はじめに
「カベウチ」のカンナ様に、その物語に、捧げます。
願わくば、カンナ様、私はあの物語の続きを知ることを望みます。
※カンナ様のお知り合いの方へ:もしこれが不適切な掲載でしたら、速やかに掲載を取り下げさせていただきますので、お手数ですがご一報下さい。当方、あの物語がなくなってしまうのが嫌で仕方がなかったため、二次創作という形で、出来るだけ原作崩壊を起こさないために極力曖昧に、ただしあの人たちなのだとわかるように、書きたいと思って書きました。
※「カベウチ」(カンナ様)より、リーフ、魔術師。当サイトより、エナ、レン、名前だけリーフ。このメンバーで、ある異世界にて、ちょっとしたやりとりをしています。
※Wixサイトはページ数が増えると非常に重くなるので、いわゆる別館であるこちらに置かせて頂きました。ご了承下さい。
※この頁の更新は、トップページでの告知をしていません。していいのかどうか分からず…。それに、レンが本編未登場でもあるため。
16.6.7
風枝 在葉
◆◆◆
邂逅、第三世界にて~ある剣士と魔術師~
「あれっ」
はぐれた。
エナは遺跡の角で立ち尽くした。T字路。右。左。後ろ…いやいるわけがない。
「リーフさん、右っすよね?」
迷路のようなこの遺跡は、天井がいたるところ抜け落ちていた。陽の光がそこから差し、文様が刻まれた白っぽい土色の壁や、そこにあるひび割れ、伝う植物、日光の下に生える草花を静かに照らしていた。
「リーフさん?…あれ?リーフさーん。…また置いてきぼりかよ」
リーフ、というのは、エナが16の時に出会い、21までお世話になった、いわば師匠だ。
(あれっ???)
おかしなことが起こっていた。
リーフを探していたはずだが、エナは、リーフと別れたのだった。今、一緒にいるはずがない。
だが、さっきまで一緒にいた気がする。だから探していた、はずなのだ。
今がいつなのか、ここはどこなのか、自分が何歳なのか…というところに思考は行き着かない。
ここは、そういう場所だった。
疑うことは、ここでは何もない。
エナは首をかしげて、迷路を歩く。突然いなくなるのはいつものことだし、エナは一人でもやっていける。ただし、合流は目指す。いつものように。
「リーフさーん」
「呼んだか?」
角からひょいっと顔が覗いた。いい笑顔の女性だった。
「えっ?いや…どちらさまですか?」
「お前が呼んだんじゃないか。私はリーフ」
あ、同じ名前の人? エナは目をぱちくりした。
角から現れた女性、リーフは、…師匠のリーフ…ややこしいのでエナの師匠は”リーフさん”、女性のリーフは”リーフ”とする。リーフは、リーフさんと同じく剣士、そしてどうやら旅人らしい出てだちだった。
はて? とリーフはエナを見て考える。
「どこかで会ったかな…?」
「いえ、初対面です。リーフっていう人を探していたら、偶然、あなたがいました」
「おぉ!なるほど!同姓同名の」
「いえ、異性です」
「!? そうか」
“リーフ”といえばエナにとってはリーフさんだが、リーフにとっては自分の名前。それぞれで性別のイメージも持っていたが、考えてみれば、リーフというのは女性名でも男性名でもありえそうだ。
「俺は、エナといいます」
「あ、はじめまして。リーフです。よろしく」
なんとなく改めて名乗りあった。面白いなあ、と思いつつエナはたずねる。
「ええと、リーフさんは、どうしてこんなところに?」
「私も、人を探しているんだ。一緒に旅をしている相棒なんだが、はぐれてしまって」
まったく、どこに行ったんだか。リーフは少しだけ困ったふうだった。エナと同じで、あんまり困っていないようだ。
「じゃあ、一緒に探しましょうか。なんていう人ですか?」
「魔術師」
リーフが当然のように堂々とそう答えた。エナはどうしたものかと一瞬考える。
「…ええと、名前は?」
「まだないんだ」
「ない?」
ちょっと驚いて思わず聞き返した。リーフは頷いた。表情はなんだか優しい。
「私が名前をあげる約束をしている。けど、今はまだ、魔術師って呼んでいるんだよ」
へえぇ、とエナ。色々事情があるんだろう。
「魔術師さん、でいいですかね」
「いいんじゃないか?」
軽い。
「リーフさんか…」
リーフはそう呟いて、妙でくすぐったそうな顔になる。
「面白いな」
「ですね」
ふたりは遺跡迷路を進み始める。
