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ユンの予感

   『琥珀の盾』のセルヴァ。エルフ族の魔法使いの生い立ち。

   兄とも師とも友とも言えるユンが見たセルヴァの姿。@1299頃

 

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 馬車は、たくさんの子供たちを乗せて、またどこかに移動していた。
 積荷の隙間から少しだけ見える窓から、ちらちらと木漏れ日であろう光が細く差す。その唯一の光源がうっすら浮かび上がらせるのは、うずくまった子供たち。
 5歳の男の子は、口をきゅっと引き締めて、その中で、みんなを見ていた。
 ここがどんなにひどい場所なのか、これからどうなるのか、たった数日で、男の子は察していた。見合う言葉こそ持たないものの、それは確実に、とても恐ろしいことだと分かっていた。しかし、どうすればいいのかは、わからなかった。
 不意に、微風を感じた。馬車の中なのに。何事かと思ううちに、強い風が吹く音がして、馬車が大きく揺れた。戸惑う男の子の手を、隣にいた女の子が握った。
「大丈夫よ」
 女の子は、戸惑うどころか、何かを待ちわびてさえいるようだった。男の子は、少しだけ安心した。
 馬車は、再び大きく揺れた。すると、荷台の扉があき、出入り口を塞いでいた荷物が崩れ落ちた。
 馬車は止まる。
 女の子は弾かれたように立ち上がって、男の子の手を握ったまま、走り出した。
「行こう!」
 もうすでに走りながら、男の子は、うん、と慌てて返事をする。

 後ろを見ると、他の何人かも逃げ出していた。全員ではない。どうして。
「リッシュ」
 男の子は、女の子を呼んだ。
 女の子はちらりと振り返って、戸惑ったものの、そのまま、また走った。

 逃げろ、逃げろ。
 二人は走った。どこに、なんて考える暇もない。とにかく、もう捕まらないところまで!

 ずっと走って、森の中で振り返った。
 枝葉と風の音。鳥の声。自分たちの呼吸の音。

 逃げ切った、のだろうか。男の子は、年上の女の子を見上げる。ミユ族のリッシュには、まだ騒ぎが収まっていないことが分かっていた。エルフ族よりも一回り大きい耳には、微かな争いの音が、逃げてきたほうから聴こえている。

 その音とは別に、ぱき、と、枝を踏む音がした。

 はっと振り返る。

 大人の男。二人の子供を見る目は、人を見る目ではない。さっきまでいた、あの馬車の、あの一味の一人だと分かる。

 おびえて後ずさる二人に、男はずんずん近づいた。手には鞭。

 しっかり繋いだ手だけは離さない。二人は、思うように動かない足をどうにか動かして、男から離れようとする。だが、無理だ、無理だと、分かって、頭がしびれた。

 あ、と、リッシュが声を上げた。男の背後に、少年の影。少年という年齢に似つかわしくない眼光を宿した目が、男を捉えている。男が振り向く間もなく、少年は唱えた。

「―――《 眠 れ 》」

 不意打ちに、男は崩れ落ちた。少年は、二人よりはいくらか年上のようだった。少し伸び気味の黒い髪。不機嫌な表情。浮かび上がって見えるような藍色の瞳で、その男を冷たく見下す。その一瞬の後、困ったように、二人の子供へ目を向けた。
「あんたたち、特に狙われてたみたいだよ。もっと遠くに行こう」

 ぶっきらぼうに言って、少年は二人を先導した。

 三人は無言で、またひたすら走った。やがて、もう大丈夫だろうと、立ち止まる。魔法使いの少年は、改めて二人を見た。

「あんたたち、どこから連れてこられた? 親はどうした?」

 その魔法使いは、5歳の男の子にとっては十分お兄さんに見えるが、たった14歳の男の子だった。そして、ぶっきらぼうで、いつも不機嫌そうで、ちょっと怖かった。

 怯えてしまった男の子に代わって、一緒に逃げていた女の子が話してくれた。

 

「この子はセルヴァ。私はリッシュ。どこからかなんて、わかんない…いっぱい、いろんなところを移動しちゃったから」

 魔法使いの男の子は、不機嫌そうに黙った。子供達三人は、どうしようか迷って、言葉を探して、次に口を開いたのはリッシュだった。

「助けてくれてありがとう」

 言われた男の子は、ぶっきらぼうに、うん、とひとつ頷いた。

「あんたたち、戦えるの?」

 リッシュは、手をつないでいたセルヴァを見て、セルヴァも困ったようにリッシュを見上げた。

 リッシュは魔法使いに向けて首を横に振る。

「戦えない」

「だろうな。さっきの様子じゃ」

 ふう、と魔法使いはため息をついた。

「あんたたち、街かどっかまで送るよ。また捕まったんじゃ意味ないし」

 魔法使いは、困ったふうにも、面倒くさいようにも、不機嫌そうにも見えた。しかし、嫌々言っているのではなく、悩んだ末に選んだことだというのがなんとなくセルヴァにもリッシュにも分かった。多分、本当は、優しい魔法使いなのだ。

