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夢の世界を、

 

頭の中で勝手に作られた嘘の世界だって思ってる人が多いけど‥‥

 

本当は夢にも実体があって、

 

それを現実のフィルターを通して垣間見るのが夢なんですぅ。

 

 

                                               ―――聖剣伝説LEGEND OF MANA 夢魔ベル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6.今日の影

 12歳の秋、ある日の出来事だった。

 ほぼ…なんて言うんだろう。ほぼ日常的な現実味のある登校風景。1,2年前から、なんだか良くないものがいるけど、誰も気づかない。

 小さかったり、大きかったり、巨人みたいのだったり、蛇みたいなのだったり。ただ、全て、暗い空気を纏っている。

 小さい奴らとか、動きが鈍いやつとか、人に近づかないやつは大丈夫だ。でも以前、登校中に斜め前を歩く女子に蜂みたいなのが集ってて、その女子はその日、風邪気味・食欲不振・暗い表情だった。

 どうやらヤバイやつらだ。

 まあ今日は大丈夫そうだ。うん、ええと、私の後方数メートルに何か嫌な感じがするけど、それくらいかな。

 一体何なんだ。今日の中途半端で意味不明な夢のせいだろうか?

 

『ヴェールに言われて参りました。よろしくお願いします!』

 

 そんなこんなで考えているうちに、背後の気配が近くなっている。

(はいはい、リアル界まで一体何のご用でしょうかね?リアル界特有の呪いとか霊とかなら私には分からない。どうせユメ関連だろ?何でもアリとはいえ、ゆめだからってリアルにまで手を出すのかよ)

 と、心の中で話しかけつつ(大抵これで通じるのだ)、振り返る。

 カンガルーっぽい何かが、立ち止まって振り返った私を見ていた。カンガルーではない。目がやけに丸くて虚ろで、暗い空気を纏っている。

(どちらさま?ヴェールじゃないでしょ?今日会った人?)

 ”今日会った人”…ではないと、私の中で何かが抗議した。”あんなものと一緒にするな”と。

(どうも今日はおかしいな)

 突然、カンガルーが大ジャンプした。カンガルーのジャンプ?いや、いや!なんかもっと高い、距離長い!

「え、ちょ」

 あっという間に手の届く範囲に近づかれて、私は慌ててカバンを振り回した。教科書の重さで、”回す”には至らず、ひと振りするに留まったが。

 すると、カバンからブーメンラン状の何かが飛び出して、カンガルーモドキを吹き飛ばした。

「!?」

 危機は脱したがどういうことだ…!?

 ブーメランは空中でカンガルーモドキを打ち砕いた。

(なんだ、あれ…!?)

 やがて、ブーメランはUターンする。

 私は嫌な予感がして、直ぐにそれが確信に変わり、全力で走った。大きく七歩?くらいは逃げられたかな、いやどうでもよくて、あれはとにかく当たるのはまずいっていうか、やばいっていうか!

 

 ドーン!!

 

 信じられないくらい大きな衝突音がした。ドーン?バーン?そんな感じだ。

(これは死ぬだろ――!これはないだろ――!)

 今この状況で、ものすごいパニックに近い状況なのに、いったい誰だ、私の中で何やら感動して大喜びしてるやつ!!!

(おまえ!あんただろ!?あんたなんだろ!?今朝の意味不明のゆめの、紫パッツンロングヘアーの!くノ一モドキの女だろ!?)

 はいそうですありがとう!みたいな気持ちの返答があった。

(何がありがとうか全く分からないけど、とにかく、リアル界じゃ会話が難しそうだから今日の夢で待ってろよ、ヴェールも呼べ、絶対!)

 

 授業中に寝ようかと思ったが、やめた。きっと私は叫ぶ。

 

 

 

 

 

7.白狐ケルベロス

 ヴェールは剣士だ。左手で、片刃のソードを扱う。

 ただしそれは、人の姿のときのことだ。

 ヴェールは自在に、白銀の大きな狐に姿を変える。三つの頭、五つの尾。

 人の姿で剣を振るって、暗い影を切ったと思ったら、次にはケルベロスのような白狐の姿で、真っ白い炎を吐く。

 強い。

 ヴェールはほとんど表情を変えずに、影を倒していく。

 ヴェールは背景としても現れたし、主役としても現れた。道案内してくれるときもあるし、何も言葉を交わさないこともある。

 どんな夢でも、ヴェールがやることは、影を倒すこと。

 それがヴェールの目的なのだろうと、私には分かった。

 だから、私が居る、現実世界で見える影が敵なのだと、私は分かった。分かったところで私にはどうしようもない。ヴェールがそれを夢の中で倒してくれると、その形の影はもう現れることはなかった。

