風の都と双剣士
旅立った日は遠い記憶。帰る場所は、まだそこにあった。@1687年頃
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それまで帰ろうと思わなかった故郷に不意に帰った。
白、銀、青っぽい緑に太陽と空の色合いの花。エルフの都はほとんど姿を変えていない。壊れれば直し、適した形に戻る。エルフと似て長寿だと、誰かが言っていた気がする。
風の塔は変わらず都へ音を降らせていた。古い記憶と重なって、フィオリエは自然と微笑んだ。
「やあ、どこかで見た顔だな。何百年ぶりかの帰省ですか?」
門の右の櫓から、門番がフィオリエに声をかけた。
フィオリエも、どこかで見た顔だなあ、と門番を見上げた。なにしろ旅立ったのは、門番の言うとおり昔のことだ。
「俺もあなたに見覚えがあります。四百年ぶりの帰省です。フィオリエです」
「あ!」
門番が顔を引っ込めた。すぐにまた顔を出す。親しみのこもった笑顔だった。
「おかえりフィオリエ! 少年じゃなくなったなあ! 俺は守護団の第七隊副隊長のアンセル。覚えてないだろうな! たしか所属隊も変わったと思う。 今、開けるから少し待ってくれ」
アンセルが言い終わるや否や、低く重い音とともに、文様の刻まれた木の門がゆっくり引き上げられ始めた。
*
フィオリエの家は変わらずそこにあった。
白い石のアーチをくぐる。白い石。木の扉。夜になれば灯る魔法灯の台座は以前と違う気がした。楽器を作るのによく使う黒い木を削って作ったものなのは変わらないが、形が違う。くるりと鉤型になった下部に、長さの違う細木を絶妙なバランスでぶら下げたウィンドベルのようなものが揺れていた。かろ、こつん、かろり、と、柔らかで可愛らしい木の音がする。
父親が作ったものだろうか。剣の鞘の、さらに体側に帯びた革のケースの中に、同じ木から作られた小さな横笛がしまってある。フィオリエの最初の相棒であるその笛は、ひび割れていてもうちゃんと音が出ない。何年前からか、自分で彫った別の笛を使っていた。それも持ってきている。
改めてフィオリエは扉に向かって、ノックをするために手を上げた。
夕方の気配はまだ遠いが、昼は過ぎていた。父親は、きっと仕事だろう。最近、『西』も魔物が多いと聞いていた。
(母さんはいるかな?)
手が扉に当たる前に、ぱっと扉が開いてフィオリエはびっくりした。ぴったり、母が扉を開けて、知っていたかのように、すぐフィオリエに視線を合わせた。
しばしの間。フィオリエはようやく言う。
「た、ただいま、母さん。お久しぶりです」
「おかえり、フィオリエ。よく帰ってきたわね、お入りなさいな。父さんは夜には帰る予定よ」
昔のように母は言った。おかえり、と、そう言う一瞬前に、見たことないくらい優しい顔をしたのは、フィオリエの気のせいではないはずだ。
なんだか達観していて、飄々としていて、分からないがすごい存在の母。そういう母だった。ただいま、と言った時、”すごい”それだけではなくて、ただ、自分の母親なのだなと、フィオリエは今更ながら感じて不思議な気持ちになった。
「母さん。全然帰ってこなくてごめんなさい。忘れてたわけじゃないんだ」
「あら本当? 忘れるくらい一生懸命にやっているならそれでもいいのに」
母親に飄々と切り返されて、フィオリエは面食らった。そうだ、こういう人なのだった。面白くなった。
「時々は思い出してたさ」
「それはそれは。50年に一回くらい?」
「いや、10年くらい」
「上等よ! 私は100年してから、そういえば、って思った記憶があるわ」
そう言って笑う母親。冗談だか本気だか分からない。そうそう、こういう人だった。懐かしくなった。そしてその母親と会話する、もう大人になってしまった自分が不思議だった。
「お昼、食べた?」
フィオリエに座るように促して、母親は尋ねた。
