17'クリスマス
◆
・1.レンとエナ 2.リオナ(とセルヴァ) 3.オルト 4.エナとレン(とおっちゃん)
の短文4本です。繋がりはあるような無いような感じです。
・傾向:わりかししんみりしてます。わちゃわちゃしようと思ったけど思いつかず。思いのままに書きました(特に2,3)。4はわりと行き当たりばったりノリの部分が…ノリで書けると、わりと読んでも楽しい場合が多いのですが、日本語壊れてることがあるので、すみませんが、数日後にこっそり加筆修正してるかもです。でもイベントものはあまりカッチリ気合入れて書いてないので、しないかもです(どっちや)。
・2020.4.22 微修正しました。
◆
1.さんたさん とやら
「いい子にしてたらサンタさんがプレゼントをくれるんだって、うちのロードが、詩人のティラから聞いたって言ってた。本当かな? エナ知ってる?」
そろそろ魔法灯を消して寝ようかというとき、隣のベッドで転がったままレンがたずねた。
「サン…なんて? 天使クリスじゃねえの、それ?」
恐らく最も一般的な知識が、エナの言った天使クリスのことだ。クリスマスといえば、天使クリスと雪の贈り物。
「サンタ、だって。天使クリスのは、雪だろ? 積もらない、暖かい雪の贈り物のやつだろ?」
レンも知っている、やはり一般的な知識。ふわふわと冷たい雪とは違う。一日だけ、普通の雪よりも早く、暖かな光が雪のように降りてくる。それが天使クリスの贈り物だ。
「あの雪だけは冬の季節精霊が運ぶものじゃないらしいって聞いたことあるけど、詳しく知らないんだよな~。天使クリスの魔法が今にまで続いているっていうのは考えにくいし、やっぱ、なにかしら、精霊との契約によるものなのかなあ」
「何…いや、まあいいや」
急にマニアックな考察をし始めたので、エナはさっと話題を元に戻すことにした。
「さんた? っていうのは、知らねえや」
「いい子にしてたら欲しいものくれるんだって。本当だったらいのにな~」
「ふうん。欲しいものあんの?」
え、うーん、とレン。考えてなかったのか。
「なんでもいいなら…。…本がいい!」
お、案外普通、とエナ。
「魔法関連の本か」
「うん。それか、歴史のでもいい。魔法使いが関わってるやつ。あと俺でも使える知識があるといい。知らない古代語も載ってたらいいなあ!」
目を輝かせて、今度はレンがたずねる。
「エナは?」
「俺? んー…なんだろ。…金かな」
えええー? とレン。
「なんだそれつまんないなー」
「うまいもん食えるし宿も泊まれるし装備も買えるし、本も買えるじゃねえか」
「そうかもしれないけどさー。じゃあ金以外だったら? 物で」
「物? …あー、テレポートリング欲しい」
「…エナって現実的だな」
「せっかく何でももらえるなら、自分じゃなかなか手に入らないものがいいだろ」
「そうだけどさ、あー、それはそれとしてさ。もっと何かない?」
「んー。今のとこはそんなもんかな」
えー、と、やはり少しつまらなさそうにレン。
「そんなんじゃサンタさん、プレゼントくれないぞ」
エナは別にサンタからプレゼントを貰いたいとも思っていなかったが、なんとなく、大人気なく言い返してしまった。
「大体、なんで見ず知らずのサンタって人からプレゼントもらえるんだよ。俺のこと知らないだろサンタさん」
ふーん、とレン。
「朝起きて俺だけプレゼントもらってても怒るなよ!」
言いながら布団にくるまった。怒んねえよ! とエナ。
「でも、どうせならルサックの高級宿の食事券欲しい」
「あっ、二枚よろしくエナ!」
体をねじってエナに顔を向けたレンの、名案だという笑顔をちらりと見たが、エナは素っ気無く答えながらベッドに転がった。
「しらね、サンタに頼んどけよ」
「俺は本貰うしっ!」
