エナ -昔のこと 0.《花瓶》の村の
ヴァース《花瓶》の村の、ある家族と、はじまりの先生。@1796~
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黒髪、黒い肌、低めの背丈、ダークエルフの少年は、ヴァース村を走っていた。
彼は必ず、夕方、家へ走って帰るのだった。友人と遊び、疲れていても、必ず暗くなる前に帰るように心がけているのだ。
太陽が西の海に半分ほど沈んだ時、少年は家のドアの取っ手に手をかけた。
「ただい――」
ドアを引く前に、ドアが勝手に開いた。少年はあわてて一歩下がる。
中から出てきた人物を見るなり、毛を逆立てて怒る猫のように、その人物を睨んで、警戒した。
「なんでてめぇがいんだよッ!?恋人はどうした??」
少年の言葉に、男は、ああ?と返す。大きな男で、自然と少年を見下すような形になる。
「恋人だあ?フィアーナなら中に居るぜ。おめえの晩飯作ってな」
「ちげーよ、てめぇの恋人は冒険だろーが。どっか行くならもう帰ってくんなよっ!」
「俺のうちだ、帰ってきて何がわりい」
「てめえのじゃねえ、かーちゃんと俺の家だ」
「何言ってやがるクソガキ。誰が稼いでると思ってんだ」
「俺だって稼いでる!」
「おめえの稼ぎなんざ、芋虫のフンだ。おらどけ、邪魔だ」
男は、さっさと歩いて少年の脇を通り抜けて行った。大きな背中に、少年は怒鳴る。
「クソヤローーーッ!帰ってくんなーーー!!」
「お父さんに似て、口が悪くなっちゃって」
困ったように笑った母フィアーナに、少年は全力で反論した。
「似てねーし!」
「はいはい、お父さんよりエナの方が少し真面目ね。…はい、冷めないうちに食べてね」
「…いただきまあす」
ムスッとしたまま、少年、エナはパンに手を伸ばした。野菜がどっさり入ったスープにちょっとつけてかじり、後から野菜も口に入れる、この食べ方が好きな味になる。
むしゃくしゃしていても、おいしいものはおいしい。
「かーちゃん」
「うん?」
「俺の稼ぎって、少ねーの?」
フィアーナは一瞬ポカンとしたが、すぐに微笑んだ。
「そんなことないよ。エナはまだ11才じゃない。稼げるってだけですごいことだよ」
「ふーん…」
そうじゃなくてさ、とエナは思ったが、言わなかった。子供だから、という理由は欲しくなかったが、そういう風に見られてしまうものだ、ということも分かっていた。
早く大人になれたら。
大人になったら。ちゃんと稼げるし、強くなってあいつも越えられるし、背だって高くなるし、いろんな事が出来る。かーちゃんのこと、あいつがいなくたって守っていけるようになるんだ。
ベッドの上で考えるのは、たいていそんなことだった。
帰ってこない
あいつは、帰ってこない
ずっとどこかに行ってる
冒険に行ってる
稼ぐなんて言い訳じゃないのか
金なんてもっと少なくっていいのに
そんなものじゃない
かーちゃんは一緒にいてほしいんだよ
あんたに
あんたしかいないのに
俺じゃ代わりになれないことがある
稼ぐのくらい俺が代わる
だから
だから
だからさ
俺だって
剣教えてほしかったし
ほんとは
天井が見えた。
薄く眼を開けたまま、エナはぼんやりしていた。
朝の畑仕事のバイトがある。起きなければならなかった。
大きなため息を一つつき、エナはベッドから跳ね起きた。
畑仕事の後には、朝食がまっている。
剣は独学だった。もちろん真剣なんてもっていないから、ちょうどいい長さの棒を削って、木刀を作った。
そのうち護衛のバイトも、腕試しや実戦経験としてやってみようと考えていた。母親には言っていない。
いつかは冒険者になって、護衛だけでなく魔物退治なんかまでこなせるように、強くなるのだ。悪魔討伐などは、場合によるが高い報酬を受け取れるらしい。
(剣が欲しいな…)
木刀では魔物と戦えない。そろそろ実戦を試してみたい。
木の棒をナイフで削りながら、エナは考えた。昨日まで使っていた木刀は、折れてしまった。
ナイフの刃が東からの陽を受けて光る。木刀になりかけている棒の微調整をしながら、エナは視界の中できらめくそれを見るともなしに見ていた。
(…こいつでいけねえかな…)
――リーチが短い。かわせるか。速さは自信ある。動体視力も。当たったら? 弱い奴なら平気だ。怪我したら母ちゃん何か言うかも。しなきゃいいんだ怪我。倒せるか? 倒すんだよ。あいつは魔物相手に戦えるんだぜ…俺だってできる!