まるで昨日もフィオリエがここにいたかのような、ありきたりなやりとり。違和感を感じながらも、かといって、ありきたりではないやりとりが思いつくわけでもない。多分、もっと、変わってしまっただろうと思っていたのだ――。
「いや、まだ」
とりあえず木のテーブルについて、フィオリエは首を振る。
――変わっていないわけではない。ただ、今の自分や母が、こうして話すことができたというだけだ。ありきたりな言葉で、飾らずに。
「そう。あり合わせだけど、なにか作るわ」
「ありがとう。…手伝うよ」
立ち上がろうとしたフィオリエに、いいえ、と、ピシャリ。
「この家の台所は私の。手を出さないでね、フィオリエ。それより、あなたの部屋、泊まれるとは思うけれどちょっとお掃除しておいたほうがいいかもしれないわ。任せていい?」
わかった、とフィオリエは掃除に向かう。あの断り方は何かあったのかもしれない。ともかく、台所は母親のテリトリーのようだ。
部屋には、花が飾ってあった。木彫りの花だ。それが置いてある机は多分、あの頃のままの配置だ。微かに既視感があった。
しかしちょっと歪な花だな、と、フィオリエは近づいて木彫りの花を手に取った。いろんな角度から眺めてみる。全体的に形にはなっているが、花弁の厚さが不自然にまちまちだし、頑張ったのだろうが葉脈は時々間違えて削られている。
そこまで思ってから、ふとフィオリエは手を止めた。
(これ彫ったの俺じゃないか???)
まじまじと花を見る。彫った、かもしれない。ここを出る寸前に。うまくいかなくて途中で投げていたものを、一夜で彫った。たしかそうだ。
本当にあの時の花だろうか。
フィオリエは花を持って階段を降りた。部屋は二階なのだ。
「母さん、これ、俺が彫ったやつ?」
台所を覗いて声をかけると、母親はほとんど振り返らずに、そうよ、と応えた。
「よく覚えていたわねえ」
「こんなふうに彫るの、母さんでも父さんでもないだろ?」
こんな下手に彫るの、と言いかけて、言葉が悪いので訂正した。
「そう? 私はその花のバランスが好きよ」
そう言いながら母は、香草を少し棚から取った。火の魔法を灯した穴の上に、使い込まれた鉄の調理器具…フライパンのようなものだが、深さがない、平たいものだ。
あ、あれか、とフィオリエは思った。あれ。古い記憶が疼いても、名前が出てこない。好きだった気がする、それで作る料理。
「それ、なんだったっけ。俺が好きなやつ?」
「これ?」
母はその鉄の上に、布で油をさっと塗り広げた。傍らの壺を開けておたまで白っぽい生地を垂らし、広げる。
「デリヴェル?」
「そんな厳つい名前だったっけ?」
「厳つい? そう。美味しそう、とも思わない?」
面白そうに問いかける母親。そうか、自分の感じ方が変わったのか、とフィオリエはちらりと思う。
言われてみれば、美味しそう。デリヴェル。
「んん、そうだなぁ。美味しそう」
「美味しいわよ」
母が自信満々に言うので、フィオリエはなんだか安心した。味覚も変わっていても、きっとデリヴェルは美味しいに違いない。
*
夕方になった。西の海に還りかけた太陽が、白い都を橙色の光で染める。
父親の帰りを少し緊張しながら待っていたフィオリエに、母がさらりと言った。
「今日は帰ってこないみたいね。明日、職場に行ってみたらいいわ」
「え、そう。やっぱり、忙しい?」
「忙しいでしょうね。でもそんな理由じゃないわ。私とあの人とが出会って何百年だと思ってるの、ずっとひとつ屋根の下になんて居られるわけ無いでしょ?」
「あぁ、そうだなぁ」
妙に納得した。旅立つ頃のフィオリエならば、少し衝撃を受けたかもしれない。
「この前まで、50年くらい離れていたこともあったわ」
「50年!? この前までって?」
「何年か前。5年くらい前までかしら?」
「ああ、そうなんだ。一人暮らししてたってことか?」