やがて静かになった暗い部屋。伝わるわけのない布団の中でもごもごと、レンは本音を零した。
「俺がまだ見つけてないもの。方法が、欲しいです…」
*
2.天使クリスの光
――…あなたに、光を。
未来永劫交わることのない道を進む、
この空の下、どこかを歩むあなたへ、
天の大地から私はこれを、
せめて、寄り添う共として。
天使クリスが両手一杯に汲んだ光を、天の大地からそっとこぼした。光は広がり、無数の白い星となって、暖かく燃える雪として、地上へ降りた。
誰かの手のひらと出会うと、光は温もりとなってその人を満たした。まるで、想い人に寄り添うように。
天使クリスが隠した心を、決して口に出さない言葉を、光の雪は、静寂のうちに語る。
今年も、季節精霊が運ぶ冷たい雪に先んじて、天使クリスの贈り物がふわり、舞い降りる。
*
天使クリスの贈り物。暖かな光の雪。それは感じるものだった。
ほかの全てと同じく、見るものではなかった。
ただ、ほかの全ての”物体”と違って、また、雨や雪とも違っていて、まるで人の気配を感じるように、そこにあるのだと感じられるものだった。
天使クリスは、恋をしたのだ――…リオナはそう思っていた。
だからこの、天使クリスの贈り物と呼ばれるものは、まるで暖かな心のように、触れればそっと包み込むのだ。
天使クリスは、恋をしたのだ。
それが事実だとして、堕天使にならなかったのは、その事実を公にしなかったためだ。つまり、きっと、それを言葉や行動として、相手に伝えることは、なかったのだろう。
クリスは、天使であることを選んだ。
それは決して相手を忘れるとか、愛さなくなるとかいうことではない。
リオナが母親になるずっと前のこと。
始めて共有魔法というものを使ったのが、この日だった。
感じるものであったクリスの贈り物を、”見た”。
クリスの贈り物を含めて全てを、始めて、”見た”のだ。
夜空を。星を。雪のように降るクリスの心を。
セルヴァの目を通して。
冬の寒い空の下、暖かな気配を、見上げると、気配と重なって光が見えた。盲目であるはずのリオナが始めて見た景色。立つことを忘れかけるほど、セルヴァの腕に支えられながら空を仰ぎ、見入った。
光の気配はいつも暖かだった。見れば、本当に優しい光で、ふわり、ふわりと、夜の空を――そう、これが夜の、空――降りてやってくるのだ。
「大丈夫?」
言葉以上に、セルヴァが心配しているのだと分かって、自分が泣いていたと気がつくと同時に、リオナは笑ってしまった。
暖かな冬の記憶。
冒険者となることも、エルフの伴侶となることも、家族は、特に兄は反対した。
リオナは選んだ。
そして月日が経った今、リオナは兄や家族と笑顔で会えるようになった。
今年も天使クリスの贈り物が、暖かな心が、人々を包む。
*
3.木の虚とプレゼント
サンタというのは赤い服を着ていて、トナカイが引くソリに乗って、空を飛んで、子供達にプレゼントを配るのだそうだ。
輝く白い鳳に引かれるように追従して、ソリは夜空を駆けていた。
夜風の道。星の道しるべ。冷たさは、暖かさを際立たせる。オルトは赤い暖かな服に身を包んで、そのソリに乗って、鳳が羽ばたいて先導するのを見ている。
ふたりは雪の森へ降りていく。ここに家はないが、子供がいるのだ。
オルトはプレゼントを持って、半分雪で埋まった大きな木の虚の前に膝をついた。
ここに子供がいるのだ。
ふたりぼっちで何年も過ごした、子供がいるのだ。
オルトは感謝のような愛情のような、温かな気持ちを込めて一度、プレゼントの箱を胸に抱いた。
箱の中身は知らないが、中身はなんだっていいのだ。
「オレたちは幸せだった」
箱を置くと、箱はころんと転がって中へ入ってしまった。きっと中にいる子供は、朝、目覚めて、贈り物に目を輝かせることだろう。