エナは確信した。体中が自信に満ちていた。
あいつなんかにできるんだから。
俺にだって。俺だって。
*
ヴァース村の比較的近くに、ふたりの冒険者の姿があった。依頼を受けて、悪魔ラグラとその契約者を追ってここまでやってきた者たちだった。
「…なんか嫌な予感がすんだよな」
淡い金髪の男が呟いた。白い、ローブに近い服だが、腰にはロングソードを差している。彼の本業は魔法使いだが、前衛としても良い腕をしていた。
「そういうこと言うんじゃねえよ。しかもお前勘当たり過ぎなんだよ」
「いやぁそれほどでも。ディルだしなぁ俺」
魔法使いはおどけてみせたが、「ま、油断はすんなよ」と念を押した。
念を押された男は、適当に返事をしながら、大きく息をついた。
(俺まで嫌な気分になってきたぜ…)
*
(やった…)
エナは荒い息をつきながら立ち尽くしていた。
ついさっき、初めて魔物を倒した。鋭い牙のある兎のような魔物だった。知能は低いしたいした攻撃力もない魔物だが、エナはまだ興奮していた。
「すっげー…」
(ほんとに倒したよ俺…つか、聞いてはいたけど、ほんとに魔物って倒したら消えるんだなあ)
小刀には血の跡も残っていない。
(へえ、手入れが楽でいいじゃん)
思わずエナは笑っていた。魔物くらい、倒せるのだ。もっとできる。稼げる。守れる。強くなれば雇われる。
エナは一度村を確認するように振り返った。昼飯までに買ってこよう、そう思い、森の中へ踏み込んだ。
村には、他の町々と同じように、魔物除けの魔法がかけられている。村から離れるにつれて、魔物の性質は凶悪になる。
エナもそのくらいの常識、知っていた。ただ、村から出たことのない少年は、その意味を理解していなかった。
*
大樹の根元に大きな穴があった。二人はそこを覗き込む。
「…これか?」
「ちゃちいな」
「隠れるにはいいかもしれねえが」
「俺がラグラだったらプライドが許さないかもな、こんな穴」
「地面好きなんじゃね? ラグラとモグラって似てるしよ」
「しかし悪魔がこんなとこにいんのかな、ほんと」
言いたい放題言ってから、魔法使いは穴をじっと見て言った。
「いないんじゃないか? もうどっか移動したあとでさ」
「そんなめんどくせえこと言うなよ…マジでお前勘当たりすぎて嫌なんだよ」
本気で面倒くさそう言われ、魔法使いは肩を竦める。
「仕方ないだろ、当たるんだから」
「で…この穴はラグラの元住処か。今どこにいんだ?」
「俺が知るかよ。…余りものでもいないか、潜ってみるか?」
「しかしこりゃ、頭打つぜ」
「図体でかいお前が悪い」
「やめようぜぇ、ほんともう、めんどくせえ。別のにしようぜクエスト」
「…辿ってみるか」
「あ?」
「この手のやつは逃がすと厄介だからな」
「…まあそうだな」
渋々頷く。悪魔ラグラはモンスター召喚を何度も行う。恐らく何か強いものを呼び出したいのだろうが、うまくいかないようなのだ。知能はそんなに高くない悪魔のようだが、それがむしろ迷惑極まりない。
魔法使いは目を閉じる。ベルトに下げた透明な石が淡く光った。魔法を補佐するマジックアイテムだ。
「さあ、どこにいる…」
波紋のように、空気が震えて、何かがすばやく広がった。
「…なんだ」
すぐに魔法使いが呆れたように呟いた。
「見つけたか」
「移動中か知らないが、わりと近い。行こう」
「やれやれ…」