「僕は、ユン。ディル族だけど、人攫いっていう気に入らないやつの噂きいたから、『西』にいる。いつかあいつら潰すのが僕の野望だけど、とりあえず、あんたたち送ってからにするよ」

 ほら行こう、と、ユンは「よろしく」も言わずに、また先導し始めた。

 

 

 ミユ族のいる里は一ヶ月ほどで見つかり、リッシュはそこに引き取られた。ユンとセルヴァは旅を続けた。

 ユンは強かった。風の魔法が大の得意で、さらに、攻撃魔法も得意なのだ。それでいて、防御などもそこそこ使える。

 ユンはいつの間にか、セルヴァの先生になった。

 

「セルヴァは魔法使ったことあるの?」

 ユンに言われて、セルヴァは唯一覚えている魔法を詠唱した。

「《僕と 僕の精霊・ロフューレ《風に舞いし葉》 が 手伝います》」

 古代語ではあるが、対象も効果も分からない曖昧な詠唱にユンは眉をひそめた。

「…なんの魔法? 手伝うって、何を?」

「怪我を治すのを、僕たちが手伝う魔法」

 ユンの目が変わった。びっくりしたのだろうか。

「回復魔法か…!」

 褒めてくれるのだろうか、と、セルヴァは期待したが、それは大外れだった。

「すごいけど、お前、その詠唱じゃ精霊名バレバレだぞ。セルヴァっていうのだって真名なんだろ? これでふたつもバレるじゃん。エルフってことは、あと父親の名前わかったら、お前の真名全部わかっちゃうってことだ。エルフの真名なんて構成簡単なんだから」

「…?」

 あー、とユンは不機嫌になった。

「あのな、真名バレたら、普通はかけられない強い呪いとか、結構簡単にかけれるようになるんだよ。危ないんだよ。僕だってユンって名乗ってるけど、本当はもっと長い名前だし。まあ僕のは滅多なことじゃバレないだろうけど。

 とにかく、精霊の名前は、本当に危ない時にしか使っちゃだめだ。いいな? バレたら危ないんだからな?」

「うん。言うのがダメなの?」

「そう。心の中で唱えるならいいよ」

「わかった」

「よし」

 ユンは先生らしく、魔法をセルヴァに教えていった。といっても、セルヴァが主に扱う回復魔法はユンの不得意分野らしく、ユンが詠唱を教えて、それをセルヴァが練習して使えるようになる、というスタンスだったが。

 

 

「魔法、誰にならったの?」

 ユンが何気なくたずねた。

「ユンと、おとうさん」

 セルヴァはあっさり応えたが、ユンは、触れてはいけないものに触れてしまった気がして、戸惑った。

「ああ…」

 ユンは、どうすればいいか分からず、結局、いつものようにぶっきらぼうに言う。

「探し出してやるからな。…家のこと、なんか覚えてない?」

「木がいっぱい。アラクのおばちゃんがちょっと怖い」

 森の中に住むエルフの里は、割とどこもそんな感じだ。見た目が少しも怖くないアラク――蜘蛛と人が合わさったような姿の者――が、いるのだろうか。

 ユンは困った。何度か話したがやはり分からない。

 少年二人の足では途方もない道のりだとしても、エルフの住む場所をまわっていくしか、やり方がわからなかった。

 

 ユンとセルヴァは結局、一年も二人で旅することになった。

 

 

 ユンは警戒心が強かった。セルヴァはユン以外の人に対して不信感が強かった。そんな二人は、念には念を入れて行動し、旅を続けた。

 

 一年経った頃、人攫いを見つけた。

 街で荷運びを手伝って得たお金を持って、ごたごたした商店街を歩いていた時だ。ユンが立ち止まって一点を鋭く見つめた。人ごみの中、視線が集まらない影。セルヴァも人々の隙間からユンの視線の先を見る。