「そうね。放浪もしたし、楽しかったわ」
エルフの夫婦だとそういうこともよくあるようだが、自分の両親もそうなのだと知るのとは訳が違った。50年とは。エルフやディル以外の種族では、離婚も同然だろう。冒険者フィオリエの周りには、エルフ同士の夫婦以外のほうが多かった。
ふとフィオリエは気になって尋ねた。
「母さん、俺は今でも一人っ子?」
「一人っ子よ」
「あ、そう…」
なんだかほっとした。いつの間にか可愛い妹とかいたりして…と思わなくもなかったが。
「仕事忙しいなら、手伝えたらそうしたいけど、どうだろう」
「いいんじゃない? あなたちゃんと冒険者やってきたんでしょ? いっそ冒険者として働いてくれば?」
「あー、たしかに」
「『琥珀の盾』ね?」
母の声でその名を聞くとは思っていなくて、フィオリエは驚いた。
「知ってたんだ」
「風の噂」
「ロードはエルミオだよ」
「どなただったかしら?」
「俺が一緒に旅立った変なやつ」
「ああ、変わり者の旅人さん。私が覚えているなんて相当変わり者ね」
今夜は父親は帰ってこない。明日、フィオリエのほうから会いにいく。そう決まっていつ会うかはっきりすると、なんだか安心した。そして、あれから今までのことを、覚えている出来事を、母親と話した。
夜の都には、静かに微風の音が降る。
*
風の塔が歌う。おはよう。陽の光はまだ山の向こう。太陽より早く、輝くような音が朝を告げる。
フィオリエはその歌の始まりの頃に目覚めて、不思議な気持ちで少し部屋を見回して、身支度を始めた。
ここが自分の部屋だった頃なんてほとんど覚えていない。それでも、起きて窓を見たときや、ベルトを手に取ったとき、机に置いた双剣に手を伸ばしたとき、違和感か懐かしさか分からないが、何かが、ふうっと心の底で動くのだった。
面白いなあ、と少し笑って、フィオリエは愛用の剣を帯びた。
誰かが階段を登ってくる気配がした。足音、物音は消して大きくないが、微かな音の違い、何かの気配がフィオリエにそうと告げる。
とんとんとん、と、強めのノックがあった。ふうっと心の底で何かが動く。この感じを知っている。
フィオリエはにわかに緊張するのを感じた。
――でも、どうせもうすぐ会いにいく予定だったんだ。
返事をして、落ち着いてドアを開けた。
父親がいた。ああ、父も緊張してノックしたのだなと分かる表情だった。父親は…もっと背が高かったというか、大きかった気がしたのだが。19歳のあの頃から、身長がそんなに伸びただろうか。
「父さん、戻りました。何の連絡もなく、ごめんなさい」
父親はもう仕事の格好で、後衛の魔法使いらしく、白が基調のローブに、色の白い木のロッドを携えていた。守護団の中で何かの地位を示す腕章を付けている。なんだっただろうか。
父親はざっとフィオリエの格好を見て、身支度を終えているとみると、言った。
「近頃は魔物が多い。討伐に参加してくれるか?」
参加しなさい、ではないんだな、とフィオリエはどこかで思った。
「もちろんです。よろしくお願いします」
父親はひとつ頷いて、フィオリエに背を向ける前に、ちらりと微笑んだ。
「おかえり、フィオリエ」
何かが弾けたように、突然フィオリエは気がついた。厳格で、無口なくせに色々と口うるさくて、気にしてることをいちいち聞いてきて、…。
「ただいま」
そうか、こんな人だったんだ。
*
守護団第七隊、副隊長のアンセルが、やってきたフィオリエたちに手を上げて笑いかけた。
「父さんも第七隊なんだ」
「ああ、そうだ」
父親は、第七隊の魔法隊長だった。隊長、副隊長、その次に騎士隊長と魔法隊長。その下に、一定期間で変わる、前衛班長とか後衛班長とか補助班長とか細かなリーダーが決められている。
冒険者として参加するフィオリエは準備で動き回っている彼らに挨拶をして回った。知っているような知らないような顔をいくつも見かけた。