オルトは立ち上がって、振り返った。
輝く白の鳳が、白銀の雪の上にさらに白く、佇んでいる。ソリはどこかへ無くなっていた。
「帰ろ」
佇む彼に笑いかけて、オルトは白い鳳に変身した。
そして空を飛んで帰っていく。
夜空、途中で、帰る場所が違うのだと言われたようだった。
「そっか、あっちなんだ? オレはこっち。ばいばい、ありがとー」
輝く白い鳳と夜空で別れた。
帰ってきた――いや目が覚めた。
なんだっただろうか、夢を見ていたような…ぼんやりと思う。
幸せな気持ちで、オルトはまた目を閉じた。
*
4.朝、贈り物に気が付いて
天使クリスの贈り物に次いで雪が降ったようだ。早朝、カーテンの隙間から、薄暗い中に見えた青いくらい白い雪の道に、レンは目を輝かせた。
そっと部屋を抜け出した。
その数十分後に目を覚まして、エナは相方が寝ていたはずの、空のベッドに目をやった。恐らく起きた時のぐしゃっとした状態のまま放ってある。
ともかく着替えて、ふとカーテンの隙間から、まだまだ薄暗い外を見た。窓際の冷気と、雪道の白さに、エナは思わず呟いた。
「寒ぃ」
この宿には食堂がない。レンが見当たらない。どこへ行ったのだろうと、探す場所もない宿内から出た。
宿前の魔法灯が橙の暖かな光を落としている。しかしながら冷たい空気が肌に染みる。耳先や鼻先を冷やしていく。
不意に、控えめな歓声が聴こえた。
見ると、レンが見知らぬおじさんとハイタッチをしている。
彼らの傍らには、身長1メートルをゆうに超える雪だるま。大玉二つが積まれただけの、シンプルなものだ。
「かまくらも作れますかね!?」
「そこの広いとこでいけるだろう! 雪集めるぞ少年!」
「はい!」
「シャベル持ってくるから待ってな!」
愉快なおじさんは、10センチは積もっている雪の道を上手に走り去った。それを見送ったレンに歩み寄る。
「おはよう」
「あっ、おはよう!」
「かまくらの前にさ、こいつ、もう一段増やせるんじゃね」
エナが雪だるまに目をやって示す。
レンは一瞬ぽかんとして雪だるまを眺め、すぐに目を輝かせた。
「そうしよう! もう一個乗せよう!」
「おっし。あとで帽子とかボタンとか顔も作らねえ?」
レンは、おう、と言ってから、意外そうにエナを見る。
「エナって遊ぶのうまいよなあ。いいなあ」
エナも少し自覚はあった。自分から真っ先に遊びにいくわけではないが、遊びを思いついてはいるし、遊んでいる人がいれば混ざりにいく。なんだかんだで、遊ぶことは母親からも近所の友達や大人からも、最初の師匠からも、たくさん吸収した気がする。
「まあ。周りにそういう楽しい人が多かったからな」
「じゃあ次は俺に教えてよ」
「勝手に遊ぶから勝手に吸収しろよ」
「お、分かった!」
そこへ、さっきのおじさんが戻ってきた。楽しそうなおじさんは、エナを見て満面の笑みだ。
「お、君もかまくら作るの手伝ってくれるんだな?」
ぐいぐいくる。見れば、色々見越して持ってきたのだろう、シャベルを4本も抱えている。
「おじちゃん、先に雪だるまを3段雪だるまにしようよ」
レンに”おじちゃん”と呼ばれて、おじさんは、いいな、と頷いた。
「どっちやりたい? おっちゃんがかまくらの雪集めしていい?」
「いい! 俺雪だるまの三段目やりたい!」
「じゃあ少年2はおっちゃんと雪集めしてくれる?」
エナは少年2となった。
「了解っす、おっちゃん隊長」
おっちゃん隊長、とレンは繰り返して真似した。
「了解です、おっちゃん隊長!」
「よし、では各自作業へ取り掛かれ!」
おっちゃんとエナがかまくらのために雪を集め、ついでに雪かきをし、レンは雪だるまの三段目を作り始めた。
いつしか4人目の隊員が宿から現れて、おっちゃんのシャベルはすべて握られた。
