夢の世界を、
頭の中で勝手に作られた嘘の世界だって思ってる人が多いけど‥‥
本当は夢にも実体があって、
それを現実のフィルターを通して垣間見るのが夢なんですぅ。
―――聖剣伝説LEGEND OF MANA 夢魔ベル
*
12.蛍
深い緑の夢だった。
森の中を滑るように移動して、蛍の泉を見つけた。
「わあ…!」
真っ黒い宇宙の中に、銀河のように輝く。
小さいもの、大きいもの、散らばる光、渦巻く輝き。
美しく、そこに本物の宇宙が広がっているようだった。
私たちはそれを、安全な、森の中で見た。
美しい光景だった。
星蛍の森、闇空の泉。そんな名前が似合う。
目覚めた私は、ふ、と事実に気が付くことがある。私はただあの森で、あの光景を見ていただけだ。
私が感動しているだけのあの夢で、私の見えていない場所で、ヴェールが影を倒していた。起きてから、あ、と、まるでそれを夢で見て知っているかのように、思い出すように、まさに気が付くのだ。
不思議なことだが、それは本当だった。
私は、私の見ていない夢を知っている。
13.雪
ふわふわと舞い降りていた。
白だけではない。暖かくて淡い色合いのそれは、ゆっくりと、ゆらゆらと、下降する。
不思議な世界だ。リアルではない。
寒くもない。
「今年、ホワイトクリスマスだといいなぁ」
理由はないけど、なんかいいよね?ホワイトクリスマス。
ずうっと立っていると、そのふわふわが、渦を巻き始めた。
私を取り囲むように、ぐるぐる。
これは何か危ない状況だ。だが、焦りはなかった。
小さい頃は、夢の中で死にそうになることはよくあった。本当に怖くて、走ろうとしても足が動かないし、予想してしまった最悪のシナリオをたどってしまうと分かっていた。
今、私は夢の中で死なない。切り抜けられる、戦える、そう確信することができる。
くるくる回るそれは、見上げてみると頭上も塞いでいた。上に跳ぶのはダメみたいだ。
だんだん動きが早くなる。
仕方ない。
意を決して私は飛び込んだ。
躱せる。躱す。ぴょんぴょんくるくる動き回って、どこまで続くかわからないその渦の壁を、舞うように通っていく。
長い。だが、ふっと上空が開けた。私は垂直に跳躍する。
そして呼んだ。
「ヴェール!」
白い炎が、私の後ろから、私だけを避けて、雪のようなそれらを包み、蒸発させていく。
私は重力にしたがって、雪の消えた白い夢に降りていく。
上を見ると、白狐がいる。
「ありがとう、助かった」
こちらこそ、と、ヴェールは頷いた。
ああ、あの雪は、影の一種だったのだろうか。私はそう思い、それはすぐに理由のない確信に変わった。
影は、私の思う”影”の姿でそこに居るとは限らないのだ。
14.魔法剣士
ファンタジーな思考回路のおかげだろうか、ファンタジーな夢も見ることがある。
城にいた。戦争だ。戦いが、急に始まった。
私は駆けた。早く知らせなければ。走って走って、城の最高位の騎士の部屋の扉を勢いよく開けた。
「クレス…っ…」
それはとあるゲームの主人公の名前だった。実際、その騎士も、あのゲームのクレスと似ていた(白や赤の印象は薄かったが)。
扉を開けて、私は固まった。名前を呼んだが、続く言葉は失われた。
騎士の部屋は、陽光の朱に染まっていた。夕暮れ時、クレスは部屋で、剣を半分ほど抜いて静止していた。
黒くべったりした陰影が、朱の光と、刃の輝きを不気味に強調する。人の声が呪詛を唱えるような音楽が、私の耳には届いた。
そのおどろおどろしい時は、唐突に途切れた。
クレスが剣を収めると、影も、光も、ただの背景へと戻る。
騎士は、絶句して動けない私に、いつもどおり、にっこり優しく笑った。
「うん、分かってる。すぐ行くよ」
どう場面がつながったのか、記憶が定かでない。
城の庭では、魔法剣士二人が戦っていた。敵方は、銀の長髪を三つ編みにした、シノンという者。城側の魔法剣士は、青紫っぽい印象の剣士…色合いだけは、”再誕の物語”に登場する敵”嵐の力を振るう剣士”に似ていた。シアーセ、という発音に近い名前だ。どちらも若い。