 小さな女の子に《眠れ》をかけてあっという間に路地裏へ入っていく男。ユンもセルヴァも、それを見てしまったからには見逃せない。

 ユンは低い声で戦闘開始の宣言をする。

「潰す。セルヴァ、来い」

「うん」

 男は細い路地へさっと入る。セルヴァは当然のように、ユンを見上げて言った。

「僕、行くよ」

「ん、行ってこい」

 話し合いはいらない。短く言葉を交わして、セルヴァは路地を覗いて男に呼びかける。

「おじさん何してるの!」

 セルヴァは、無防備に、路地へ駆け入る。

 男はびっくりして振り返ったが、セルヴァを見る目が輝き、落ち着きを取り戻した。

 セルヴァの心の奥に、恐怖が生まれる。だがそれ以上に、目の前のこの男を許さない、担がれている女の子を助けなければならない、という思いが強かった。

「何してるの」

 セルヴァはもう一度言った。なんとなく半歩下がってしまった。

「いいことしてるんだよ」

 男は言うなり、さっさとセルヴァに歩み寄ってきた。十歩もかからずに捕まってしまうのは目に見えていた。

 セルヴァは後ずさってしまったものの、逃げなかった。今さら逃げることはできないし、逃げきれてしまえば、女の子はどうなるのか分からない。それに絶対ユンは来る。

「悪いことだ。おじさんは悪い人だ」

 セルヴァの口をついて出た言葉は、なんの効果もなかった。セルヴァはその結果を分かっていた。この言葉が簡単に届くのなら、なにもかも、世界中すべての不幸は起こらなくってすむんだと、言葉にはできないものの、感じていた。そして、今、戦うことも必要なくなるのだ――セルヴァはしっかり目を開けて男を見上げ続けた。迫る男で空が埋まる。その後ろに、セルヴァの待っていた影がわずかに見えた。

 

(ユン!)

 

 どす、と音がして、男が悲鳴を上げた。セルヴァが予想もしないほど大勢の気配がした。

 見えた影は確かにユンで、風の魔法で上手に降りて着地し、セルヴァを守るように抱えると男から離れた。

 男に攻撃したのはユンではない。

 弓士が男の背後にいた。剣士が、ユンとセルヴァの横を風のように通っていった。弓士の後ろに魔法使いがいて、援護していた。3人は男を捕らえ、女の子を助けた。

 人はまだ増えて、後から来た赤毛の剣士がユンとセルヴァに声をかけた。

「大丈夫?」

 ユンは明らかに警戒し、いつでもセルヴァを抱えて走れるよう強めに抱きながら短く応える。

「はい」

 セルヴァは無意識に息を殺して、周囲のばたばたした状況を感じながら、ユンと剣士の会話に耳を傾けた。

 この人たちは人攫いなのかなんなのか。

「君たちは、この町の子?」

「…その前に、あなたたちは誰ですか?」

 ユンの刺々しい様子に、剣士は少し意外そうにした。

「ああ、ごめん。俺はエルミオ。この人たちは、『仁』という、人攫いと戦っている同盟だよ。俺と、あそこにいる――」

 エルミオは、先に来ていた剣士を示した。

「――あの人は違うけど、『仁』と知り合いだからちょっと手を貸していたんだ。あの人はフィオリエっていって、冒険者だよ」

「冒険者?」

 セルヴァは初めて聞く言葉だが、ユンは知っているようだ。聞き返したユンの言葉に棘はなかった。

「うん。フィオリエ! ちょっと来て」

「おお、どうした?」

 フィオリエ、という剣士は、目が少し釣り目で、ちょっとだけ意地悪そうな印象のある、エルフだった。ハーフエルフではなくて、エルフだ。エルフの街や都の外でエルフに出会うことはあまりない。

「エルフ」

 セルヴァは思わず言った。

 フィオリエはいきなり言われて面食らう。

「ん? ああ、エルフだ。風の都出身、双剣士のフィオリエだ。よろしく、エルフくん」

 にっ、とフィオリエは笑ったが、ユンがその流れを遮った。

「冒険者なんですか? 冒険者の証を見せて欲しいんですけど」

「お? おお」

 どういう話だ? とフィオリエはエルミオに目で問うが、エルミオはただ促した。

 フィオリエはマントの下に隠れていた冒険者の証をユンに見せてくれた。銀色のバッジが襟元につけられている。

「触っていいですか?」

「ああ、良いけど…」

 流石にフィオリエも不審に思ったようだ。だが、エルミオがまたも促す。

「フィオリエ、一旦外して触らせてあげたらどうかな」

「ああ、そうだな…」

 ユンはフィオリエの冒険者証を受け取って、じっと眺めた。セルヴァを抱く腕は少しずつ緩くなっていた。

「本物だ…」

 ユンが安心するのが、セルヴァにも伝わった。セルヴァはびっくりした。ユンが安心するなんて滅多にないことだ。

「マナの冒険者証だ…これ、ありがとうございました」

 ユンはすっかり毒の抜けた口調と態度で、フィオリエに冒険者証を返した。

「おお、なんだかよくわかんないけど、良かった良かった」

「『仁』って、人攫いと戦う集団があるんですか? それが、あの人たち?」

 ユンは二人に質問する。『仁』はユンの目的に合った集団だ。ユンがそこに入りたいのだろうと、セルヴァは感じた。

 エルミオは頷いた。

「そうだよ。話してみるかい?」

「はい! 是非! …セルヴァ、いいかい?」

 ユンに聞かれた。セルヴァは頷いた。

「うん」

「僕は『仁』に入るかもしれない。でも、お前の故郷を探すことも忘れていない。『仁』が人攫いと戦う集団なら、お前のことも何かわかるかも知れない。それに、僕は、人攫いをいなくならせたい」

 ユンが真剣なのは分かっていた。ユンの言葉が本当だと分かっていた。だから、セルヴァは頷いた。

「うん、『仁』にいってみようよ、ユン」

 

