For an Oath:精鋭部隊
ライナス、レスター、アーシェ&メルのキャラ掴みのために書いたもの。
事が動き、精鋭部隊として声がかかった頃のこと。@1770~
◆ライナス
「『琥珀の盾』ロード・エルミオからだ」
クレィニァがその日、空間転移鞄を確認すると、その知らせが飛び出してきた――エルディン崩御。悪魔の関与。
覚悟はしていたが、事態が一気に動いたのだ。
クレィニァは真剣な表情で手紙を読むと、それをココルネに渡した。
ココルネは嫌な予感がした。手紙には、その予感を超える事態が書かれていた。絶句する。
「そんな…」
ココルネは、思わず差出人を確認し、魔法の痕跡がないか、この手紙が信じるに値するのか確認した。残念ながら本当だと信じる他なかった。
「行ってみるしかあるまい。ココルネ、共に来てくれ。ライナスとレフィーヤも連れて行こう」
「了解」
ココルネから受け取ったその手紙を読んだライナスの第一声はこうだった。
「ほう」
永い時間を生きるこのエルフは、独特のペースを持っている。ココルネはたまに、ついていけない。無理してついていかなくていい、と分かってからは楽に付き合えるようになった。
「大事だな」
ライナスが言うと、今日の夕飯の話でもしているようだった。
「明後日、クレィニァはロード・エルミオを訪ねるわ。同行してください」
「了解。ココルネも行くのだろう?」
「ええ、私も、レフィーヤも」
ふむ、とライナスは頷いた。
その半刻後には、ライナスがぼやくのをココルネは聞いた。
「あ、葡萄の時期が終わる…」
そして多分、葡萄を買いにいった。夕食のデザートに出してくれるのだろう。
エルミオから、メア城のことや、悪魔リューノン、オルトと悪魔シュラインのことを聞いた。セルが巧みな返しをしてくれて、クレィニァは頷くことができた。『緋炎の月』として、悪魔リューノンを倒すため、メア城を奪還するため、『琥珀の盾』と協力することとなった。
「あれは、契約と呼んでいいのか微妙なものね」
ココルネの言葉に幹部が耳を傾けた。
「なんだか、少し違うように感じたわ。なんなのかしら、あの関係…」
「『盾』のオルト?と、悪魔のこと?」
レフィーヤの言葉にココルネは頷く。
「レフィ、何か思わなかった?あんな…ゆるい、結びつき」
ふー、そうねえ、とレフィーヤは空を見て考える。
「どうかねえー。正直よくわかんなかったねえ。今までにない感じではあったけど、悪魔シュラインともなれば、あんな感じなのかなぁって思っちゃった」
ディル族のレフィーヤにそう言われたが、ココルネは納得いかない。だいたい、ディル族というのは、妙なときにもはや予言と言っても過言ではないくらい勘が冴えているのに、大事なときは冴えていなかったりする。便利なんだか不便なんだか。
「随分、若いエルフだったな」
ライナスの言葉に、レフィーヤとココルネは顔を見合わせた。レフィーヤは小さく首をかしげて、笑いだしそうな顔でにやっとする。
(エルフの若いってなに?)
