉――に見えた、壁――に応じて広く、天井も高い。なめらかで白い床で、楕円のような部屋の奥側半分には巨大な魔法陣が彫りこまれているようだ。
アイカは妙な居心地の悪さを感じて、あたりを見回した。
「う、わ」
後に続いたメルも、落ち着かない様子で腕を抱き、呟いた。
「マナが…」
そうだ、とアイカは気がついた。マナが、ないのだ。この数日で魔法を扱う頻度が増えたばかりのアイカは、すぐには分からなかったのだ。
部屋の奥、魔法陣の一歩手前に、灰色の魔法使いが佇んでいた。銀の髪を垂らし、どこか悲しげな銀の瞳でメンバーを見ている。視線がアイカに向いて、アイカはどきりとした。
ようやく話す距離に来たころ、シルファーは独り言のように薄い声で話した。
「なるほど…ウィザード・アイリーンだけではなく、精霊の名を受け継いだ者も戻ったのか。道理で早いわけだ」
アイカからなめらかに視線を移動させ、シルファーはフィオの冒険者証に目をやった。
「『琥珀の盾』の双剣士、エルフ族のフィオリエだな」
「最近はフィオって名前を使っていたんですが」
大したこと無いふうなフィオに、シルファーも全く心の無い謝罪をして続けた。
「それは失礼した。ウィザード・アイリーンは私の無事を確認しに来たと言ったが、用事がそれだけならば、もうここでする事はない」
フィオは肩をすくめた。
「そのようですね。『神の石』も無事、でしょうね」
「愚問をするところだったな、フィオ。あれは私が開かない限り開かれない場所に守られている。しかし…」
シルファーはメンバーに視線を投げかけ、それからあらぬほうへ目を向け、また独白するように、伝える気の感じられない声で話した。
「ここへ来たばかりでただ追い返されるのも空しかろう。現状を話そう」
シルファーはどこか空虚を見つめながら、どうやってか、一瞬でマナを集めて魔法を発動した。それは本当に瞬きする間の出来事だった。シルファーがまた言葉を発する寸前まで、アイカは魔法であったことに思い至ることができなかったほどだ。
「兵士をはじめ、少しでも戦う力があると自覚している者は、侵入者を殺そうとほとんどが城外へ出ている。
彼らは城を守ることを考えていない。ひそんでいた悪魔がその力を振るい始めた今、彼らを支配しているのは恐怖。根拠のない死への恐怖だ。殺されない為に、殺しに行っているのだろう」
シルファーの声に、わずかに皮肉めいた色が滲んだ。それから、ため息をつきそうな疲労を含んだ様子で続けた。
「アルフェは玉座にいる。一人、虚ろの沼に溺れるているのだろう。あの人には、悪魔に身を捧げることだけしか、しなければならないことは残されていない」
ふう、と、とうとう小さくため息をついた。瞬きと共に視線をメンバーへ戻す。
「今、玉座に辿り着くことは、難しいことでは無い。悪魔の力のほとんどは空遠くにあり、兵たちはほとんどが外にいる。辿り着いた後、全てを終えたと思っているアルフェがどのような行動に出るのか、それは分からない。
しかしどうであれ、アルフェに情けをかけてやらないことだ。それが最大の情けとなろう」
刃のような言葉は、空気を含みふわりとした声と、沈んだ銀色の瞳がやわらかく包んだ。シルファーは、多少なりとも、アルフェへ情をもっているのだ。アイカはそれを感じた。
「それから…魔より身を守るものを所持しているようだが、それは悪魔シュラインの力の気配がする」
探るようなシルファーの目。精鋭部隊は、オルトから貰った対悪魔の魔法道具を所持しているのだ。
「奴がどんなモノか、嫌と言うほど知っているだろう? エルフ族の血を引き、あの時を生きてきた者たち」
フィオや、アーシェ、メルはシルファーに視線を投げかけられた。うん、と応えたのはメルだ。
フィオは頷いたが、こうも言った。
「先のエルフとヒューマンの戦争に関わっている悪魔でも、今はこちら側の戦力です。もちろん、敵に回る気配があれば手を打ちます。それに、これは――」
フィオは、ベルトとして装備したそれを示した。薄く桃色がかった金属には基本的な魔法陣が刻まれている。防御力も高く魔法加工もしやすい、オリハルコンだ。さらに、魔除け石として有名な水晶が上品にあしらってある。
「――仲間が準備してくれたものです」
「仲間、か…」
シルファーは少し呆れたような気配を滲ませる。
「何年も前の私なら、鼻で笑って一蹴していたところだが」
ふ、とアイカの横でアーシェが控えめに笑った。シルファーは続ける。