 

 『仁』は、西に蔓延る人攫いの集団を潰して回っている同盟だった。戦闘員も、家事担当の者も、年寄りも、子供もいる。いくつかのグループに分かれていて、それぞれキャンプで移動しながら活動しているらしい。

 大抵のメンバーは、人攫いの被害に合った者だそうだ。活動するうちに、生き別れになった家族と再会することもあるという。

「僕は『仁』に入る」

 ユンは言った。

「でも、セルヴァはまだ決めないほうがいい。孤児院の活動もしてるし、セルヴァなら、『仁』に入らないでも僕と一緒にいられる。区切りが付くまで過ごしてみて、『仁』に入りたくなったときに入ればいい」

 セルヴァは、よくわからないが、頷いた。てっきり自分もユンといっしょに『仁』に入るのかと思っていたのだ。入らなくてもユンといっしょにいられるのなら、問題ない。

 『仁』には、年の近い子がいた。

 ラーク族という、腕が四本あり、音楽演奏に長けた種族の女の子だった。

「こんにちは! ルキアノスっていいます。あなたは?」

 ルキアノスは、10歳くらいだという。そのときセルヴァは6歳。ユンは15歳。

「セルヴァね。セルヴァ、よろしくね!」

 子供慣れしていなかったユンとちがって、ルキアノスはセルヴァを弟のように扱って、よく構った。最初は戸惑ったセルヴァだったが、ユンが警戒していない相手だったので、心を許していった。

 ルキアノスのほうも、自分よりも年下の子供の面倒を見るのは好きなようだった。人攫いから取り戻した子供たちのことはよく見るようだが、セルヴァのように、『仁』にほぼ所属しているような形の年下は初めてだった。それもあって、より親近感をもったのだった。

 セルヴァがルキアノスに懐くのを、ユンはちょっと面白くなさそうに見ることもあった。

 しかし、セルヴァの魔法の先生は『仁』に来てからもずっとユンだ。セルヴァはユンの言うことには従ったし、ユンは相変わらずセルヴァにぶっきらぼうな優しさをもって接していた。

 なにかとすぐ不機嫌になるユンだが、優しくないわけではない。そんなユンの性格を次第に理解してきたルキアノスも、セルヴァを通じて、ユンと仲良くなっていった。

 

 

「なんでユンはすぐ不機嫌そうにするの?」

 ルキアノスは何度もユンの地雷を踏んだ。

「は? 別になってないし」

 ユンがむっとする。ルキアノスがちらっとセルヴァに目線を送ると、やはりセルヴァが「まずい」という表情でルキアノスを見ている。

「そっか」

 セルヴァの表情から地雷を踏んだことを自覚して、ルキアノスは話題を変える。

 

 

「ルキア、音使いって、つまり、魔法使いなのかな?」

 ユンの疑問に、ルキアは首をかしげる。

「そうなのかなぁ? 私、音は扱えても、魔法は全然ダメだよ」

「ちょっとやってみてよ。セルヴァ、いっしょに見て」

「うん!」

 ルキアの前に、ユンとセルヴァ二人で座る。ええと、と少し困ったルキアは、とりあえずやってみる。

 すうっ、と息を吸って、ルキアの口から声が発せられる。不思議なことにそれは、反響するはずのないテントの中で、あちこちから響いて聞こえ、ユンとセルヴァを戸惑わせた。

 やがて音が消えて、ルキアは言った。

「どうかな…?」

「魔法じゃないと思うんだけど…魔法じゃなかったらなんなんだよそれ」

 ユンは難しい顔だ。

 セルヴァはユンを見て、んー、と困った声を出す。

「マナ、動かなかったね」

「そう。魔法ならマナが応じるはずなんだよ…おかしいなぁ。謎だ!」

「謎だー!」

 ふたりの魔法使いが悩んでいるのをみて、ルキアは少し、自分が特別なような良い気分を味わうのだった。

(私、魔法は使えないんだけどねー)

 

 

「ユン人参残ってるよ?」

「なんで僕のに人参入れちゃったんだよ…」

 ルキアとユンが応酬しあう。

「栄養しっかりとらなきゃだよ! 貧乏だけど野菜しっかり入れてるんだから食べて!」

「人参食べないくらいでどうともならないでしょ」

「そういう問題じゃないでしょ!」

「もー、なんだよ、ルキアが食べればいいじゃん」

「私はもう食べたもん!」

 と、言っている間に、セルヴァはユンの皿から人参をもらうのだった。

 ユンはちゃっかり、ごちそうさまーと言って皿を片付ける。

「セルヴァ食べたでしょー」

 ルキアがセルヴァに迫る。

 セルヴァはごくんっと人参を飲み込んで、んーん、と曖昧に返事をする。

 ユンは機嫌よくルキアに言う。

「いいでしょ、僕がセルヴァの玉ねぎちょっともらって、セルヴァが僕の人参食べれば」

「セルヴァ玉ねぎ残してたの??」

 ルキアの目線を避けて、セルヴァはユンを見上げた。

「行くよセルヴァ、解毒の魔法のもうちょっとレベル高いやつやっとこう」

「うん!」

「こら~」

 