 リアルのほうに影が現れ始めてから、ユメのほうにも変化があった。

 ひとりで戦っていたヴェールに、仲間ができたのだ。

 ひとりは男性。黒髪に、光のない黒い瞳。少し尖った耳。笑っていても、なんだか悪意を隠しきれていない詐欺師のような雰囲気だ。

 もうひとりは、女性。少し前の夢に出てきた、紫パッツンロングヘアーのくノ一モドキ女だ。大きなブーメランが武器。風も少し操っていた。男性のほうとは対照的に、素直でいい人なんだろうな、という印象。強そうだけど。

 彼らの名前は、カロンと、ルルヴ。

 白狐ケルベロスの新しい仲間は、黒竜カラスと、舞う紫の花。

 

 

 

 

 

8.風が吹く

 夢に突然現れたあの女は、ルルヴという名前らしかった。

「ヴェールに言われて参りました。よろしくお願いします!」

 彼女が現れてから、私はリアルの影に攻撃ができるようになった。一週間ほどしてから気がついたことだ。

 今日も、教室に入ると、空気が暗かった。みんな普通にしているが、影がいる。私には見える。

「おはよー」

 席にカバンを置いて、伸びをする振りをして、距離があるまま影を斬るように手を振り下ろす。リアル人の誰にも見えない攻撃が私から放たれて、影は斬られて消え去る。

 私は思わず満足げに微笑んだ。

(いいね。便利だね、遠距離。あなたの力は、風の力なんだね)

 またも彼女に…ルルヴに感謝されているのを感じたが、私は、こちらこそ、と返す。

(見えるのに対処できないっていうのは、なんか嫌なことだよ。あなたの力を借りられて助かってるよ)

「なに今、窓しまってるのに風吹いたね」

 教室の中にそんな声を聴いて、私は付け足す。

(まーまずバレないけど、多用は禁物かねー)

 バレたら説明が面倒だし、どうせ信じる人なんていないのだ。まったく。

 

 ルルヴとカロンとの付き合いは、長くはなかった。

 

 

 

 

 

9.雨

 カロンとルルヴが、真っ白になった夢のあと、ヴェールはまたひとりだった。

 私はヴェールと視点を共有していた。

 雨が降っていて、雨の音しかしなくて、ずっとそこで立ち止まっていたい気持ちを引きずりながら、歩いていく。

 雨が止まない。

 私は――ヴェールは――無表情のまま、左手に剣を握って、ひとり、歩いていく。

 雨の中でもヴェールの白銀の髪は、光のようにふわふわ、ゆらゆらして、雨に逆らって、風に従って、なびく。しかしその髪からは、水滴が垂れる。水滴が散る。輝く。

 きらきらと、歩んだ道の跡に、ガラス玉みたいに、それが落ちる。そして、消えていく。

 忘れない。だけど、消えてしまう。

 だから、忘れない。

 

 

 

 

 

10.白銀の一矢

 紫のパッツンロングヘアー、あのルルヴと同じ髪の色をした人物が、ある時現れた。

 童顔で、肩の上でパッツンと髪が切りそろえてある。男の子なのか女の子なのか分からないが、ルルヴに似た純粋な印象があった。見た目はルルヴがもっと大人びているのだが。

 ポールという名前だった。ポールはショートボウを扱う人で、影を射抜く白銀の矢を放つことができた。

 

 

 

 

 

11.雷の剣

 ククロは、ポールと一緒に逃げていた少年だ。金髪で元気な少年。いつだって恐れず、笑っている。

 ヴェールとポールと、ククロ。3人は戦う。

 ククロは、両刃のソードを扱っていた。それはヴェールのよりも短いが太く、雷を放つことができた。

 斬ると、まるでゲームみたいなエフェクトで金色の雷が発生して、相手に大ダメージを与える。

 勝ったら、ヴェールは剣をひと振りしてさっさと鞘に収めてしまうが、ククロは大喜びする。よっしゃー!という感じで笑って、剣を持った右手を空に振り上げて喜ぶ。

 ククロがムードメーカーの役になってくれたから、この3人の旅は明るくなった。

 おかげで私も目覚めた時楽しい。

 

 

 

 

 

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