だるそうに腰を上げた相棒を見て、魔法使いは呆れてみせる。
「年寄りくさいぞラーカス」
「うるせえ若造」
*
(一旦帰るか…)
エナは満ち足りた気持ちで空を見上げた。もうすぐ正午だ。
最初の一匹を仕留めてから、エナは調子良く二匹、三匹と、次々に魔物を倒した。村の周囲を囲むシールド系の魔法と魔物除けの魔法のために、低レベルでほぼ無害な魔物にしか出会わなかったのだが、ここまで魔法が及んでいることをエナは知らない。村が見えなくなってしばらく経っている。魔法の範囲はエナが思うよりずっと広い。
(最後に一匹、いないかな)
エナは身軽に、そばにあった上りやすそうな木に登った。小刀は口にくわえておく。
葉の隙間から、少し遠くのほうまで見渡す。すると、今まで出会ったことのない、灰色の魔物がいた。都合の良いことに、そいつはエナのいる枝の真下を通りそうだ。静かにすばやく飛び降りて奇襲をかければ、速攻で倒せるはず。
まっすぐ進んで来い、エナは念じた。
近づいてくるにつれて見えてきたそいつは、狼のようだった。
(もう少し…)
エナは飛び降りる時を待った。あいつ鼻がいいのかな、などと心配事が頭をよぎるが、退く気はさらさらなかった。
(外したらどうする、普通に戦えばいい、勝てる)
しかし、狼は、もう少しというところで不意に立ち止まった。そして後ろを振り返るようなしぐさをする。
(何やってんだ、あと三歩じゃんかよ、来い!)
ばれたのかな、と内心どきどきしながら、エナは待ち構える。
しかし、姿勢を変えたとき、微かに枝が揺れた。
やべ、とエナが思うと同時に、狼は走り出す。ほとんど反射的に、エナは狼に飛びかかった。
握り締めた小刀、両手に確かな手ごたえ。なんとか狼に乗ったまま、咄嗟に首を狙って斬る。浅かった。
ついに振り落とされた。狼はエナのほうを見向きもせず、ただの犬のようにキャンキャンいって逃げた。
「あ、」
(逃げる!)
エナは狼を目で追いながら、すばやく立ち上がった。
*
「安い情報だったが…はずれたなあ」
ラーカスと呼ばれた男が愚痴る。
「安いのにまともな悪魔討伐のがあるかよ。ニセ悪魔じゃなかっただけましだろ」
「まあなあ。大ハズレじゃあなかったな。…まだつかねえのか、ルイス」
近いといっていたのに、と言いたげだ。
ルイス、と呼ばれた魔法使いはたぶん、と言う。
「もうちょい。テレポされてなければな」
「…嫌な予感って、このことだったのかあ」
はあ、とラーカスがため息をつく横を早歩きしながら、ルイスは首をかしげた。
「さあな…」
まだ嫌な予感は消えていない。
*
目の前で、狼は金縛りにあったように固まった。
木の後ろから、ダークエルフのような肌の、おそらく魔法使いが現れた。ぼろぼろの黒い布のようなローブ。骨ばった長い指を、狼に向けていた。黒い髪の隙間から見える、目が、赤い。
純粋なダークエルフにこんな光るような赤い目はありえないと、エナは知っていた。何かのハーフだろうと思った。
「こんなものもいたか…しかしやはりこの辺りでは弱すぎる…」
そう言って魔法使いは何かを唱え始める。
横取りされる、とエナは慌てた。
「おいまて、そいつは俺が倒そうとしてたやつだぜ!」
「ほう…」
魔法使いが、今気づいた、とエナを見た。
瞬間、ぞっとしてエナは一歩退いた。何かが違う、と本能が告げ、警鐘を鳴らしていた。こいつは人なのか?