 

 ユンは『仁』の魔法使いとして前線に出ることが多くなった。

「ユン、《早く》、できるようになったよ」

 帰ってきたユンに報告すると、いつも、素っ気無い調子でうなずき、魔法を見て、飾らない一言でほめてくれた。

「次はこれ、覚えよう」

「うん!」

 最初は、ユンが次の魔法を決めていた。2年もすると、このやりとりはなくなった。

「ユン、次は?」

 セルヴァが聞けば、ユンは教えてくれた。

 しかし、すぐに、それもなくなる。魔法の知識の代わりに、返ってきたのはこんな言葉だった。

「何がいいか、考えてみてよ」

 だけど、という言葉をセルヴァは飲み込む。だけど、という言葉は、こういうとき使ってはいけない。ユンは多分、不機嫌になる。考えないといけない。

 だけど、とセルヴァは思う。習った魔法はもう大体使えるし、見たことある魔法は、自分に使えるようになるのか分からない。どれが自分に合っているのか分からなかった。

 黙ってしまったセルヴァに、ユンは仕方なく言った。

「分からなくってもいいんだよ。何が分からないか、何を思ってるのか言わなきゃ、僕にはなんにも分からんないぞ」

「僕、…」

 セルヴァは結局困った。言葉が見つからない。ただただ困っていた。

 ユンはおおげさにため息をつきながら、それでもセルヴァに目線を合わせてかがんだ。

「何」

 とにかくセルヴァは喋ってみた。

「分かんない。何を言ったらいいのか分かんない」

 自信なさそうな、しかし率直すぎる言葉に、ユンは毒気を抜かれた。

「はあ、そう…でも、僕だって分かんないよ。セルヴァ、あと何が習いたいの?」

「ユンが教えてくれる魔法」

 言ってからすぐに、ユンが不機嫌になる予兆が見えた。セルヴァは必死に言葉を付け足す。

「ユンが、僕に、要るって思う魔法。僕は、どれかわからなくて、何が要るかわからなくて…だから、ユンがよく使う魔法とか、教えて欲しい…」

「あぁ」

 何が良かったのかセルヴァには分からないが、ユンは納得した様子だ。機嫌も直った。

「確かに。そりゃ、分かんないよな。ごめん。セルヴァは、アシスターとかヒーラーとかだから、そっちを中心に覚えたらいいと思うけど…僕はアタッカーとかアシスターだからなぁ」

 うーん、とユンは考える。

「多分、僕が教えられるのは、古代語の知識と、あとは攻撃魔法になると思う。補助は、もうちょっと強いのはもうちょっと後がいいんじゃないかなぁ…。僕がいないうちに、他の人と話す機会あるでしょ」

「うん」

「そういうときに、色々聞いてみなよ。アシスターってどんな魔法が要りますか、とかさ」

 あ、そうか…セルヴァは初めて思い至った。ユン以外の人に魔法のことを聞いてみてもいいんだ。

 うん、とセルヴァは大きくうなずいた。

「聞いてみる!」

 

 

 『仁』の生活が染み付き、慣れた。しばらくすると、ふとしたときに、昔のことを思い出すようになった。

 ――知らない人達は、ほんの一瞬で、駆けつけたセルヴァの母親を倒してしまった。死んでしまったのか、どうなのか、セルヴァは知らない。セルヴァには何も理解出来なかった。

 父親が、セルヴァの知らない鬼の形相で、何かを唱えた。父親が何を唱えたのか、セルヴァは知っていた。精霊に呼びかけ、魔法を行ったのだ。

 セルヴァは父親に教えられていた。

 エルフは精霊とともに生まれ、ともに生きていく。精霊はとても大切な存在。毎日毎日、精霊のことを思って、好きになって、そして、お互いに大好きになれたなら、いつでも助けてくれる。だからこそ、いつもいつも頼ってはいけない。精霊だって疲れてしまう…多分、そんなことを教えられたのだ。ともかく、父親が滅多なことでは精霊魔法を使わないことはよく分かっていた。

 だから、父親が精霊魔法を行うのを見て、セルヴァは状況を理解した。理解しても、何も出来なかった。

 父親の魔法が、どれほどの効果だったのか覚えていない。

 セルヴァが泣いても暴れても、どうしようもなかった。分からないうちに、ひょいと担がれて抑えられて、そのまま知らない場所へ連れて行かれてしまった――。

(お父さん…)

 死んでしまったのかもしれない、と、半分は思い始めた。今までは、死んだなんて、思っていなかったのだ。分からなかった。当然あるべきセルヴァの世界が、そうやって壊れてしまったなんて、分からなかったのだ。