「魔術師さーん」
「リーフさーん。…リーフさんというのは、エナの相棒?」
「相棒というか、師匠です」
「師匠か…」
同名の女剣士はそうつぶやいて何を考えたのだろう。
「エナも、修業中なのか?」
修行? 縁のない単語に、一瞬考えた。
「…そうともいいますね。冒険者なので、ゴールもなにもないから、修行っていうのか分からないですけど」
冒険者、とリーフが繰り返す。冒険者という単語は、リーフにとって馴染みがなかったようだ。
「冒険者というのは、トレジャーハンターとか、旅人とかのことか?」
「え? いえ、冒険者の目的は宝とかじゃなくて、魔物や悪魔の討伐で――」
人探しよりも、互いの話に集中し、ふたりは遺跡を散歩する。迷路は迷路の意味をなさず、ただ静けさの中に2人の語らいが聞こえた。
*
「あんにゃろー、どこ行ったんだ。おーーい、リーフーー?」
「エナ?」
真っ黒ローブの魔術師と、真っ白ローブの魔法使いが鉢合わせた。
「あれっ、違った」
白いローブに金髪、青眼。あえて分類すればさわやか元気系。
「あ? 誰だよ…まあいい。女剣士を見かけなかったか?」
真っ黒ローブに真っ黒のツバ付き帽子。ばさばさした白い長髪。あえて分類すれば、気だるそうな若干悪人面。
女剣士?と、白いほう…レンは首をかしげる。
「見てないな…」
「そうか」
「あっ、待てよ、男剣士は見かけなかったか?ダークエルフなんだけど」
颯爽と立ち去ろうとした魔術師にレンが慌ててたずねた。魔術師は一時立ち止まる。
「知らねえな」
そしてまた歩き出す。
「えっ、そうか、じゃあ見つけたら教えるから、教えてくれよ!エナってやつだから! 俺あっち探すなー!」
魔術師はひらひらと背後に手を振った。慌ただしいやつだ。
「おーい」
「エナー?」
はっ。
角で再び、鉢合わせた。
「またお前かよ」
「なかなか見つからないな」
苦い顔と、どこか楽しそうな苦笑。
「一緒に探そうぜ」
「あ?」
なんでだ、と魔術師の表情が語る。レンは続けた。
「どうせまた、こうやって鉢合わせる気がする。もう、一緒に探そう。えーっと、女剣士の名前は?」
なんだそれ、と魔術師は表情で語りつつも、名前くらいなら、別々に探すとしても教えておいていいだろうと口にする。
「リーフだよ」
「リーフか。ってその前に、お前は? あ、俺はレン。お前の名前は?」
忙しいやつだな、と魔術師。
「ねえよ」
「ネエヨ?」
「ちげーーよ! 名前はないからなんとでも呼べよ!」
「じゃあ、ネエヨさん?」
「どうしてそうなるんだよ! 魔術師でいいよ!」
「そうか、分かった」
あっさり引き下がるレン。あれだけ忙しくて鬱陶しいのに、ここはあっさり。
魔術師にとってはどうでもいいことだ、とはいえ少しだけ疑問に思っていると、レンはこう言った。
「真名は教えられないしな。でも、呼び名くらい準備してないのか?」
「は?」
「いや、俺だったら、レンっていうのが名前…呼び名だけど」
「え、お前、それ本名じゃねえのか」
「え、真名バレたらやばいじゃんか」
「真名ってなんだよ」
「本名のことだよ。バレたら呪いなんかすごくかかりやすくなるし、対象指定されやすくなるし、危ないよ」
「へえー」
興味なさそうな魔術師に対して、レンは目を輝かせた。
「もしかして、俺が使う魔法と、お前の使う魔法って、違う原理なのかなっ!?」
「さあなー。ってかなんでそうなるんだよ。とっとと相棒探そうぜ」
歩き出す魔術師に、慌ててレンはついて行く。
「お前、名前はずっと持たないのか? なにかの信仰?」
「信仰じゃねえよ。…いや、信仰に近いのかな。おーーい、リーフー」
「エナー。信仰っぽいやつか。リーフって相棒は、なにかお前の信仰に関連してる仲間?」
「俺に名前をくれるやつだよ」
魔術師から、うぜえ、というオーラが出始めた。
名前を、とレンは繰り返して黙る。ようやく察したか、と思ったが、考えに耽っていただけのようだ。探しもしないし喋りもしない。
やがて言った。
「とっても特別な意味を持つ人なんだな、きっと」
レンに真っ直ぐそう言われて、魔術師は一時黙り込んだ――言い換えよう。レンが真っ直ぐにそう言うもので、魔術師はうっかり意味ありげな間を開けてしまった。
「…そうさ名前さえ得れば…」
浮かぶのは悪人の微笑み。
あれっ? とレンはそれを見つめて固まった。こういう反応?
