夢の世界を、
頭の中で勝手に作られた嘘の世界だって思ってる人が多いけど‥‥
本当は夢にも実体があって、
それを現実のフィルターを通して垣間見るのが夢なんですぅ。
―――聖剣伝説LEGEND OF MANA 夢魔ベル
*
17.もも
その方は、輝くような白を纏った人。
彼は、私の夢の中の人。
父や母のように長い付き合いの方で、十八の頃からでしょうか、私は彼に恋をしておりました。
何度も会いに来てくださる方。私を愛してくれる方。
彼は大抵、物語性のない、他に登場人物のいない夢に私を招待しました。
私の中ではもう当たり前のことですが、彼は人の姿と白狐の姿をもっていました。
人の姿は、白銀の美しい長髪と、蒼い瞳が印象的です。
白狐の姿は、人の姿の時に纏っておられる白い洋服や、白銀の髪に増して、、さらに輝きをもたせた白き体をしていました。
瞳はやはり、優しい蒼色。その瞳とお心は、どのような姿でもあの方だと分かる、変わらないものでした。
あの方を愛する私が何を言っても、ただの夢・妄想だと思われることでしょう。
例えそうであっても、私もあの人も何も変わらない。私の夢や大切なものを、人が何と思おうと構わない。
私があの方を愛していて、あの方が私を愛している。
この事実を、私が信じている。
それだけで、私たちは一緒にいることが出来るのです。
本当の意味で、永遠に。
18.おばあちゃん
私のおばあちゃんは、老人ホームに入っている。痴呆が進んでいて、物も忘れるが、調子がいいときには会話もきちんとできるし、色々覚えていたりする。不思議だ。
独り言が多くて、特にそれが酷い日には、おばあちゃんは反応してくれない。ひたすら自分の世界で、誰かと話している。そんなときは、訪ねても、「また来るからね」とだけ言って帰るしかない。
独り言を言っているけれど、おばあちゃんはいつも、優しい表情だ。機嫌が悪いところを見たことがない。
19.とり
窓の外に鳥が、特にカラスが飛んでいると、ふと思い出して尋ねてみるのです。
花壇に花が、特に紫色の花が咲いていると、ふと思い出して微笑むのです。
「カロンさんはお元気?」
「ルルヴちゃんはいつも良い香りの方だったわねえ。どうしていらっしゃるの?」
私の息子は、あの人と同じ白銀の髪。よく会いに来てくれる、母親思いの良い子。あまり感情を表に出さない子だけれど、とても優しい子。
雨が降った日に、あの子はまるで泣いているみたいだった。
「どうしたの?今日は元気がないわ。何かあったのなら、お話してみてちょうだい?」
私が息子に話しかけていると、たまに、ほかの人が声をかけてくださります。
「ももさん、何か心配そうですね」
その日は、優しいお医者様でした。
「私は大丈夫ですよ。息子が、なんだか元気がないもので…」
「息子さん?」
「ええ。無理にお話しなくてもいいけれど、いつでも会いにいらっしゃいね、ヴェigl∂―」
「雨が降ってるからですかね。ちょっと調子悪いみたいです…」
「ふむぅ…」
そんな介護スタッフと医者の会話は、ももには聞こえていない。
「ももさん、また来週会いに来ますからね」
「ええ、先生、ご心配おかけしてどうもすみません」
「いいえ。元気で、ご飯もしっかり食べてくださいね」
「はい、いただきますよ」
お医者様とそうしてお話する頃には、私の息子は行ってしまっていました。今はまだ、気持ちが整理されていないのでしょうか。心配です。でも、きっと、私の息子は、乗り越えることができるでしょう。
20.ももの夢
カロンさんとルルヴちゃんとは、あの子が生まれる前からの知り合いでした。特にカロンさんとは長い付き合いになります。
私の愛するあの方と、カロンさんと、どちらと先に出会ったのか、覚えておりません。
お二人も、ルルヴちゃんも、私の夢の中で出会いました。
そして、いつしか、あの子が生まれました。
あのお方と、カロンさんやルルヴちゃんのお三方と、あの子は、同じ夢に居ることはありませんでした。あの方たちが居る夢はいつも、どこかで影との戦いがあるのです。それは、幼いあの子にとっては危ないものだと、私は思っておりました。
月日は流れ、いつのまにか、あの方々と居る時間よりも、あの子といる時間のほうが長くなりました。
あの方がどこか遠くに行ってしまわれたのは、薄々感じておりました。
平和が続きました。戦いは何十年もの間、ありませんでした。私は、夢ではないこちらの世界で家庭を持ちました。
夢では、あの子が訪ねてきてくれます。すっかり青年になり、あの方によく似た姿になりました。あの方よりもおしゃべりは苦手で、不器用な子です。
あの子は、私ではない誰かの夢の中で、カロンさんやルルヴちゃんと出会ったそうです。あの方々と一緒ならば、安心です。
その出会いはつまり、戦いが始まった、ということでしょう。それでも、彼らと一緒ならば。
分かっております。心配させないように、あの子は多くを語りません。私はただ、あの子が安心して帰ってこられる場所を持ち続けましょう。