 故郷はどこなのか。故郷も、なくなってしまったのか。覚えていない、どこか。うっすらと、残る、記憶。それは月日と共に曖昧になって、セルヴァは、父親のきれいな銀色の髪や、低く唱える声や、母親の優しい匂いと笑顔、その記憶にしがみつくのだった。

 

 

「ミーナさんがセルヴァのこと褒めてたよ」

 ルキアに言われてセルヴァはきょとんとする。洗濯物を、張ったロープにかけていく手は止めない。

「なにを?」

「あかぎれ、治してくれたんだって、喜んでたよ」

 ルキアは誇らしそうに笑った。

 セルヴァはなんだかくすぐったくなって、出来るだけ素っ気ないふうに頷いた。

「うん。…痛そうだったから」

 ぱんぱん、と服のしわを伸ばして、セルヴァはそれを整えながらロープにかける。

 ルキアも別のロープに干しながら話した。

「セルヴァがいてよかったー。回復術士たちって、家事・運営のほうにはあんまり回されないもの。家事・運営で死ぬことなんてないから仕方ないんだけど、回復術士がひとりいると、すごく助かる」

 あ、でも、とルキアは思いついたように言う。

「セルヴァもそのうち前線に出るのかなー? ユンに魔法教わってるでしょ?」

 うーん、とセルヴァは考える。

「ユンは戦えるけど、僕は…補助役かなぁ、前線に出るとしたら。それか、このまま家事・運営側の回復術士になりたいな」

「そっかー、それもいいよね。私もこの仕事で『仁』を支えるのが好きよ。でも、もっと音使いとして上達したら、前線でも役立ちたいな」

 そうか、とセルヴァは考える。

 前線に出たくても出られない人もいるんだ。いや、ルキアならいつか前線に出るのかもしれないけれど。

(僕は、どちらでも選べそうだ。本業は回復術士、でも、防御も、補助も、少しくらいなら攻撃も、ユンに教わった。全部はできないけど、サポートで前線に出ることができる)

 ユンはもう前線に出ている。今日もそうだ。

 セルヴァは、家事手伝いばかりして『仁』に置いてもらっていることを、少しずつ後ろめたいと感じるようになっていた。もちろん、回復術士として、帰ってきた人たちを迎えてサポートしてはいる。

 でも、それでは足りない気がしていた。

 故郷を探したいのは、セルヴァ自身だ。いつまでもユンと『仁』に寄りかかっているのは違う、そう感じ始めていた。

 

 

 

 そうして、いつの間にか、七年が過ぎていた。

 セルヴァの故郷の手がかりは見つからない。

 セルヴァはあと二年もしないうちに、セルヴァを助けた14歳のユンと同じ歳になる。そうしたら、区切りをつけようと決めた。もう自分の過去を探して頼ってばかりなのをやめて、『仁』に恩返ししよう。

 もちろん、あの日の出来事を忘れたことはなかった。自分を攫った人さらいの顔を、セルヴァはぼんやり覚えていた。

 もしかしたら、セルヴァが知らないだけで、もう『仁』が倒してしまっているかもしれない。だからあの人攫いは見つからないし、そこから故郷の情報を手に入れることもない、そういうことかもしれない。

 それはなんだか、どうしようもなく悔しいことだった。しかし、それを成したのが『仁』ならば、いつかこの気持ちを終わらせられる気がした。

 

 

 転々と移動する『仁』のキャンプに、七年ぶりの顔が見えた。

 セルヴァはよく覚えていなかったが、ユンはすぐに挨拶に行った。

 二人は『仁』のリーダーに挨拶に行っていた。ユンはそれを、リーダーのテントの外で待つ。

 ユンが『仁』と出会えたのは二人のおかげなのだ。それなのに、七年前、お礼を言う前に二人は旅立ってしまった。

 ユンは待った。

 ただ挨拶するにしては長い時間待った。七年ぶりなら仕方がないか、と割り切る。

 やがてテントから二人が出てきた。少し離れたところで『仁』に借りた本を読んでいたユンは、ぱっと顔を上げた。

 赤毛の剣士。冒険者の双剣士エルフ。名前は多分、これだ。

「エルミオさん。フィオリエさん」

 二人はユンに気がついた。名前は合っていたようだ。

 七年前に会った少年のことなんて覚えていないだろう、ユンはそう思っていた。それでもお礼は言いたかった。

 ところが、エルミオは、あ、という表情になる。

「きみは…もしかして…」

 え、とユンは驚く。自己紹介の時間すらなかったし、七年経って少しは変わっているし…それなのに、まさか覚えているのだろうか?