悪人の含み笑いをしていた魔術師は、はっ、と我に返った。
「とにかく、とっとと見つけねえとな。行くぞー」
「お、おう…」
*
「――で、一人前の騎士になるために、私たちは旅をしているんだ」
「――で、今は、相棒の助けになれたらいいなって思ってるんです」
リーフとエナは語り合いながら、遺跡を歩いていた。
「騎士、ぜってえなれますよ。応援してます」
エナが力強く言うと、リーフも力強く頷いた。
「うん、ありがとう。絶対にあいつと成し遂げるよ」
あいつ、というのはリーフの相棒の魔術師のことだ。エナも、とリーフ。
「相棒の、レンさんと、一緒に頑張れよ! 応援してる」
エナは思わず、にっ、と笑って拳を作ってみせた。
「おう! へへっ、ありがとうございます」
笑い合う。
それから、エナはふと気になって尋ねた。
「そういや、あげる名前ってもう考えてるんですか?」
リーフは、魔術師に名前をあげる約束をしているのだ。
リーフは答えた。
エナは頷いた。
声はふたりだけのやりとりで、あらゆる世界の誰にも聞こえない。暖かな雰囲気だけが溢れる。
第三世界に音が戻った頃、会話はもう終わっていた。その代わり、リーフはこう言った。
「声がしなかったか?」
エナは言われて耳を澄ます。
声。知っている声だ。
ふたりは走り出した。互いに、相棒の名前を呼ぶ。
「あ! エナ! こんなとこにいたのかー」
走ってきたのはレンだ。
「レン! お前、来てたのか」
「来てたよ!」
「そうか。そうだった」
おお、相棒さんか、とリーフ。
「レンさん、魔術師を知らないか?」
「あれ? さっきまで一緒に…あ、リーフさんですね!?」
「ああ、そうだよ。はじめまして」
「はじめまして、レンです。魔術師は…」
「あっちかな?」
「そうですそうです。あっちの…ほら!」
レンが指差すと、遺跡の端っこだったのだろうか、長く直線で外と結ばれた道、その終わりに、逆光の中、影があった。
「おいリーフ! とっとと行くぜ!」
「分かった! すぐ行く!」
リーフはエナを振り返った。
「探していた”リーフさん”、一緒に探せなくて悪い。見つかるといいな」
ああ、とエナは微笑んだ。
「いえ、いいんですよ。俺は今、レンと旅をしてるんです」
「そうか?」
「はい」
リーフは、さっきエナがしたように拳を作ってみせた。
「じゃあ、またな! お互い頑張ろう」
エナも、ぐっと拳を作る。
「おう!」
リーフは優しくて頼もしい笑顔を残して、光の中へ進む。
「魔術師! 待たせたな! 行こう!」
「やれやれ、ようやく出発か」
光に消えたふたりの姿を見送って、レンとエナもまた、その遺跡から発つ。
踏み出せば、第三世界は形を崩す。
やりとりは、彼方に残される。
心が、深くで記憶している。
旅の続きは、誰かだけが知っている。信じるならば、それが真実。
あの世界で、彼らの旅は続く。
◆あとがき
カンナ様の描く物語、tandem knights の主人公・主人公格※独断と偏見しかない
・リーフ(リーフちゃんと呼ばせて頂いています)
女剣士。剣士と魔法使い、ふたりでの騎士と認められる世界で、一人前の騎士を目指して旅立った。ボケ属性。鍋したら肉ばっかり食う子。魔術師のために布を買って裁縫始めたところ(秘密)。料理はケミカル(!?)。戦闘はワイルド。
・魔術師
名前のない魔術師。白いボサボサの長髪に、黒いローブと帽子。鍋したらセリの根っこうめえって言う人。名前が欲しい。名前が欲しいからリーフについていっているだけ、名前を得ればこっちのもん、という考えが悪人面として表に出ることも。リーフの善行のおかげで「オレが悪人じゃねーか!」と自己嫌悪することもある。
・アイビス
魔法使い。クルガンの相棒。ほわんっとした女の子。ボケ属性。鍋したら「わーー」ってコアラのマーチ1箱を楽しそうに投入する子。
・クルガン
剣士。アイビスの相棒。恐らくとことん突っ込み属性。鍋したらエプロンつけて「野菜も食べなさい!」「根っこばかり取るんじゃない!」「アイビス、コアラのマーチ入れるのやめなさい!」っておたま片手に総ツッコミするオカン(主夫)。
みんな大好きだー!v