「冒険者のフィオリエです。前衛として参戦します――…よろしくお願い…?」
フィオリエはまじまじと、後衛班長を見つめた。後衛班長も、まじまじとフィオリエを見て、吹き出しそうになるのを堪えて笑いで唇を歪ませた。
「後衛班長のクロヴィスだ」
「…おお」
「うん」
「クロヴィスか」
「ああ」
笑いを噛み殺して大真面目に、フィオリエはかっこつけて礼をした。
「『琥珀の盾』サブロード、双剣士フィオリエです。後衛班長クロヴィス殿。ところでパレードの予定は?」
「くそ、覚えてやがったか」
そこまででふたりは大笑いした。
「嘘だろ、覚えてた? お前こそ、今俺が言ったから思い出したんじゃないのか?」
「おいおい、俺のほうが記憶力良かっただろ! パレードだか祭りだか分からなくなっててこっちから触れなかっただけだって」
「半分忘れてるじゃねえか!」
「フィオリエ、お前よく生きてたな!」
「クロヴィスこそ、班長かあ」
「また変わるけどな。お前サブロードかよ。やれてるのかー?」
「失礼だなクロヴィス君。そこそこやってるつもりだよ」
「どうなんだそれ」
クロヴィスは同い年のエルフ族だ。19歳までの月日を、同じ“子供”として都で過ごした。フィオリエは冒険者に、クロヴィスは守護団に。別れ際、フィオリエが立派な冒険者になって帰ってきたら凱旋パレードをするとかしないとか、話したのだ。覚えているもんだな、と、目の前の幼馴染を不思議な気持ちで見る。
すっかり大人だった。そうして二人はここでまた会った。時間を超えたような、妙な感覚だ。
そろそろ持ち場につかなければ、と、フィオリエはふと思い出す。
「じゃ、俺、前行くから」
「ああ、また後で」
後衛班長は軽く手を挙げた。
ふたりの様子を少し離れて見守っていた父がやってきて、私も持ち場に戻る、とフィオリエに言った。
「しっかりな」
そう一言、言わずにはいられなかったのだろう。フィオリエはしっかり頷いた。
「はい」
父親は安心したような柔らかい微笑で頷いた。そんな表情は多分、初めて見た。
心配ばかりかけていたのだろうな、と、フィオリエは思うともなしに思いながら、持ち場へ向かう。
(帰ってきて良かったな――…)
冒険者になって、ここまで色々ありながらもやってきて、ダメなところもあるものの、なんとかここまできて、帰ってこられて。
(生きて待っていてくれて)
ふとそう思って、フィオリエは笑った。こんなふうに思うことなんて、ここにいたあの頃はなかっただろうな、と。
「よし」
しっかりやろう。
*
都から少し離れると、すぐに魔物と遭遇した。
(やっぱり、多いな)
続けざまに3体、大して強くない茸のような魔物を斬り、フィオリエは頭上を通った影に視線を向けた。鳥型の魔物。後衛のほうに通したが、一体なら問題ない。弓士が迎撃するのはわかっていた。
(だがこれは――…俺なら…)
フィオリエがパーティリーダーを振り返ろうとしたちょうどその時、指示が出た。
「一時、撤退!」
(だよな)
進めば、恐らく魔物が沸くように出てくるだろう。1パーティで、この魔物の数を相手に、長期戦はつらい。大体、こんなときは、撤退したい頃に大物が出てくるのだ。
そう思った矢先、上空で何かが光った。ここから少し南の森。赤色の光の筋。隣のパーティからのヘルプだ。
「アンセル隊に合流する! 行くぞ!」
アンセル隊。リーダー格が揃っていて、一番危険なエリアの担当だ。父親もそこにいる。
(アンセルさん、わざとか、本気か分からないな)
ちらりとそんなことを思ったが、とにかく、ヘルプを出すほどの事態であることに間違いはない。
心配はしていなかった。赤は、隣のパーティに支援を求める色。黒だといけない。身も蓋もなく言えば、体勢を整え直せないほどの壊滅状態で、全体へのヘルプが黒なのだ。それでも、ヘルプを出すことはできる状態なのだが。
フィオリエのパーティは速やかに南へ向かった。目的地は数分の距離だ。
