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16'七夕

     書いたのは15'6~7。『琥珀の盾』1770年主要~マイナー+αメンバーと、『緋炎の月』1770年主要メンバー

     『旋風』1770年の主要メンバーで。

 

 

 

・『琥珀の盾』の七夕、『琥珀の盾』の仲間の七夕、『緋炎の月』の七夕、『琥珀の盾』初期メンバーの七夕、『旋風』の七夕 の5本。

・暫定の設定でも書いています(=本編等で確定させていない設定が出ています)、が、そんなにズレてもないはずです。また、設定云々あんまり気にしていません。

・未登場キャラクターがいます。(『琥珀の盾』サポーターのソリとヴェイル。『緋炎の月』のリニスは今回も本編FaOも名前だけ。『旋風』のシャルアとクレイン。『盾』のウォーレスは地味に既出です←)

『琥珀の盾』の七夕

 

「7月7日は七夕といって、リリエンタール《星人》たちの世界では、大切な人と一緒にいることができる特別な日なんだよ」

 どこから入手したうんちくなのか、エルミオはそう言った。ティラですら、興味深そうな、かつ、不思議そうな表情をする。

「聞いた事がないお話です。《星人》というと、『東』の伝承でしょうか?」

 ずっと昔に、《はじまりの樹》が空へ枝を伸ばしたとき落ちてきてしまった《星人》が、東の砂漠にいるとされているのだ。

「さあ、俺は『西』で、空人に関連したことで聞いたよ。不思議な力が《星人》たちを会わせてくれるそうだ」

「六じゃなくて七なんだねー」

 オルトはうきうきとペンを走らせた。そして嬉しそうに長方形の紙をエルミオに示す。

「できた! これでいいのかなー?」

「うん、オルトらしい素敵なお願いだね」

 へへーとオルトは笑って、笹にそれを付けに行った。

「六月六日は大神様の祝日だもんねえ。だからそこは外してあえて七なの?」

 アーシェが首をかしげると、メルは肩をすくめた。

「《星人》のほうでは七が神様の数字なのかも?」

 そうして双子のエルフはぱっとエルミオに目で問うた。

「さあ、そこまでは分からないな。《はじまりの樹》に聞いてみないとね」

 エルミオは飄々と、さも友人のように《樹》のことを口にする。それは半分伝説と化している、世界を支える大樹だ。多分、実在している。

「七も、素敵な数字ですよね」

 コロナがふとそう言う。

「フェアリー、ケンタウロス、アラク、パン、ハーピー、スキュラ、ラミュア。母の樹から直接生まれる彼らは7種族です」

 なるほど、と一同は納得する――または、母の樹から生まれる種族について記憶をたどる。確かに言われてみればそうだ。ただ、母の樹から生まれる種族を全て述べよ、と言われても、コロナのように自信を持ってそれが七種族だと言えない。ティラは例外。

「魔法もですね」

 セルヴァも思い出したように言った。

「地、水、火、風、樹、光、闇。時間と空間を除けば、ですが」

 ほんとだ、と双子が声を揃えた。それからメルがウォーレスを振り返って小突いた。

「あと何かないの?」

「俺? そんなマニアックな知識もって…おお、あった」

 ウォーレスはぽんっと手を打つ。

「一週間七日!」

 えー?と双子。

「それ属性と被ってるじゃん」

「ユピテル《樹》、サタルヌス《地》、メルクリウス《水》、マルス《火》、ヴェヌス《風》、ソール《光》、ルーナ《闇》」

「ちなみに大抵はユピテルが休日なんだぜ!」

 どやっ、と親指を立ててみせたウォーレスに、「それ常識!」「面白くないしノーカン!」と双子は厳しい。

「ちぇー。俺じゃなくてリオナに振れっつうの」

 ウォーレスからバトンタッチされ、リオナは、ん? と顔を上げた。紙に触れ、ペンに触れ、紙の大きさや書く位置やペンをはじめに置く位置など、色々と確認し、書こうとしたところだったようだ。