「悪魔リューノンに対する時は心強いが、油断してはいけない。頼りすぎること、過信しリューノンに近づきすぎること、弱みに繋がる情報を示すこと、それは即座に死へ繋がると思いなさい。
それから…城内のゴーレムはを倒すには、核を破壊ことが一番早いだろう。出来ればあまり壊して欲しくはないが、死なれても気分が悪い」
「核?」
フィオの問いかけに、シルファーは少し意地悪に笑った。
「魔法使いがいるだろう? 力の源を探せばいい。ゴーレムは形がそれぞれ違う。しかし、弱点というのは狙われにくい場所にしておくものだ、双剣士フィオ」
「分かりました、遭遇したときには核を狙って戦うとしましょう。ご助言をありがとうございました、ウィザード・シルファー。
私たちはここから、玉座を目指す班と、魔法塔を目指す班に分かれます。戦が終わったとき、またお会いしましょう」
ギリギリ礼を欠かない速さでフィオは言って、メンバーを振り返り、行こう、と歩き出す。そう、時間はない。アイリーンは丁寧に頭を下げ、アイカも慌てつつも別れの挨拶としてそれに習う。アーシェとメルは最後まで留まったものの、すぐに続いた。
「アーシェ、メル、クレィニァ班の支援に向かってくれるか?」
「了解任せて」
「頼んだ。アイカ、アイリーンは俺と玉座の間へ向かう」
「了解」
不思議な出入り口をくぐる寸前、メンバーの背中に、シルファーの声がかかった。
「死ぬならば、私の知らないところで死に、それを知らせてくれるな」
一見不吉なその言葉は、あまり感情を出さなかったシルファーにしては、切実な響きを含んでいた。
「「大丈夫!」」
双子が声をそろえた。その頼もしい返事に、アイカは頷いた。
*
長く地下へ潜っていく石の階段を、リーフは駆け下りていた。自分で唱えた《照らす光》はせいぜい5,6メートル先までしか照らさない。ハーフエルフの目はその先数メートルまでは見通していた。
階段が終わると、開いたままの鉄の扉があった。その先は、牢屋がいくつも並んでいる。人の気配はない。リーフは息を潜めて、牢屋の中を確認しながら足早に奥へ進んでいく。
さらに下へ続く階段を見つけ、リーフは足を止めた。
誰かがいる。
「…だ」
ぶつぶつと、恐らくその階段を少し下りたあたりで、誰かが呟いているのだ。
リーフは剣の柄に手を掛け、そうっと階段を覗いた。
「大丈夫…大丈夫だ…私はまだ…私だ…エルナ…」
その男は、階段途中の壁にすがって必死に言い聞かせていた。黒いローブの背中を丸めて、頭を壁にもたせている。乱れ垂れた黒髪で表情は全く見えない…泣いているようにも聴こえた。
「…ルシェン…」
エルナ、という名前で確信した。ルシェンにとってとても大切な人の名前だ。悪魔に影響されて、死んだエルナを取り戻すために、ルナティアの命を狙ったこともある。
しかしルシェンは精鋭部隊が――というより、王族であるエドワードやアイカが――城内に侵入するための手助けをした。そして、今ここにいるということは…リーフと同じ目的をもっているのだろうか。
「大丈夫…まだ、もう少し…大丈夫だ…」
切実な響きをもつ呟き。リーフは剣から手を離した。代わりに、さっき、空間移動する前に見つけた、ペンダントを手に取る。ここまで、着けてきたものを外し、ルシェンに見えるように。
「ルシェンさん、これはあなたの忘れ物ですか?」
呟きが止まった。ルシェンは壁にすがったまま、振り向き、《照らす光》で自らと、リーフのいるところまで照らした。さあっと明かりが広がる。
ルシェンの眉間には深くしわが寄せられ、肌は青白い。片手は岩の壁に爪をつき立てるようにしたまま硬くなっている。
「何者だ。どこで手に入れた」
棘のある低い声は、たしかについさっき聴いた声と持ち主を同じくするものだ。
「僕は、リーフです。ルナティアと少しの間旅をしていました。これは、先ほど、魔法陣のある隠し部屋で見つけました。あなたの伝言があった場所で」
内心少し緊張しながらそう告げると、ルシェンの手が緩んで落ちた。ほっと息をつきたくなるのを、リーフはなんとなく隠した。出会ってすぐ敵対するという、最悪の事態にはならなかった。
「空間を司る精霊名を継いだ方が、戻ったのか…生きていたのだな…」
つぶやきのようなルシェンの言葉に、リーフは頷く。
「ええ」
「エドワードも無事ですね? 今、城にいるのですね?」
「もちろん」