二人は、何かを取り合うために争っていた。魔法剣士たちは空中で地上で、刃を交え、火花を散らし、打ち合う。
結果は…シノンが一枚上手だった。
空中で勝利の笑みを浮かべてシアーセを見下ろしたシノンの手には、宝箱のような形をした小箱があった。シノンは姿を消した。
小箱を奪われたことよりも、シアーセの胸には、負けた悔しさが苦く広がっていた。
…これを、小説にしようとしたことがある。三十ページ以上書いて、止まってしまった。具体的にするより、抽象的な夢が魅力的に思えた。
私が、私の物語について細かい設定を考えると、それは公式設定になってしまう。
少しの公式設定を元に、あれこれ妄想するのは、なんと楽しいことか。
15.深海の迷宮
鯨型の大きな大きな…岩、のようなものだった。古いのかもしれない、大きな迷宮の岩。
中は、まず、下は白い砂だった。海の中なので、蒼く見える。
古い鯨岩の中は、崩れている様子などなかった。丸いトンネルのような通路。直径一メートルくらいのそこを、視点だけになった私は、泳ぎ進む。
その通路が、部屋…のような、球の形の空間を繋いでいる。その部屋も、直径二メートル程度の小さなものだ。
ずっと進んでいくと、大きな部屋があった。最後の部屋。
大空洞。珊瑚が蒼を重ねられて綺麗だ。鮮やかさはない。
玉座のようなものが、奥の高いところにある。そこへは、道…階段だろうか、それが、珊瑚に埋もれるようにまっすぐ続く。
玉座には、石、だろうか…石でできた、長い髪の女性が、あった。
何の気配もない。魚も見当たらない。珊瑚が生きているのかわからない。寂しい。蒼い。静か。命はあったのだろうか。
16.おう様
レンガ色の王国だった。
そこにはいろんな人が住んでいた。
小さなレンガの橋のところで、近所のおばさんに挨拶した。にこにこと、優しそうで、おしゃべりが好きそうなおばさん。
その直後だった。”オーディン”と呼ばれるものの襲撃がきた(見た目は全くオーディンではなく、某ファンタジーゲームⅨのバハムートに近かった)。
オーディンは、ファイアーボール(とは名ばかりの、実質メルトン)を都に降らせる。
(あ、さっきの橋…直撃したか…)
悲しい予感がちらりと過ぎった。
混乱し、人々が逃げ惑う都の中を、私はある人を探して走った。恐怖はなかった。決心した後のような気持ちがあり、ただひとつの目的のために駆けた。
やがて、その人を見つけた。
よかった生きてた、と、またちらりと喜ぶ気持ちが過る。
彼は、この国の、おう様だ。(なぜだか、王様というより、おう様というイメージだ)。
長身、そこそこがっしりめの男らしい体格。黒髪、白い衣装――全体の雰囲気や性格は”Ⅷの大統領”、見た目は” 牽星箝を外した十三番隊隊長”、服の印象は”七幽霊の聖職者の服(帽子なし)”、声は誰かと聞かれれば”TBのウサギちゃん”より少し低めの若い声にだった。
おう様は、こんな混乱の中、民を避難誘導していた。なにやってんだおう様。だが、そんな人なのだと私は分かっていた。
まっすぐ彼に歩み寄って、上腕あたりをぽんと叩いてこちらに気がつかせた。背が高いから、肩をぽん、というのはやりにくいのだ。
私は無言で、おう様に守りの魔法をかけた。広げた腕をなめらかに動かし、体の前で合わせる。
「貴方に守りがありますように」
正確な文句はすぐに忘れてしまったが、そのような意味だったはずだ。
ゲームのようなエフェクトは一切なかったが、私には、魔法が成功したと感じることができた。全身から溢れる”守り”の意思、魔法が、おう様に届くのが分かった。
おう様は頷いた。
「ありがとう」
私はそれを受け取って、その場から去った。
その後、おう様は、まだ一度も夢に出てきていない。
一番気になっている人なのだが。
”同じ世界観”の夢や”まったく同じような夢”は見ることがあるが、同じ人物が出ることは、今のところ、ない。おう様も例外ではないのだろう。