雪だるまは見知らぬひとたちに帽子をもらい、マフラーをもらい、ボタンをもらい、笑顔をもらった。
かまくら作りはまた数人隊員が増えた。朝ごはんの休憩を挟んで数時間後に立派なかまくらが完成した。おっちゃん隊長を囲んでちょっとしたハイタッチ祭りが起こった。
その中で判明したのが、どうやらおっちゃんは、町長さんだった。
「遊び上手は楽しいし仲良くなれるし、つまり人を惹きつけるし良い関係につながる。大人になっても大事にするといい! さらばだ少年たち。この町は君たちを歓迎しているよ。名物のシチューを是非食べていってくれ」
言い残してとっとと去っていった。まさかとは思うが仕事…――エナはそこまでで考えるのをやめた。きっと色々事情があって、ともかく、大丈夫だろう。
「サンタさんみたいだったな、おっちゃん隊長」
レンに言われて、エナはなんとなく納得して頷いた。
「確かに」
いい子のところにはサンタさんが来る、というレンの言葉がなぜか蘇った。
自分がいい子とは思わない。思わないが、子供の頃に大人たちに習った遊びを、誰かと一緒に楽しめるのは、悪くないと思った。
今になって、あのなんでもない日々に、エナはふっと笑った。なんだかたくさんのことを、気がつかないうちに教わっていて、それがいま、レンを笑顔にすることに一躍買っているのかと。
「楽しかったな」
するとレンがまた満面の笑みだ。
「楽しかったー! 俺かまくらなんか初めて作ったもん! すげーな! あれ、中暖かいんだな!」
「中で鍋すると最高なんだよ」
「えっ、やろうぜ!?」
幸い宿代はまだ大丈夫だ。こりゃあともう一泊かな、とエナは白い息で笑った。
Fi
◆あとがき◆
最後ちょっと駆け足しました(27日アップ~!)
このあとスターウォーズ観に行く(おい)
・途中で気がついたのですが、レンとエナが一緒にいて、かつ、アースと合流してなくて、かつ、色々な部分から察するにREAの中盤以前の時期しかありえなくて、
そんな時期にレンとエナが雪の降る場所にいるというのは、国外(かなり北で夏がほぼないようなところ)に出ないとありえなくて…レンとエナのこの物語はフィクションなのか…!?(※そもそもフィクションですね)。…でも考えていたら、もしかしたら本当に国外行ったのかなーって思えてきました。
・あとエナがこの時、寒さよけの魔法を使用可能なのかどうか未検討だったので、描写入れないでおきました。エナ外伝書き終わってからじゃないと確定しないかもしれないです…。使えるような、気は、するんですが…だってスペルストラップの《送る炎》は使える…。…まて、REA時点では使えるのかあれ?(おい)
・あと愉快なおっちゃん隊長ですが、誰だろうってずっと思いながら書いてたんですが…①ガチでただのモブ②『中央騎士団』の誰某③『中央騎士団』の現サブロード(FaO時のフィリアの位置)④メア国研究職のフランツ(REAⅢ登場予定)のとーちゃん とかしか思いつかなくて、マイナーすぎるし時間もないしで考えるのやめました← そして町長さんになりました← 行き当たりばったり感半端ない。
・カットしたメタ発言
「つうかお前も、本って、相当普通じゃねえか」
「本バカにすんなよ! 印刷技術とかどうだと思ってんだよ!」
「どうなん?」
「ともかく、なんか、そんないっぱいおなじ本はねえよ!」
「あるにはあるんだな」
「基本は手書きだよ多分!」
「多分?」
「手書きだよ!」
「複製どうやんの?」
「魔法!?」
「魔法!?」
「…いや多分魔法じゃなくて技術者がいますって頭の中に声が」
「おいやめろ」
お付き合いいただきありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。