その一瞬浮かんだ優しい表情が、リーフの目に長く残った。きっとそれが本来のルシェンなのだ――それが見間違いかと思うほどすぐに影を潜め、ルシェンは律儀に答える。
「…それは私のものではありません」
壁に手をついたまま、ルシェンは姿勢を正した。リーフはペンダントを握ったまま階段を下りていった。
「ルナを助けに?」
たずねたルシェンに目の高さを合わせて立ち止まり、リーフは頷いた。藍色でくっきりした、ディル族特有の瞳には、まだ力があった。そしてそのわずかな気力だけでここに立っているのだと分かるほどに、ルシェンは疲弊していた。今にも倒れこんで動かなくなるのではないかとすら思える。
「この下、すぐに、いるんですか?」
「ああ」
「僕が行って来ますから…その、ここで、」
待っていてくれますか、と言うのが遅れたのは、リーフ自身がルシェンの立場ならば、待つなんてまっぴらだと感じたからだ。
やはりルシェンは、リーフの言葉を遮った。
「扉を開けるには、マナの操作と、ある古代語が必要です」
二人は頷きあうことも無く、階段の下へ目をやった。どちらからともなく降りて行く。階段が終わると突き当たり、T字路になっていた。左右に数個ずつ、どっしりした黒い扉が見える。
ルシェンは記憶をたどるように、扉から扉へゆっくり視線を移す。やがて右手の道へ進み、ふたつめの扉の前へ立った。扉へ手をかざそうとして、ふとルシェンはリーフに目をやった。
「私のことを味方だと思い込まないよう」
「…は?」
パチン、と何か弾けたような感覚に陥って、リーフの頭は言葉を理解しそこねた。ルシェンははっきりと続ける。
「あなたやルナを殺そうとするかもしれない。その前に私を殺すか、可能ならば私から逃げてください」
突然の言葉に、リーフの腹の底にあった激しい感情が、頭を突き抜けた――何を言っているんだ!?
「あんたは」
ルシェンの胸倉を掴む代わりに、両手に爪が食い込むほど握り締めていた。
「ルナを殺さないし、僕のことも殺さない」
頭が沸騰するようで、言葉が詰まってうまくいかない。それでも吐き出した。ルシェンは何も言わなかったが、ただ、眉間に刻まれたしわが、にわかに薄くなった。
「あんたたちはいっつも、…そうやって、自分が死ねば…自分が死んででも何かが助かるっていう、そんなことしか、考えないのか? 絶対やってやる、って、あんたたちが思っててくれなきゃ、…僕たちは、…」
いよいよ言葉が続かなくなった。
リーフだって、全てが救えるなんて思わない。冒険者まがいの旅人を続けてきて、何度か魔物や、弱い悪魔の事件にも関わった。だけど、救えないと決め付けてかかったことはない。そんなことでは本当に救えなくなる。自分の命をかけて、というくらいの気持ちでやるとしても、本当に命を投げ出すつもりで“死んででも何かを助ける”なんて思わない。死力を尽くすことと、死ぬつもりでいることは、違う。現実がどうであっても。無力さを、知ってしまったとしても。出来ることしか出来なくても。
「悪かった」
ルシェンが穏やかに言った。
「ありがとう。あなたはきっと、悪魔に打ち勝つことが出来る」
ルシェンが応えたのはそれだけだった。リーフは気持ちを収めざるをえない。
ルシェンは、分かった上で、ちゃんとした答えをくれなかったのだ…そんな気がした。
これまでルシェンがどれだけのことをやってきて、今どれだけ疲弊していて、どうしようと考えていて…それはきっと計り知れないことなのだと、リーフは分かっていた。そして、相手の狡猾さも、残忍さも、知っていた。短い旅の中、ルナティアが途方もない何かと戦い、リーフと一緒にいても何かを話すことができなかったということを、今のリーフは知っていた。
ルシェンは今、悪魔の影響下にあるこの城内で行動している。仲間を助けるために。
リーフが何も言えないでいるうちに、ルシェンは黒い扉に向き直った。そこに刻まれた、魔法陣のような模様の何点かを指で繋ぐようになぞり、何かを唱えた。すると、黒い扉は見た目の重さに逆らって、ゆっくり滑らかに内側へ開いていく。
一歩後ろで見守っていたリーフは、扉の中の暗闇に目を凝らした。思わず中に踏み込みそうになったリーフを、ルシェンが制した。
「敵と勘違いされているかもしれない」
リーフは再び目を凝らした。ルシェンの言葉にひやりとしたものの、戦う体力も気力もこの中で保って、今、立ち向かうつもりでいられるのか、疑わしい。
「ルナ!」
返事も、動きもない。