(ボスクラスの魔物??)
逃げる、という選択は、もう手遅れに思えた。そもそも魔法から逃げる方法など、エナは知らなかった。
「なるほど、そうか。試したことがなかった」
エナから目を離さず、魔法使いは微かに笑った。
「こっちに来るんだ、ヒトの子。お前を強くしてやろう」
「…え」
意外といい人、には思えなかった。修行させてやるとか、そういうことではないはずだ。
「お、俺、いいよ、別に…帰る…」
「まあそう言うな」
魔法使いがふと消えた、かと思うと目の前に現れた。肩に手を置かれそうになり、エナは慌てて逃げ出した。全身が恐怖で麻痺していたが、走ることはできた。
「かなり知能が高くなるはずだ…」
呟きながら、魔法使いがエナの目の前に現れる。
身軽なエナはぶつかることなく、また違うほうへ走り出す。しかし、すぐにまた魔法使いが現れ、ぱっとエナの首をつかんだ。細い、長い、冷たい指。
「ヒトと魔物のキメラというものを、まだ試していなかった。私としたことが」
首をつかまれているせいではなく、恐怖で声がでなかった。何も考えることができない。握ったままだった小刀を腕に切りつけようとしたが、振り上げたまま、振り下ろせなかった。
金縛りのような魔法。
エナの手から小刀が落ちた。土は軽い音だけしか立てず、どこにも届かない。
(………―――!!!)
目だけ大きく見開いたエナを、魔法使いは見下ろした。
「さて…」
ドシュ
断ち切る音がして、魔法使いははっと横を睨んだ。
「おのれ…」
エナを捕まえていた腕が、何か遠距離の攻撃で断ち切られたのだった。魔法使いの集中が途切れたせいか、金縛りもとける。だがエナは、ふらふらと数歩後ずさり、その場に倒れた。
「エナッ!」
叫び声がしたような気がした。
「ラーカス行け」
ルイスに言われるまでもなく、ラーカスは走った。なぜこんなところに息子がいるのか、なぜ自分たちが探していた悪魔ラグラと一緒にいるのか、何もわからないがとにかくエナの元へ走った。ラグラのことはルイスに任せれば大丈夫だ。タイマンで負ける相手ではない。
「なんでこんなとこにいやがるドアホウがっ」
恐怖でひきつった顔が、ラーカスを見上げる。声はでない。
ラーカスはたまらず、幼い息子を抱きしめた。
「もう大丈夫だ…」
エナは包んでくれたぬくもりにしがみつき、やがて声を上げて泣き出した。
悪魔ラグラは、ルイスにテレポートを封じられ、討伐された。
起きたらいつもの朝だった。いつものように、天井が見えた。エナははっと首に手をやった。自分の暖かい手が触れた。
部屋中を見回して、何も異常がないと分かると、ほーっと息をついた。
(…怒られるかな…かーちゃん、知ってるだろうな…)
ちょっとしばらく寝た振りしていようか、と思案する。長く寝てたら、怒るより心配してくれるだろうな、と考え、やっぱり起きようかな、と迷う。
(やだな…でも…かーちゃんが泣くのもやだな…怒るのもやだけど、どっちもやだな…)
何度もぐるぐる同じ思考を繰り返し、やがてエナは静かにベッドから降り、忍び足でリビングに通じるドアへ近づいた。
耳をすませると、話声が聞こえた。
「―…お前には世話になるだろうからなあ」
…知らない声。
「まあ本当にそうなったら任せとけ。…魔法以外のことなら、教えてやる」
(おやじ!!おやじがいる)
エナはドキドキしながら耳をドアに当てた。
知らない声が笑った。
「お前に魔法は期待してないさ!魔法のことは、俺とセシアとレシフェとエシェで十分だ。あとは独学でだって、あいつなら学べるさ」