言わなくてもその思いはわかっているのに、レフィーヤはわざわざ言った。
「へえ、200歳とか?」
「いや、オルトは100年も生きていないだろう…レスターよりずっと歳下の印象だ」
へー、と、レフィーヤは今度こそ本当に関心をもったようだ。
「50年も生きてないのか。よくわかるねえライナス。あたしたちもヒューマンよりは長生きだけど、エルフなんか100年経っても変わんないのに」
ちらっとライナスは笑った。
「少しは変わるぞ」
「まあー、百年は誰にとっても百年だしね」
*
「ライナス」
クレィニァの声に振り返る。
「次はおそらく、ロード・アルルも交えた会議となる。ココルネとレフィーヤを連れて行くつもりだが、それでよいか?」
つまり、ライナスを連れて行く必要を感じないが、一緒に来たいか?ということだ。
「いや」
ライナスは言った。
「三人で十分だろう。任せる」
「分かった」
その話し合いで、精鋭部隊としてライナスとレスターに声がかかった。
どこに配置されても、ライナスは引き受けただろう。レベル159というのは、そういう役だ。他の誰よりも、多くのことができ、多くを経験し、周囲に合わせる技術をもつ――と、期待される。
ライナスはそれに応える。
精鋭部隊を招集しているのは『盾』のフィオリエ。レベル152の双剣士。深い関わりはないが、大きな問題を残すようなことはないだろう。もちろんメンバーは確認するし、作戦も聞いておく。
ライナスは、不謹慎だから決して口にはしないが、楽しみでもあった。
背中を預ける戦友となる、仲間たち。一体どんなメンバーだろう。
薄く期待した。型にはまらない個性的な人物がいる予感がした。なぜなら、精鋭部隊、だからだ。恐らくエルフやディルが中心となろう。変わった人もいるだろう。楽しみだ。
宿の一室で、ふ、とライナスは笑った。
城は取り戻せる。国はどうともならない。相手は悪魔リューノンなのだから。いかに上手に振舞うか、それだけだ。
正直、誰かにとっては命よりも重要だと分かっているものの、ライナスにとっては人生の中のひとつの “大きな”出来事だった。
もちろん、全力でやる。ほどほどに力を抜いて、全力を出せるようにやる。
誰かが死ぬかも知れないこともよく分かっている。自分が死ぬかも知れないこともよくわかっている。わかった上で、ライナスは思ってしまうのだ。楽しみだ、と。
◆レスター
精鋭部隊のことは、ライナスから聞かされた。
「班分けはまだ決定していないようだが、二班に分かれるそうだ。『盾』のフィオと、私の班だ。問題なければ私の班に配置する。顔合わせは明後日だ。装備ではなく、私服を準備しておくように」
「了…私服?」
「私服だ」
レスターは渋い顔をした。装備なら決まるが、私服を選ぶのは得意じゃなかった。装備ならいつもは愛用のもので、相手が分かっているならそれに応じて少し変えたり、グレードアップしたりする。私服は…アーマーの下に着る長袖シャツやズボンくらいしか持ち合わせていなかった。いつもならそれでいいかもしれないが、『盾』や『風』の幹部レベルが集まる顔合わせ、もう少しマシな何かを考えたいところだ。
「私服かぁ…」
「俺にとってはアーマーが私服です、という屁理屈は無効だからそのつもりで」
「…」
「リンクに見てもらったらどうだ」
二十年前に同じことを言ったら、レスターを怒らせただろう。
『緋炎の月』の幹部に、エルフの兄妹がいる。その兄のほうとレスターは、犬猿の仲だった。
レスターは、リンクの妹であるリニスに一目惚れした。
リンクは、大事な妹をレスターに――いや、ほかの誰にもやる気はなかった。
犬猿の仲になる理由は、それだけだった。つまり二人とも、リニスが大好きだったのだ。当のリニスは、最初は戸惑っていたが、次第にうんざりし始め、やがてふたりが喧嘩しているときは放っておくようになった。
レスターとリンクは同じ同盟の仲間だし、長年一緒にいてお互いのいいところも見えるようになった。だから、嫌い合っているというわけではないのだ。リニスについての一点だけが、相容れないのだ。