もうすぐというところで、獣の咆哮が轟いた。
「シャドウベアか…」
誰かが呟いた。
シャドウベアか、とフィオリエは反芻する。一人の時に見かけたら、まず避けて通る相手だ。なにしろ物理攻撃がなかなか通らない。中~大魔法を使う時間を稼ぐこと、魔法使いを守ることが基本の相手だ。
アンセル隊は散ってシャドウベアを囲むようにして足止めしていた。シャドウベアは知能が低いわけではないから、短時間しか通用しない手だ。それでも、そうしなければならない理由があった。
二体いたのだ。パーティがひとかたまりになっていては、シャドウベアに挟まれてすぐ全滅する。
アンセル隊は6人。フィオリエたちは7人。さらに南側のパーティは6人だったはずだ。もう到着するだろう。
真っ黒…というより”真っ暗”な巨大な獣は、熊に似ているからベアと呼ばれているだけだ。実体化した影、としか表現できない。斬れるし刺さるが、血は出ない。光や炎の魔法によって、ようやくそれなりのダメージが通る。
(よく6人で2体足止めしてたな)
フィオリエは思わず感心する。他の小物魔物がほとんどいないのが救いになっているようだ――たまに寄ってくる茸は一瞬で始末される。ざっと見回すと、どうやら二人の魔法使いが一体を《縛り》で足止めしている。父親も足止め係だ。あと一体を、4人がかりで囲んで混乱させる。見る間に一度、すべての物理攻撃・攻撃魔法を防ぐ《盾》が発動して、シャドウベアの強烈な薙ぎを防いだ。足止めはあと5分もすれば限界だろう。
「セーリュイ、《縛り》に加われ」
「了解」
「先に一体始末するぞ!」
「了解!」
魔法使いは不意打ち狙いで大魔法を詠唱し始める。その動きを悟られぬようにフィオリエは、前衛は、前へ出る。
《縛り》が2~3人交代で。そして大魔法。《盾》。その他小さな補助や攻撃魔法。この地域のマナと、同時に使える魔法の関係。マナは濃いはずだからあまり心配はいらないだろうが、個人がマナを扱える範囲まで把握していない。その範囲の中で魔法を使っては、邪魔になる可能性がある。いくらシャドウベアに剣が通じなくとも、前衛として期待されているフィオリエは魔法を控えたほうが無難だ。
前へ出るフィオリエは《飛び跳ね》の援護を受け、父親に殺気を向けるシャドウベアの背中から斬りつけた。斜め前、父親から離れたところに躍り出て、非情な勢いで飛んできた影の腕をひらりと躱した。
(足止め係狙い始めた。早くしないとやばいぞ)
魔法が構えられていなければ、頭のほうまで跳び、昇って、斬って注意をそらすところなのだが、魔法の邪魔なうえに、網で風を捕まえるようなものだ。
「 グリューエン ランス 」
詠唱の最後の文句がマナを大きく動かした。ぞわっとしてフィオリエはシャドウベアから離れる。少なくとも魔法Lv18の《聖なる光》より強力な魔法がくる。
一瞬で空中に光が集う。陽光が束ねられて密度を増したような輝き。数秒かからず巨大な槍が形成され、振り返ったシャドウベア目掛けて放たれた。太陽の輝きをもつ槍は影を貫き、内側から照らし、焼き尽くす。断末魔が尾を引く。やがて声が消え、影が消え、残像を残して輝きも消え去った。
(すっげ! 流石!)
初めて見る魔法だ。精霊の力を借りたのかもしれない。あと一体。あの魔法をもう一発使えれば楽だが、この後も討伐を続けることを思うと、負担が大きすぎるだろう。
油断せずに、あと一体。丁寧にいくべきだ。
メンバーの動向、指示を待つ。参加させてもらっている身で勝手をしては迷惑だろう。
フィオリエの思ったとおりの指示が出る。節約しつつ、中級までの魔法で、素早く討伐だ。
(カルスペ《刹那の白き雷》、いくぞ)
自分の固有精霊に呼びかけて、フィオリエはシャドウベアに挑む。
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