「んー、そうですね…」

 リオナは、紙とペンには触れたままだったが、楽しそうに考えた。そして、にこっとする。

「音楽、でしょうか」

 音楽? と双子は顔を見合わせ、セルヴァもエルミオも、音楽に疎い冒険者たちは一時なんのことかと考えた。

「…違っていたらごめんなさい。私が今まで聴いてきた印象でしかないんです」

「素敵。その通りです、リオナさん。よく分かりましたね」

 ティラが微笑んでいた。彼女は魔法使いで、詩人だ。リオナも笑った。

「やっぱり、そうなんですね」

 

 

『琥珀の盾』の仲間の七夕

 

 

 エラーブル村の宿、優しい夜風の吹く小さな庭に、椅子と、それに腰掛けた影が4つ並んでいた。夕食後、忙しさを抜けた後の4人。持ち出した空の木箱の上にはワイン、と、ブドウジュース。

「ツェー、デー、エー、エフ、ゲー、アー、ハー。七つの音。七つで音階が出来る」

 満点の星を見上げながら、ヴェイルは呟いた。ミユ族の彼は、ミユ族でありながら音楽の才がない変わり者だ。知識はあるものの奏でることはない。エラーブル村で、ソリという妻とともに宿を経営している。ふたりとも『琥珀の盾』のサポーターだ。

「不思議なことだ。しかし、大神がなぜ7つではないのか、俺にはそちらのほうが不思議でならない」

「1人は気が合わなくて旅に出たのかもしれませんよ」

 リーフが言う。

「1人はもっと広い世界を旅して見聞を広げているとか」

 フィオも言う。

「1人は人に混ざって暮らしているのかもしれない」

 ヴェイルの妻、ソリが言う。

 おお、とフィオが思わず声を上げた。

「それいい。気に入ったからそれにしよう」

「まあ。ありがとう、フィオ」

 二人の想像力に感心しつつ、リーフはその答えを心の中で反芻した。個人的にはフィオの答えのほうが好きだったし、納得できた。人に混ざって暮らしているとは、一体何を考えているのか。大神の役割を放棄していないのなら、悪魔どもをどうにかすればいいのに。そもそも大神とは何をやっている連中なのやら。

「その1人は」

 ヴェイルが呟く。この感じは、きっと不思議モード発動だ。

「居るのに、いないことになっているのかもしれない。そしていつか本当にいなくなったとき、居たのだと気がつかれるのかもしれない」

 突然何を言い出すのか、わからなかったが、それは、とても寂しいことのように思えた。

「居るって知ってるからね」

 ソリがそう言って微笑んだ。こういう人だから、夫婦になることができたのだろう。

 

 

『緋炎の月』の七夕

 

 

「空人全ての王たるフェニックスから、我らは今日についての知識を賜った。今や空では常識だ」

 クレィニァは語った。

 依頼を終えて、一息つく夜の、遅めの食事。街食堂はもう一時間もすれば閑散となるだろう。広々とテーブルを使って、『緋炎の月』のクレィニァ、ココルネ、レフィーヤ、ライナスは食後の雑談を楽しんでいた。

「でも、なぜお願い事をするのかしら?」

 ココルネは答えを期待してたずねたが、クレィニァはふむ、と考え、やがて言った。

「忘れたな…」

「忘れたんかいっ」

 レフィーヤが盛大に突っ込んだ。うむ、とクレィニァはまた大真面目に説明する。

「ただ、そういう文化だった。我らが飛べぬ場所まで、願いと共に煙が登るのだ。《星人》の世界へ至り…ふむ、そうだ、彼らの望みを叶えている不思議な力に触れると、我らの願いも叶うのだといわれていた。まじないのようなものだ。…ここ(地上)からでは、より難しいだろうな」