リンクもレスターも、初対面の時からぶつかりあってきた。エルフだから、ヒューマンだから、そういうことは全く頭になく、「ガードが硬いリニスの頑固兄」と「リニスに寄ってきた変な虫」。リンクが種族のことでレスターをバカにしたことはなかった。レスターがそれに気がついて、エルフのことでリンクをバカにするのをやめたのは、出会って何年か経ってからだった。別にエルフが嫌いなわけではない。リンクだから、言ってしまっていただけだ。しかし、リンクがヒューマンのことをバカにしないのに、レスターがエルフをバカにするのは、不公平だと思った。
嫌いではない。戦友で、同志だ。だが相容れることはない。
まあ、服のことなら、リンクのほうが詳しい――詳しいというか、一般的な服装を普通に選ぶことが出来る。レスターは冒険者に特化している人種だった。
そうだなあ、と、渋々レスターは頷く。
「明日リンクのとこに行ってみるか…」
「そんなことで俺のところにきたのか」
半分笑いながらリンクは言った。
「お前のセンス、ドン底だもんな」
「うるせい。こっちのほうがデカい店もあるだろ、そのついでだ。ったく男のくせにピアスなんか開けやがって」
「装備の一部でもあるんだ、レスターにも開けてやろうか」
「やめろ気持ち悪い」
「耐火のピアスとかあるぞ、どうだ」
「アーマーと、せいぜいリングで十分。それより服だ、服。マシなやつ見繕ってくれ」
「はいはい」
リンクはふざけもせず、店を何軒か回って、服をぱっぱと選んでくれた。精鋭部隊の顔合わせに着ていく、という真剣な理由だったからだろう。と、レスターが思っていたのに、選び終わって、リンクは言った。
「考えてみろよ、野郎二人でショッピングなんて…とっとと終わらせたかったからな」
レスターは苦笑せざるを得なかった。しかし、出てきた言葉は、「それもそうだ」。心から同意した。
別れ際、リンクはレスターを呼び止めた。
「しっかりやれよ」
精鋭部隊のことだ。ふん、と鼻で笑って、レスターは言い放つ。
「言われるまでもない。任せろ」
リンクは片眉を上げた。
「言ったな?外を守るのは俺たちだ。とっとと決着つけて出てこいよ」
分かっていた。メアの魔法兵士相手に、いつまでも持ちこたえるのは無理だ。精鋭部隊がいかに早く決着をつけるか、それ次第で、全滅するも生存するも決まる。
レスターは大真面目にこう返した。
「おまえこそ、俺が行くまでリニスちゃんをしっかり守らないと承知しないぞ」
「誰に向かって言ってる。当然だ。あと”ちゃん”付けでリニスを呼ぶな気持ち悪い」
「知らん。リニスちゃんが嫌がってないんだからいいだろ」
「聞こえないふりしてるんだよ。鳥肌が立つからやめろ」
聞こえないふりしてるのか!?レスターは一瞬本気になった。だが、それをリンクに悟られるのは癪だ。
ふ、とレスターは笑った。
「そろそろ呼び捨てでもいいかもしれんな」
リンクは顔を引きつらせた。
「そ…」
それもそれで嫌だがそれ以外にどうすればいいんだ、仲間ではあるから名前を呼ばないことはないし、かといってニックネームだなんて余計に悪いし…リンクがなにも言えないうちに、レスターは帰路に着く。
「じゃあな、また本戦の後かいつか、リニス…に会いに来る」
「来なくていい!」
◆アーシェ(弓)とメル(魔)
「精鋭部隊?」
「かわいくない名前」
フィオに声をかけられて、開口一言目がこれだ。フィオは苦笑した。
「可愛さは考えてなかったな」
「いいよ。同じ班?」
メルがたずねる。
「ああ、二人は同じ班だ。明後日、顔合わせをする」
「「おっけー任せて」」
「おっけー任せた」
にっこりとフィオに返事をした、その夜、双子は街の食堂で夕飯を食べながら、どちらからともなく視線を上げた。
ぱちっと合った自分に似た目。思ったことはきっと、同じことだった。
アイカのことだ。
アイカが小さな頃から面倒をみてきた。いつかこの戦いが始まるだろうことは、二十六年前から分かっていた。
不意にふたりはぱっと手を上げて、右手同士でハイタッチした。強気な笑顔を見合って、それから何事もなかったかのように、デザートの相談を始めたのだった。