知らない声に誇らしさがにじむ。ラーカスは少し呆れ気味に返事をする。
「おめえに似て魔法オタクなわけか」
「いい魔法使いになる。間違いない。むしろお前を助けるかもしれないぞ、ラーカス」
「けっ。俺は剣で十分だ。魔法はただの補助でいいんだよ」
「そりゃ俺に対する挑戦状と受け取っていいのか?」
「おめぇ剣士だろうが」
「魔法使いが前提のな。そういや、本当に魔法使いじゃなくていいんだな?」
「あ?」
「剣士でいいんだな? 本当だな?」
「まあだ言ってんのか! 俺の息子だ、勝手に魔法オタクにすんじゃねえぞ!」
「今ならまだ間に合うと思うけどなあ」
「うっせえ、あいつは剣が合うんだよ。ちっと体が小さくてもな、それがまた活かせるんだよ。俺とは違ったタイプの剣士だが、強くなるんだって。素早さや俊敏性が活かしやすいんだよ。一撃の重みが足りなくても、技術でカバーできるくらいになる。あいつはやれる。何しろ俺を倒したいんだからな!」
「誇らしいのか何なのか、最後の一言でごちゃごちゃになったが」
知らない声は呆れていたが、ラーカスは笑った。
「つうことだ。魔法使いなんかにすんなよ!」
「へいへい。…本当に、いいんだな?」
「しつけえ」
「そうじゃない。…お前じゃなくていいのか。お前が、じゃなくて、お前の息子が」
「…俺が、今更…。…いや、そうじゃねえ。これから、あいつと相入れると思うのか?」
「…何のことだ。これからのことなんて俺は知らない。お前はたまに、未来を変えないまでも、未来を意識した行動をとるな。今も、そうじゃないのか」
ラーカスが黙った。仕方なく、知らない声が続ける。
「俺だったら…俺だったら、できることなら自分で教えたい。育てたい。俺が父親で、師匠でいたい。そしていつか越えていってほしい…その背中を見たい」
「…俺は、未来なんかに囚われるつもりはねぇ…全部守る。だからこう生きると決めてんだ」
足音がした。
「真面目なお話はいったん休憩しましょ」
フィアーナの声。続いて、知らない声が、おおっ、と歓声を上げた。
「なんだ? またレパートリー増えたのか?」
「材料がなくてこれしかできなかったのだけれど。ニンジンケーキ。ちょっと癖があるけれど、ルイスならきっと好きになるはずだわ」
「へえー! ニンジンなのにケーキかあ。すげー甘いにおいするけど、本当にニンジン? いや色はニンジンだけど」
「なんだ知らないのかニンジンケーキ」
ルイス、という知らない声の主へ、ラーカスが話しかける。
「知らん。カボチャとかならわかるが、よくニンジン使おうと思ったよな。ニンジン嫌いの子を持つ母親の愛、ってか?」
「あら、エナは好き嫌いありません」
「まあ、俺のことが嫌いってくらいか」
「もう、あなた?」
フィアーナの声が近づいた。エナは大慌てで、足音一つ立てずに、布団へ飛び込んだ。
間一髪、ドアが開く。ドキドキしながらじっと布団をかぶっていると、やがてドアが閉じ、ニンジンケーキの甘い香りだけが残った。
エナは布団の中でパッチリ目を開けて、じっとしていた。
――俺とは違ったタイプの剣士だが、強くなるんだって。あいつはやれる。なにしろ俺を倒したいんだからな!
ぎゅーっと、目を閉じる。布団を握りしめる。
(超えるよ。絶対、いつか必ず超える)…でも…
――お前じゃなくていいのか?
――未来なんかに囚われるつもりはねぇ
あれは、どういうことなのか。嫌なもやもやが心の隅に残っているのを、エナは微かに感じていた。
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