 クレィニァは空を見上げるように目線を上げた。

「なら、飛びながら燃やせば届きやすいだろうか」

 ライナスが言う。

「さあな。やったことはないが…やる気か、ライナス」

 クレィニァが少し眉を上げた。やる気か、とは言ったが、実際にやるのはスザクの空人、クレィニァだ。ライナスは願いを書くだけ。

「ん? やるならあたしもやるよ? 紙いる?」

 レフィーヤまで乗り気だ。

「ああ、ペンも要るわね。紙ってなんでもいいの?」

 ココルネも具体的な準備をするために質問をする。

 不思議と楽しくなってきて、クレィニァも小さく笑った。

「ふむ。願いを書く、というとそういうことになるか…我らは紙など使わなかったが…そうだな、地上でやるなら、そうだろう」

 懐かしい、そう思った。ただ、やり方は違ったのだが。空人には紙もペンも要らない。空人は枝を並べたり、樹に彫ったりして願いを書き、それを燃やす。スザクであれば、魔法の炎で願いを描き、その煙を空へ上げる。

 地上流にしようとすると、可愛らしいことになりそうだ。それもいい。願いが上がってゆけばいいのだ。

「レスターやリニスも呼んでくる」

ライナスはさっさと立ち上がる。どうやら決定だ。

「我らも準備に取り掛かるぞ」

「おっけーい!」

 レフィーヤは軽く言いつつ、ココルネは笑いつつ、二人はクレィニァの普段通りの号令に、つい『緋炎の月』の敬礼をするのだった。

 

 

 『琥珀の盾』初期メンバーと七夕

 

 

 必ずこの日には、思い出すのだ。

 セルヴァは、忘れてしまわないように、癖のように。

 フィオリエは、ふと、懐かしい思い出のひとつとして。

 エルミオは、それが当然のように、記憶のひとつとして…その中でも、愛しいものとして。

 『琥珀の盾』の始まりの5人、その中の二人のことを。

 こびと族の二人。パウリ族のロイ。ゴブリン族のククル。

「ククルを守る魔法使いになる」

「ゴブリン最強の女戦士」

 二人はお互いの願いを見つけて、まずククルが、はあ? と声を上げた。

「じゃああんた、世界で一番強くならなきゃじゃん」

 ロイはククルを見て、あ、そっか! と目を丸くした。ククルが最強戦士ならば、守る魔法使いはもっと強くなくては。ククルの中で「ゴブリン最強の」とはつまり、世界一、と同義なのだ。ロイは、よし、分かった! と、ククルにこう言った。

「じゃあ世界一になるよ!」

「え?」

「待ってね」

 ロイは自分の願いに書き足す。

「ククルを守る 世界一の 魔法使いになる」

 ククルは、ほら、と目を輝かせるロイにむっとした表情を見せてそっぽをむいた。

「ばっかじゃないの!? …そんなの、あんた、簡単になれるもんじゃないでしょ」

 なぜだかロイはさらに目を輝かせる――セルヴァは後から聞いたのだが、「ククルは、なれるわけないじゃないって言わなかったよ!」だそうだ。

 ロイは嬉しかったのだろう。大きな声でククルに言った。

「なるから見ててよ!」

 

 そんな一番弟子を、今でもセルヴァは尊敬している。あの頃、パウリ族の命はせいぜい十年。ロイの生き様は忘れられるものではない。

 

 そんな男を、今でもフィオリエはすごいと思う。ククルは強い女だ、そして後から気がついたが、かなり乙女なのだ。よく彼女のことに気がついて、離さなかったもんだ。

 

 そんな彼らを、今でもエルミオは、愛にあふれた、愛おしい者たちだと思う。

 

 

『旋風』の七夕

 

 

「タナバタってなによ」

 シャルアは『北』育ちのダークエルフだった。クレインも『北』育ち。アルル、ケイン、スーラは『西』出身だ。

 スーラがふと思い出して言葉にした、七夕、それはシャルアとクレインには馴染みのない響きだった。

「当たらない恋占いみたいなものだわ」

 アルルが冷めた口調で言った。恋占いなんてしたことあるの!? という言葉がメンバーの脳内に浮かんだが、今この場でそれを言うのはやめた。理由はそれぞれ、アルルが怒りそう、意地悪するのはやめとこう、後で聞いたほうが教えてくれそう、アルルも女の子だもんな…と思ったからだ。