 対してフィオリエは、誰だっけ、という表情で考えて、結局エルミオの結論を待つことにしたようだ。

 ユンは待ちきれなくて話し出す。

「ユンといいます。あの時は名乗ることもしないで、警戒しなければならなかった状況とはいえ失礼な態度をとってすみませんでした。

 僕は、『仁』に入りました。あなたたちが紹介してくれたからです。僕の人生の転機を与えてくれました。ありがとうございました!」

「七年くらい前か。あの時の魔法使いが、ユンだね?」

 ユンは驚いてエルミオを見た。嬉しさよりも、驚きが強い。

「はい! 覚えていてくれたんですね」

 ほら、フィオ、とエルミオは促す。

「冒険者証見せた子だよ。街中で『仁』と協力して人攫いを捕まえた、あの件だ。もうひとりエルフの子がいて、その子に自己紹介してただろ、フィオ?」

 フィオリエは渋い顔をした。

「お前は覚えすぎなんだよ…うーん…あー…んー…悪い、忘れた」

 ユンは全く気にならない。フィオリエの反応のほうが普通だと思った。

 エルミオも大して気にしていないようで、ユンに話しかける。

「ユンなら、もう前線に出ているのかな? 以前も上手に魔法を使っていた気がするけど」

「はい。主にアタッカーやサポーターの役割で役割で参加してます」

「そうかぁ。頑張ってるね」

 ユンは一瞬喜んだが、後ろめたさで視線を落とした。『仁』に来て、自分のやりたいことはできているが、セルヴァのことは何一つ進んでいない。

「…なにかあったのか?」

 フィオリエが素っ気なく問いかけた。その素っ気無さが、ユンの口を軽くした。

「いえ。僕は問題ないんです。僕の仲間は昔人攫いに連れ去られて両親と生き別れました。それについて、何も掴めていないので…」

「あのエルフの子か」

 エルミオがすぐ納得したのを見て、どのエルフの子だよ、とフィオリエは言いたげだ。

 エルミオは何か考え込む。

「…俺たちは今日、偶然ここに来たけど、せっかくだからさっき報告したんだ。ユンは『ラヴーシュカ』という人攫いを知っているかい?」

「ラヴーシュカ?」

「うん。古代語。《罠》という意味だ」

 罠? とフィオリエがきく。うん、罠、とエルミオは頷いた。今初めてした話のようだ。

「今は活動を控えているようだけど――」

 言葉の裏に、”活動していないわけではなさそう”という意味を感じ取り、ユンの中で、『仁』の攻撃的な魔法使いが目を覚ました。

「――アルソスを住処にしているみたいだ。10年ほど前は、特に純血のエルフを狙って活動していたと聞いている」

 炎のような感情がグルグルとユンの中で渦巻いた。それを、『仁』の魔法使いが冷静にコントロールし、出てきた言葉はこうだった。

「リーダーは何と?」

 当然潰すのだろうが、作戦決行はいつになるのだろう――ユンが聞いたのはそういうことだった。

 しかし、エルミオからの返答はユンにとって予想外のものだった。

「心に留めるが、優先順位は低いと言っていたよ。活動を控えているからね。それよりも先に手を打つべきことがあるそうだ」

 ユンは言葉を失った。

(せっかく見つけたのに!?)

 信じられなかった。だが、それはただユン1人の都合だということも、すぐに分かった。『仁』としては、今動いている人攫いに対処するほうが先だ。当然のことだ。

(でも、今行かなければ逃げられるぞ。移動するに決まってる。10年も逃げ延びている人攫いなんだ、あっけなく捕まるはずもない。今大丈夫でも…この先は分からない。確かに、他の人攫いのほうが優先順位は高い。でも、違うんだ、そういうことじゃないんだ。

 僕は、セルヴァに約束したんだ。

 僕個人は、その人攫いであるかもしれない以上、ラヴーシュカのところへ行ってみないわけにはいかない)

 ユンは、心を決めた。

「…そうですか。仕方ないですね」

 『仁』が動かないのは仕方ない。だけどユンは行かなければならなかった。ラヴーシュカは、多分、当たりだ。ユンは予感していた。ディル族の血が、勘が、そうだと言っている。

「ひとりで行くつもりかい?」

 エルミオの問いかけに、ユンはどきっとした。

 相手は多分、強い。一人では難しいだろう。でも、『仁』を巻き込むわけにはいかない。

 ユンは肩をすくめた。

「まさか。いくらなんでも無謀だって分かってますよ」

(奇襲したらどうだろう。でもセルヴァの両親のことを聞き出したいな)

 ユンの脳裏に、セルヴァとルキアノスのことがよぎる。三人ならいけないだろうか?