「ルナ、僕だ。リーフだ。ルシェンも一緒にいる! ルナどこだ? 無事か?」
すると、暗闇の中で動きがあった。扉から入った《照らす光》の明かりの中に、姿を現す。黒の混ざったダークエルフの肌、銀の髪。
「ルナ…!」
ルナティアはちらりとリーフに微笑んで、自然な動きでさっさと歩いて、ルシェンの背後に回った。何が起きたのか分からないうちに、ルシェンの首にロープのようなものが巻きついている。その両端を握って、ルナティアはたずねた。
「久しぶりね、ルシェン。あなたの精霊の名前を教えて」
「久しぶりだな、ルナ。私の精霊の名は《輝きの檻》だ」
驚くリーフに、「ほら、これだ」とでも言うようなルシェンの視線が投げかけられた。そうだ、この人たちは、元冒険者だった…恐らく、ベテランの。
はあぁ、と安堵のため息と共に、ルナティアはロープ――鞄の肩紐を捻ったものだった――を解き、脱力した。
崩れ落ちそうなルナティアを、リーフは思わず支える。
「ルナ、だい――」
「…っ、リーフ…!」
ぎゅう、といきなり抱きついたかと思うと、リーフが目を白黒させているうちに離れて、左肩に気遣わしげに触れた。
「よかった…肩は? 大丈夫?」
あっけない再会。久しぶりの声。戦いのさなか、こんな時にも、心配をするのだ…リーフはつい呆れて微笑んだ。
「そんなの大丈夫だよ。ルナは? 顔色良くないよ」
「この状況にしては悪くない。昨日…くらい、かな、食料なくなっちゃって」
「食料あったの?」
リーフは、ルナの握っていた鞄の紐を見るともなしに見た。武器はないが、鞄は取り上げられなかったようだ。エラーブル村で補給した数日分の食料で食いつないでいたのだろう。
ともかくリーフは、色んな事態をぐるぐる想定して持ってきていた少しの水と干し肉を差し出した。ルナティアは素直に受け取る。
「丸腰じゃあんまりだから、これも」
帯びていたダガーも差し出すと、ルナティアはリーフの装備をちらりと確認してから、受け取った。
「ありがとう、リーフ」
「うん。怪我とかしてない? 大丈夫?」
少々驚きながらも安心するリーフに対して、ルナティアは不安げに表情を曇らせた。
「うん、大丈夫…ただそこに閉じ込められていただけだから」
なんとなく嫌な予感がする。ただ運が良かった、では済まないような…振り払うように、急ごう、とルシェン。声には、隠した焦りが滲んでいた。
「とにかく、ウィザード・シルファーの元へ行こう。あの場所は安全だ」
「…シルファー様のところ?」
聞き返したルナティアからは疑いの気配すらなかったが、その意図は明らかだ。ルシェンは――悪魔に影響されたルシェンは、エルナを取り戻す為に、シルファーの守る『神の石』と、ルナティアの命を狙ったことがある。
ルシェンはそれを思い起こす素振りもなく返した。
「あそこには、マナがない。ウィザード・シルファーだけがマナを扱うことができる空間だ。私が唯一、正気に戻る場所だ…。…今は、頂いた守りの魔法があるから、この通り」
「そう、ちょっと焦ってるのね」
ルナティアはあっさりと言ってのけた。ルシェンは困ったような申し訳ないような、難しい顔になる。リーフは面食らったものの、すぐに、呆れたように肩をすくめた。
「ウィザード・シルファーのところに行きましょう。ルシェンさんはそこで戦いの終わりを待っていて下さい。僕たちなら、」
何か諦めのようなものが滲む、その前に、リーフは言葉を継ぎ足して続ける。
「僕はともかく、他のメンバーは、とんでもない冒険者たちですから。『琥珀の盾』『緋炎の月』『旋風』と、新しい同盟ですが『空の鈴』も。そもそも精鋭ばかりのメンバーから、さらに選抜されたメンバーが城内にいます。既に、アルフェさんがいるであろう玉座の間と、『神の石』の間に向かい、それぞれ動いています。僕たちでどうにかしてきますから。だから待っていて下さい。僕たちが、まだ諦めませんから」
どう応えたものか、ルシェンは考えたのだろうか。その間に、リーフとルナティアは追い討ちをかけた。
「自覚があるようですが、あなたは敵方の戦力になりかねない。おとなしく待っていて下さるのが一番ありがたいんです」
「諦めておとなしく、あと少し信じていて」
先回りした二人の言葉に、ルシェンは言い返す言葉もなかった。
諦めの笑みが、微かにこぼれた。
For an Oath - Ⅳ( 1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 )