「空人の文化で、空に願いを込めた煙を上げるらしい」

 ケインの言葉に、へー、と言いながら明らかに分からない顔をして、シャルアが再び口を開く。

「それで?」

 短い問いに今度はケインが分からず、ん? と聞き返す。

「煙あげて、どうすんの?」

「どうもならないわ」

 アルルはばっさり言い切る。しかし、興味を持っている様子のシャルアとクレインもいるせいか、話を続けた。

「《星人》の世界では、七月七日に不思議な力が働いて、必ず大切な人と一緒に過ごせるそうよ。その不思議な力まで煙が届くと、願いが叶うとされているらしいわ」

「へえー!」

 意外と乙女なシャルアは目を輝かせた。こういう話は好きなのだ。だが、口が裂けても「やろうよ!」とは言わない。

 一方でクレインは単純に感心している。

「すごいなあ、それ。どうやるんだ?でかい焚き火して、その周りで願いを言うのか?」

「いやいや、どんな不気味な魔法よそれ」

 メンバー一のツッコミ役であるスーラがクレインに突っ込む。

「不気味じゃねえよ。で、どうやるんだ?」

「空人がどうやってるかは知らないけど、地上の国の一部では、紙に願いを書いて、それを木に結びつけて、燃やしていたわ」

 シャルアとクレインはわずかに戸惑う。

「木を燃やす?」

「いやあ、それはまずいような…」

 ダークエルフもダークヒューマンも、1700年に終わったエルフとヒューマンの戦に関わった種族だ。シャルアもクレインもその後に生まれたが、親から厳しく言われて育ったことだろう。この世界は《はじまりの樹》が支えている、私たちより偉大な存在である神々や、精霊や、それに近い竜は、私たちの愚かな行いを許しはしないのだ、と。

「言い方が悪かったわ、ごめんなさい。枝の一部を頂いたり、笹という植物の一部を頂いたり、色々だけれど、命を奪ったり、大量虐殺のようなことはしないわ。頂いた枝には、一度にたくさんの紙を付けるの」

 アルルが補足すると、シャルアとクレインは少しほっとした様子だ。だが、もう、「やってみたい」というような目の輝きはなくなった。そもそも『旋風』はそういう同盟だ。願うならば、行動するのだ。

「ロマンチックよね」

 スーラが呟く。わはは、とクレインは笑った。

「そうだな! 俺たちとは縁遠いな!」

 ちっ、とシャルアは舌打ちしいてクレインを小突く。

「あんたとは無縁だな!」

「あぁ!?」

 ふふ、とアルルは笑う。

「乙女が好きな遊びだわ。気が向いたらやってみてもいいかもしれないわね」

 乙女だと? メンバーはそれぞれ…乙女とはまた縁遠い言葉を使う、来年あたりやってみたいかも、乙女ねえアルルも、可憐だ…などとバラバラなことを考える。

 アルルは続けた。

「目的を果たす活力にはなるでしょうし。他人に目標を晒すことになるわけだものね」

 うん、いつも通りのアルルだった。メンバーは適当に相槌を打ったり同意したり笑ったりしたが、心の内は一致した。

 

 

 願いを書いても書かなくても、信じても信じなくても、今日は、一緒にいる日。

 

 

 

Fin.

 

 

 

◆あとがき◆

以上、七夕あるならこんな感じ!? の妄想でした!ヽ(´∀`*)ノ

旋風がとっても楽しかったです。

書いたのは、多分FaOの中盤あたりを書いていた去年(2015)の上半期だったと思われます。

情景描写? あ、はい、遊んだだけだったんで、書く気なかったっすサーセン。

さっき、お情け程度に、ヴェイルの説明とか、ちょっとした状況説明とかを加筆しただけです。

久しぶりに見たらそこそこ楽しく気分転換できたのでついでにアップしました。

外伝でも、こんなククルとロイを描きたいです…! 

 

 

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