 ユンは、ともかく、エルミオとフィオリエに別れを告げて、セルヴァのもとへ急いだ。

 

 その後ろ姿を、2人は見送る。

「ありゃ行くんじゃないか?」

 フィオリエがぼやいた。

 エルミオは頷いた。

「キャンプの移動先は聞いておこうか」

「なんで?」

「一日で終わる保証はない。あの子達がここへ帰ってこれるようにしないとね」

 へへ、とフィオリエは笑う。

「なるほどね。ちょっとお節介してやるか」

 

「セルヴァ」

 ぐるぐると計画を練りながら帰ってきたユンは、セルヴァにそれを話した。一緒にいたルキアにもあえて聞かせた。

「明日、キャンプは移動する。アルソスの近くを通るそのときが好機だ。行くなら僕も付き添う。どうする、セルヴァ」

 ユンの言葉に、セルヴァは頷いた。固くて深刻な面持ちで、拳を固く握り締めて。

「うん。行く」

 それから少し考えて、付け加えた。

「まだ何かしてるなら…潰す。…そうじゃないなら…そうじゃなくても…とにかく話を聞く」

 セルヴァは優しい。だが今、その心の底に、許したいとも思えない、絶対に許せないという思いがあることをユンは確かに感じた。

 セルヴァはここを通らずに生きていくことはできない。ユンは、それを手伝うことしかできない。全力で手伝うことしかできないから、全力でしてやろうと心に決めた。

「私も行く」

 ルキアが言った。

「邪魔だっていうならやめる。でも行かせて」

 ルキアは前線には出ていないが、物心着いた頃から『仁』にいる。途中参加のメンバーなんかより、『仁』を分かっている。

 音使いとしても、戦闘向きではないというだけで、十分役立つ能力をもっていた。

「来てくれ」

 ユンは言った。視線を送ると、セルヴァも頷いた。

「…ありがとう」

 回復術士が本業のセルヴァでは、戦闘になれば切り抜けられない。それはセルヴァ自身も分かっていた。2人が助けてくれることに、申し訳なさを感じながらも、ほっとしていた。

 

 3人は、キャンプの移動中に、さっと姿を消した。

 

 

 街までは来れたが、手がかりは『ラヴーシュカ』という名前だけだ。ひとまず3人は、それらしきものがないか街中を探索する。

 

 雑多とした市場の通りを抜けて、人気が少なくなったところに来たとき、セルヴァの目は釘付けになった。世界の時間が一瞬止まったような錯覚の後、全身が冷えて腹の底が熱くなるような激しい感情を覚える。

 セルヴァは半ば走るように、その人物へ近づいた。ユンとルキアが後から急いで付いていく。

 相手も、足早に近づいてくるセルヴァに気がついた。そして、セルヴァがエルフだからか、はたまたセルヴァに見覚えがあったのか、目を見張った。

 セルヴァは確信した。

 その顔。セルヴァは、見覚えがあった。ユンとルキアノスが居て良かった、と感じながら、どうにか震えを抑えた。

「あなたたちが、『ラヴーシュカ』…?」

 セルヴァの問いに、彼らは、ただ、穏やかに頷いた。

「そう呼ばれたこともあった」

 その人攫いは、とても人の良い、気の弱い男と、優しそうな女だった。どちらもハーフエルフだった。姉弟だという。

 逃げるでもなく、セルヴァ、ユン、ルキアノスを迎えた。

「ここで話すのは、勘弁していただけないかしら…私たちはもう、その名を捨てて、ここで暮らしているの…」

 人の人生を無茶苦茶にしておきながら、そんなこと…! セルヴァは怒りがこみ上げるのを感じたが、彼女の悲しい笑顔と、次の言葉にそれは一瞬で沈む。

「他の人攫いから子どもを攫い、その親を探しながら」

 セルヴァが何か言う前に、男が場所を変えようと促した。三人は、元人攫いに、彼らの家に招待された。ユンは即座に言う。

「あんたたちの本拠地に、どうしてわざわざ行かないといけないんだ。もうやめたんなら堂々としていればいい。僕らはあんたたちと仲良くしに来たわけじゃないんだ」

 セルヴァには、ユンを止められなかった。だけど、目の前の二人にユンと同じセリフを吐きかけることもできない。

 仲良くしに来たわけではない。でも話は聞きたい。ずっと先の未来で、もしかしたら許せる日がくるなら、そのきっかけができるのは今日、今だと感じていた。

「…子供たちのところなら」

 セルヴァは言った。

「子供たちのいるところでなら…話を聞きたい…」

 ユンが何か言うかと思ったが、セルヴァの言葉に任せてくれた。

 ”子供たちのいるところ”というのは、単純に、自分と同じ境遇の子供たちが、この元人攫いとどう付き合っているのか興味があったからだ。

 それに、後付けだが、もしまだ人攫いをやっているなら、子供たちの居場所がセルヴァたちにバレることになる。『仁』は人攫いを逃がさない。逆に囚われる危険があることは分かっていたが、そう簡単に捕まってやることはない。ユンだけならきっと逃げられる。セルヴァとルキアは、捕まったときに『仁』に出す魔法の合図を心得ている。

 リーダーは優先順位が低いといったが、本当にそうならそれでいい。そうじゃないなら、3人の行動によって優先順位を高くすれば、子供たちも救われる。

「分かった」

 二人の元人さらいは頷いた。

 

 

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※気持ち悪く怖い人が登場します。苦手な方は要注意です。

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